第23話 楽しい遊園地
「師匠、起きてください!」
ジェシカのやかましい声で目が覚める。せっかくの休日だってのに気分の悪い目覚めだ。
「どうした?」
「遊びましょう!」
「断る!」
そんなくだらない用事で俺を起こしたのかよ。昨日までダンジョンに潜っていたせいで、ろくに眠れていないんだ。今日一日は失った睡眠時間を取り戻すために使うと決めている。
「遊びましょうよ! 遊びましょうよ!」
「ガキみたいなことを言うな! このロリババアが!」
「見た目がロリっぽいのは認めますが、ババアは酷いです! まだピチピチの二十歳ですよ!」
「すやぁ……」
「だから寝ないでください!」
ったく……こいつはどうしてこんなに元気なんだ? 昨日激闘を繰り広げてヘトヘトになっていたはずなのに、もう回復したってのか。戦闘能力は雑魚な癖に、無駄な体力ばっかりつきやがって。
「もしもーし! 聞こえてますかー?」
「あー、もうわかったよ! 遊んでやれば良いんだろ? 遊んでやれば!」
「やったー! じゃあ早く着替えてください!」
着替えるって外出るのかよ。できれば家の中でできる遊びが良いんだがな。まあどうせ文句を言ったところで聞かないだろうし、大人しく従っておこう。
俺は歯を磨いて服を着替え、外出の支度を整える。腹減ってるけどジェシカが早く出かけたそうだから、飯は外で食おう。幸い金ならたくさんあるからな。
「それじゃあレッツゴー!」
「レッツゴー……」
「良いか? 落ちそうになったら、落ちるって言えよ?」
「え、何でですか?」
「俺は何も見えないから、急に落ちたらビビるだろ。だから心の準備をしておきたいんだよ!」
俺達は最近この辺にできた遊園地に来ている。異世界から転生してきた建築士が作ってくれたのだ。転生者はほとんどニートとか無能な奴ばっかりなんだが、たま〜に優秀なのが来るんだよな。そいつらのお陰でこの世界もだいぶ発展している。
今、俺達はジェットコースターとかいう乗り物に乗っている。人力で坂の上にトロッコを押し上げて、そこからズドーンと落とすのだ。人が乗ったトロッコを運ぶのはかなりきついが、バフ魔法をかけてスタッフの筋力をアップさせている。
ちなみにメリーゴーランドとか観覧車とかも全部人力だぜ。異世界ではこういう時には機械を使うらしいが、まだ機械に詳しい転生者は一人もいないんだよな。まあだいたいの魔法で機械の代用できるから問題は無いんだけど。
ただバフ用の僧侶とか乗り物を動かすためのスタッフを大量に雇わないといけないから、人件費はめちゃめちゃかかっている。しかし国が遊園地産業にかなり力を入れているため、多額の税金でどうにかなっているそうだ。
「どうだ? そろそろ落ちるか?」
「内緒です! いつ落ちるか分からない方がドキドキして楽しいでしょ?」
「は? お前、何言って……うわぁぁぁ!」
トロッコが突然急降下する。その直後、急上昇、急旋回を繰り返す。
「ヤバいヤバいって!」
「あはは! 楽しいー!」
何も見えない中、猛スピードで走り続けるのは超怖い。視覚による情報がシャットアウトされていると、次に何が起こるか予想ができない。人間は「分からない」ということを何よりも恐れるのだ。
「楽しかった〜! 風を切るのは気持ち良いですね!」
「一通り乗って満足したか? そろそろ帰るぞ!」
「あっ、マスコットモンスターのネズミーマウスだ! 帰る前にあの子と触れ合ってきても良いですか?」
「あのな、ネズミーマウスは……」
こいつマスコットのことをモンスターだと思ってるのかよ。二十にもなってそれはヤバいぞ。ここらで真実を告げておく必要があるな。あれは着ぐるみで、中には汗だくのおっさんが入ってるって。
「ん? 何ですか?」
な、何て輝いた目をしているんだ! 何も見えないけど、そこに純粋無垢な瞳があるのが伝わってくる。この瞳を汚す訳にはいかないか……
「何でもない。ネズミーマウスと遊んでこいよ」
「はい!」
ジェシカはネズミーマウスの元へトテトテ走っていく。
「こんにちは! ネズミーマウスさん!」
「僕はネズミーマウス! ハハッ!」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!」
うるせえな、発狂すんじゃねえよ。確かにマスコットが喋るのは俺も少し驚いたけどよ。
「僕はモンスターだからね、喋れるんだよ!」
「すごいです、すごいです! もっと色々喋って!」
「僕はネズミーマウス、八百十歳。地獄のヘルフォレストの出身だよ!」
何か禍々しい所の出身なんだな。夢の国のキャラクターとは思えない。
ていうか地獄のヘルフォレストって何だよ。訳すと地獄の地獄のヘルフォレストじゃねえか。頭痛が痛いと同レベルだな。
「得意技は死の呪い、文字通り人を呪い殺せるよ。人間共を恐怖に陥れることが夢なんだ!」
「わー、可愛いー!」
おい、可愛いか? めちゃめちゃ怖いこと言ってるんだけど。子供泣くぞ。
その後、ジェシカはネズミーマウスに思う存分遊んでもらい、俺の元へと帰って来た。
「楽しかったです! ネズミーマウスが風船をくれました!」
「おお、そりゃ良かったな。じゃあ帰るぞ!」
「はい!」
俺達は遊園地を後にして家に向かって歩き始めた。
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