第24話 転生したら無双できるか

「帰る前に商店街でも寄ってくか。何かおやつを食べたい気分になっちまった」


「やったー! おやつ、おやつ!」


 俺達は商店街の菓子屋に足を進める。すると突然、俺の肩を何者かに掴まれた。

 ビビるからやめろよ、マジで。視力が無い人間は急に後ろから来られるのが怖いんだよ。ちょっとは福祉の勉強をしてほしいね。


「おい、お前!」


 話しかけて来たのは俺と近い年頃の男だ。気に食わない声のトーンしてんな。こいつとは仲良くできそうにないと直感的にわかる。


「何だ?」


「お前、これを舐めてみろ」


 謎の男は俺にスプーンを渡す。とりあえず言われた通りにペロリと舐めてみる。うん、美味しい。普通に美味しい。


「美味いだろ? これはな……」


「マヨネーズだろ?」


「そうそうマヨネーズ……って、え? マヨネーズ知ってるの?」


「おう。毎日のように食卓に並んでるぞ」


「もしかしてお前も俺と同じ世界の……」


「いやいや、普通にこの世界で生まれて、この世界で育ったぞ」  


「ど、どうして……」


 こいつは異世界転生者か。この様子だとついさっきこの世界にやってきたばかりだな。


「まだまだ! お前、この棒をよーく見てろ」


「悪いな。とある事情で俺はアイマスクを外せねえんだ。この愛弟子に見せてやってくれ」 


「ふむ、このチビすけか」


「チビすけって言わないでください!」


「まあ良い。しっかり見てるんだぞ。この棒の先端を箱に擦りつけると……」


「それマッチですよね?」


「なーんだ、マッチか。まあそんなことだろうと思ったぜ」


「え、お前らマッチ知ってるの?」


「知ってるも何も、その辺の売店で買えるぞ。俺は魔法で火がつけられるようになったから、もういらないけどな」


「そ、そんな……」

 

 男は地面に崩れ落ちる。こりゃあかなり落ち込んでるな。こういう奴を見るのはこれで何度目だろうか。


「正直に言え。お前、異世界転生して知識無双しようとか浅はかなこと考えてたろ」


「は、はい……」


「この世界ってさ異世界人けっこういるんだわ。俺の通ってた学校だと、一クラスに一人か二人は異世界人いたし」


「そ、そんなに!?」


「これだけたくさんいたら大抵の知識は流れ込んでくるわけよ。そのお陰でこの世界はここまで発展してきたんだ。もちろん、まだまだ未発達の部分もあるがな」 


「じゃあ、俺はどうしたら……」


「並大抵の人間じゃ知識無双は無理だぞ。お前達の世界ではスマホとかいう便利な代物が普及しているらしいな。それを開発できるとかなら知識無双も可能だが」


「俺、文系だから無理だわ」  


「文系ねえ、何が得意なの?」


「法律とかそこそこ得意」


「そこそこ得意ってどんなもんよ?」


「Fラン大学のテストで唯一まともに問題を解けた」


「そんなんじゃ無双は無理だわ。六法全書暗記できるくらいじゃないと」


「は? 六法全書なんてあるの?」


「あるぞ〜。昔、優秀な弁護士が転生してきて、そいつが書いたんだよ。刑法とか民法とか、この世界も法律ガチガチだぞ」


 俺が爆発スキルで森林を破壊したり地面に大きな穴を開けたりしているのは犯罪にあたるのだが、街の外だとセーフらしい。モンスターと激戦を繰り広げると少なからず周りに被害が出るからな。俺ほど周囲を破壊する奴は他にはいないだろうけど。

 この世界の法律は、元になった異世界の法律から少し調整されている。特に冒険者に対して色々と寛容になっている。冒険者がいないと平和を維持できないからな。


「わかった。知識無双は諦めよう」


「おう、その方が良いぜ。別に無双なんかしなくたって、この世界はそれなりに楽しいぞ。そういえばお前の名前を聞いてなかったな」


「俺は鈴木拓人だ」


「俺はダンテ。よろしくな、拓人」


「私は一番弟子のジェシカです!」


「おう、よろしく。なあ、この世界には冒険者ギルドってあるのか?」


「あるぞ」


「じゃあそこに連れて行ってくれるか? 知識無双が無理なら、チートスキルで無双してやる!」


 こいつ無双への憧れを捨てきれないのか。多分、無理だと思うけどな。楽に強大な力を得たいって気持ちは分からないでもないけど、世の中はそこまで甘くないぞ。

 まあとりあえず連れて行ってやるか。


「ついてきな!」


 俺は慣れた足どりでギルドへ向かう。白杖の使い方もマスターしたし、この街の中はもう自由に移動できるぜ。










「ほら、ついたぜ」


「ここが冒険者ギルドか。何か役所みたいだな」


 最初来たときの俺も全く同じ感想を抱いた。ギルドは男の憧れだってのに夢も希望も無いよな。


「この時間帯は空いてるからすぐ対応してもらえるだろうよ。カウンターに行ってこい」


「はいよ!」


 拓人は意気揚々とカウンターへ向かう。昔の俺もあんな風にワクワクしてたな。授かったSランクスキルがゴミ過ぎて絶望したけど。


「鈴木拓人さん、本日は職業適性を判定しに来たということでよろしいですか?」


「そうだ」


「それではこちらの神器で判定いたします」


「へえ、神器ねえ……ってガラガラじゃねえか!」  


 やっぱそれガラガラだよな。誰がどう見てもガラガラにしか見えねえよ。俺が異常な訳じゃなくてほっとした。


「それではこちらの神器のハンドルを持って一回転させてください」


「了解」


 ガラガラガラガラと心地の良い音が聞こえる。


「その玉に書いてあるのがあなたの職業です」


「あれ? 何も書いてないんだけど」


「あ、本当ですね」


 まあ予想通りといったところだな。拓人は呆然としちゃってるみたいだけど。


「拓人さんの適性職業は無しということになります」


「は? 無し?」

 

「そりゃそうだ。適性職業っていうのは本人の才能によって決まるんだよ。筋力のある奴は戦士になるし、魔法の勉強をたくさんした奴は魔法使いになる」


「俺にだって何かしらの才能はあるだろ。適性職業無しってのはあんまりだ!」


「前の世界でどんな生活送ってた?」


「大学をサボって、家でゲーム……」


「そんなんで職業の適性がつくわけないだろ。転生したからって無条件で強くなれる訳じゃないんだぞ。努力をしろ、努力を!」


 こんな偉そうなこと言ってるけど、実は俺もあんまり努力してないんだよね。学校の授業ほとんど寝てたし。俺が賢者になれたのは完全に生まれ持った才能だ。


「せっかく転生したのに無職は辛い。頑張って上級職に就くぞ!」


「おー、頑張れよ〜」


 拓人は急にスイッチが入ってギルドの外に飛び出した。俺達は手を振ってそれを見送った。









「変な人に絡まれちゃいましたね〜」


「だな。まあ、もしかしたらこれも何かの縁かもしれん。あいつにも幸せになってもらいたいものだ」


「ですね!」


 拓人とのドタバタが終わり、俺達はギルドの外に出ると、今後こそ帰るぞと家に向かって歩き出す。しかし、いつもの街並みにどこか違和感を感じる。


「なあ、何かやけに騒がしくないか」


「ですね。悲鳴とか聞こえてくるし、何か事件でもあったのでしょうか。露出魔とか?」


「あー、露出魔か。最近よく出没するよな。」


 そんな話をしているとジリリリリと、ベルの音がけたたましく鳴った。これは非常事態時に流れる警報音だ。そんなに凶悪な露出魔が現れたのか?


「皆さん、避難してください! 危ないので避難してください!」


 おっとこの声はセシリアじゃないか。住民の避難誘導もギルドの仕事らしい。  


「おいセシリア、何があったんだ?」


「ダンテさん! 実は、凶悪なモンスターの軍団が街に向かっているんです」


「別に心配することないだろ。街の周りには、モンスターを寄せつけない結界が貼られてるんだから」  


「それが何者かに破られていたんです!」


「え、まずくね?」


「そうなんです、まずいんですよ! 今、街の入口に戦闘員達を参集していますが、正直勝てるかどうか怪しいです」

 

 モンスター軍団の襲撃とか今まで聞いたことないぞ。もしかしたら俺の故郷が滅びちまうってことか。それは見過ごせないな。


「俺も行く!」


「大丈夫なんですか? ダンテさんのレベルよりも遥かに強いモンスター達ですよ!」


「問題ない。いざとなったら爆発スキルで全てぶっ飛ばす!」


「わかりました。自分の命を第一に考えてくださいね!」


「ああ!」


「師匠、私もお供します!」

 

「よし、ついて来い!」


 俺とジェシカは街の入口へ走り出した。


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