第26話 ボスキャラ!?
「師匠! 私、十匹くらい倒しましたよ!」
「おー、それは良かったな。んじゃあ、帰るか」
「はい!」
「我が下僕を倒すとはやるではないか」
俺達が帰ろうと踵を返すと、背後から謎の声と共に頭に雷のような激痛が走った。どうやら俺の索敵スキルが反応したらしい。奴からはとてつもないパワーを感じる。恐らく結界を破ったのはこいつだろう。並大抵のモンスターじゃ、あの強力な結界は破れない。
「うわっ、何だ!?」
「ボスっぽいのが現れたぞ!」
「超強そうだ!」
うーわ、ここにきてボスキャラですか。前座を始末してから真打登場ってのはお決まりのパターンだけどさ。多分ボスが自分語りする流れになるから、とりあえず聞いてやろう。
「我こそは煉獄のインフェルノ。魔王軍幹部のうちの一人だ!」
煉獄のインフェルノとかだっせえ名前。頭痛が痛いとかと言ってる事変わらねーぞ。いや待てよ、それよりも何か気になることを言っていたな。
「魔王軍とは何のことだ! そんな組織、聞いたこともないぞ!」
リュートが俺と全く同じ疑問を口にする。ていうかお前生きてたんだな。本当、命は大事にしろよ。
クククと不敵に笑うと煉獄のインフェルノは問いに答える。
「つい最近、我々魔族の中から格段に強いお方が現れた。そのお方は圧倒的カリスマ性で魔族達を従え、魔王となった。そして結成されたのが魔王軍だ」
「お前達の目的は何だ!」
「決まってるだろう。この世界の支配だよ」
「そんなことは、僕が許さない!」
俺が爆発スキルであーだこーだやってる間にそんな物騒な組織が誕生していたとはな。ここ最近目撃されていた凶悪なモンスターは奴の手先だったという訳か。この街を襲撃する前に部下に下見をさせていたといったところだろう。
それにしてもその魔王軍とやらはどうしてこんな辺境の街を狙うんだ? 世界を支配したいならもっと大都市を狙うべきだろうに。
「煉獄のインフェルノ、お前はこの僕が相手する!」
「お前は確か……リュートとかいったな」
「どうして僕の名前を!?」
「名のある冒険者は既にリサーチ済みだ。魔王軍の情報網を舐めるなよ」
「魔族の方々にも名前を知られているとは光栄だね。さあ、勝負だ!」
お前、さっきあんなにボコられておいてよくそんなにノリノリで戦えるよな。何かの主人公かよ。
「そう焦るな、リュートよ。我はお前には用は無い」
「何?」
「我はこの街を滅ぼしに来た訳ではない。Sランクスキルを持つ冒険者を捕らえにきたのだ」
え、それって俺のことじゃね? こいつは俺を捕まえるためだけにあれだけの軍勢を率いてやって来たってこと? 自分で言うのもなんだけど、俺ってそこまでする価値無い人間だと思うぞ。
「Sランクスキル? そんな奴はこの街にはいない!」
ここにいるんだよなあ……お前のすぐ後ろにいるアイマスクの男がSランクスキル持ちなんすよ。こいつ気絶してたから俺の爆発スキル見てないのか。
「隠しても無駄だ。この街にSランクスキル持ちが二人いることは既にわかっている。その中のルヒィとかいう少年は始末したが、まだ一人残っているはずだ」
マジかよ、ルヒィ君死んじゃったのか。弱そうだったけど、良い奴だったのに。今度お線香あげに行こう。
「Sランクスキルの冒険者を差し出せば、他の奴らは見逃してやろう。さあどうする?」
「師匠、あんなこと言ってますけど気にせず逃げちゃいましょう。他人の命より自分の命を守りましょう!」
「お前、本当にゲスいこと言うようになったな。純粋で可愛かった頃のお前が懐かしいよ」
「師匠のことを心配して言ってるんですよ! さっさとトンズラしちゃいましょう!」
「まあ、そうだな。そろ〜り、そろ〜り……」
「そこのお前、逃げようとしてるのバレてるぞ! ダンテ・ウィリアムズ、お前のことだぞ!」
やっぱバレちゃいますよね〜。名前も流出しちゃってるみたいだし、この様子だとスキルのことも……
「お前がSランクスキル持ちなのはわかっている!」
ですよね〜。これで逃げ切れる可能性は絶望的になりましたとさ。
「できれば戦いたくないんすけど、どうにか穏便に済ませられませんかねえ」
「穏便に済ませたいのか。ならば、素晴らしい提案をしよう」
「何でございましょうか」
「お前も魔族にならないか? 魔族にならないなら殺す」
闇堕ちを誘ってくる敵キャラ、またまたベタな展開が来ましたねー。魔族になったら命は助かるが、人間としての尊厳を捨てることになる。ならば答えは決まっている。
「喜んで魔族にならせていただきまーす!」
人間としての尊厳とかどうでも良いねえ! もともと尊厳もクソも無いような人生送って来てたしな。まちカドのまぞくとか流行りらしいし、俺が魔族になっても許されるだろ。魔族としての活動名はシャドウミストレスダンテとかにしよう。
「え、お前そんな簡単に決めちゃって良いの? もっと葛藤するかと思ったんだけど」
「葛藤とか無いですね。早く俺を魔族にしてください! 一緒に人類を恐怖に陥れましょうぜ!」
「どうしようもないクズだな、お前……まあ良い。ならば魔王城まで来るのだ」
「うぃっす!」
「駄目です、師匠!」
せっかく決心した俺の手をジェシカが強く引っ張る。
「何だよ、お前。俺の命が一番大事って言ったろ?」
「そりゃあ師匠には生きてて欲しいけど、私の前からいなくなっちゃうのは嫌です! ずっと一緒にいてください!」
うわ、すっげえ良いこと言ってくれるじゃん。ヤバい、本当に泣いちゃいそうだからやめてくれ。そういうこと言われ慣れてないからよ。
「悪いなインフェルノ。やっぱり、魔族になる話は無かったことにさせてくれ。うちの弟子を見捨てて魔族になるわけにはいかないわ」
「やはりな。お前ならそう言うと思っていたぞ」
「え?」
「お前は口では外道なことを言っていても、完全な悪人にはなりきれない、そういう奴だろう?」
「へー、出会ったばかりなのに随分と俺の内面を見透かされちまったみたいだな」
「それでは交渉は決裂ということで良いな?」
「ああ。戦闘開始だな」
「それならこちらからいかせてもらおう。くらえ、『冷凍ビーム』!」
おいおい、煉獄のインフェルノってどう考えても炎属性の名前だろ。何で氷属性の攻撃してくるんだよ。
俺はとりあえずアイマスクを外す。俺に向かって一直線に飛んでくる氷のビームが、爆発の衝撃で相殺された。
「ククク、少しはやるようだな……って、ぐわぁぁっ!?」
敵の攻撃を防いだ俺はすかさずインフェルノの姿を凝視する。奴は木っ端微塵に弾け飛んで消え去った。
「師匠、流石です!」
「あれ?」
ボスキャラなのにあっけなく倒しちゃったみたいだな。この前の彷徨える魂みたいにギリギリの戦いをしたかったのに。
「うおおおお!」
「すげええええ!」
まあ皆の歓声が気持ち良いから良いか。これで俺も街の人気者だ!
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