第27話 朗報?
煉獄のインフェルノを討伐し街を救った俺は、成果を報告するためにギルドへやってきた。カウンターに行くとセシリアが俺の対応をしてくれる。
「ダンテさん聞きましたよ。大活躍だったんですってね?」
「まあな。モンスター軍団の大半を蹂躪した後、敵の親玉を一撃で葬ってやったわ」
「やっぱりSランクスキル保持者の名は伊達じゃないんですね」
「あたりめーよ。ところでまたレベル検査をやってくれないか? 大量の上級モンスターとボスキモンスターをぶっ潰したから、けっこう強くなった気がするんだよ」
「ついでに私も!」
「了解です」
セシリアは俺達の腕に針を刺す。しばらく血を採り続けると針が抜かれ、結果を確かめにギルドの奥へと走って行った。
「結果が出ましたよ!」
「どうだった?」
「まずはジェシカさんから」
「ドキドキ……ワクワク……」
「ジェシカさんのレベルは変わっていませんね」
「えー、残念〜!」
まあ、そりゃそうだろうな。レベル90超えたら次のレベルアップに必要な経験値も莫大になるから、そう簡単には上がらんよ。
「次はダンテさんですが……」
けっこう上がってるだろ。一人で七〜八百匹くらいは倒したんだぞ。そうとわかっていても、この瞬間ってのは何か緊張するな。実は俺って自分が思ってるよりメンタル弱いのかも。
「レベル40ですね」
「まあまあレベルアップしてるけど、思ってたより上がらないな……」
「ダンテさんが今回倒したモンスター達は、強い割に経験値が少ない種族ばかりで……」
マジかよ。まあ大した苦労もせずに大幅にレベルアップできるほど人生は甘くないか。レベルが二倍になったんだからそれで良しとしよう。
でも俺の弟子はほとんど苦労せずに簡単にレベル90超えてるよな……そんな秘薬を簡単に娘に渡せるあいつの父親はどんな人物なのだろうか。
「何か新しいスキルは覚えてるか?」
「三つ覚えています!」
「三つも!? とりあえず、一つずつ説明してくれ」
「まず一つ目が『スプラッシュ』です」
名前から察するに水属性のスキルか。水属性って馬鹿にされがちだが、水圧をめちゃめちゃ強くすれば鉄も切断できるらしいし意外と良いスキルかもしれないな。
「手から水を出せます。だいたいコップ半分くらいですね」
「コップ半分!? そんなクソスキルをどう活用しろと」
「砂漠で遭難しても安心です」
あー、なるほど。そういう使い方があるのか。戦闘では全く役に立たなくても、他のところで活用できるんだな。よくよく考えると魔力が尽きない限り、水を生成し続けられるってすごいことだわ。
ブリザードはかき氷屋台に使えたし、スプラッシュも商売に使えるかもな。後でジェシカにも知恵を借りよう。
「それで二つ目は?」
「二つ目は『ウィートフラワー』です」
「名前からは想像もつかないようなスキルだな。何かトリッキーな感じか?」
「小麦粉を出せます」
「は?」
「小麦粉を出せます」
「ん? 聞き間違いかな?」
「だから、小麦粉を出せます!」
どうやら俺の耳は正常みたいだ。そういえば「ウィート」は「小麦」で、「フラワー」は「粉」って意味だったな。だから「ウィートフラワー」で小麦粉を生成できるスキルという訳か。うん、しょうもないな。
「これはどうやって使うの?」
「ウィートフラワーで小麦粉を生成、スプラッシュで水を生成、そしてファイアーボールで加熱すればパンが焼けますね」
「師匠、今日から私達はパン職人です!」
冗談抜きでパン職人になろうかな。戦闘向きのスキルが全然手に入らないんだもん。これって俺は戦うべきではないという神のお告げだろ。
「それで最後は?」
「最後のスキルはですね……」
どうせ最後もゴミみたいなスキルだろ? 期待するとろくなことが無いから、期待せずに聞いてみよう。
「Aランクスキル『詠唱短縮』です!」
「Aランクスキルか、良いねえ! どんなスキルなんだ?」
「名前のまんまですね。魔法を使う時にしなければならない詠唱が、短時間でできるようになります」
「短時間ってどれくらい?」
「使用者のレベルによって効力が異なるんですが、ダンテさんのレベルだと通常の半分くらいですかね。レベル90くらいになると一秒もかからず詠唱ができるようになりますよ」
「へー、すっごいな。初めて実用的なスキルが手に入った気がする」
「良かったですね、師匠! これで効率良くパンが焼けます!」
まあ詠唱時間が短くなったといっても、まともに戦闘に活かせそうなのってファイアーボールくらいだもんな。ならパン職人目指した方が良いかもしれないな。アンパンに魂を吹き込んで正義のヒーローでも作ろうっと。
「郵便でーす!」
俺が新スキルの使い道に思いを巡らせていると、ギルドの中に郵便の配達員が飛び込んで来た。かなり息を切らしている。相当急いで来たようだ。
「ダンテ・ウィリアムズさん宛てに、冒険者ギルド本部から速達です!」
ギルド本部とは全国に点在するギルド支部の上に存在する組織だ。都の中心部に位置しており、この国の全ての冒険者達を統括している。
そんなギルド本部から俺に速達? 何かやらかしたっけな? わかったぞ、借金の取り立てか! 三千万ゴールドの借金を一銭たりとも返していなかったからな。とりあえず少額だけでも返しておくか。
俺は受け取った封筒を開け、中から手紙を取り出す。
「ジェシカ、読んでくれ」
「はい! え〜、なになに……『ダンテ・ウィリアムズ殿。貴殿は凶悪なモンスターである煉獄のインフェルノを討伐し国の危機を救った。ここに感謝の意を表する』」
「本部がわざわざ俺に感謝状を送って来たのか。本物のヒーローになった気分だぜ!」
それにしても俺がインフェルノを倒してから、まだちょっとしか経過してないぞ。この街と都ってそれなりに距離があるのに、あまりにも情報が早過ぎてビックリだ。下々の国民にはわからないような秘密の情報網があるのかもな。
「まだ続きがあります。『貴殿の功績を讃えて借金は帳消しとする』ですって!」
「え、今何て言った? 借金を帳消しにするって?」
「はい! 良かったですね、師匠!」
「よっしゃぁぁーー!」
俺は腹の底から歓喜の声を上げる。それは今までの人生で一番だった。
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