第22話 新スキル獲得?

 体中の痛みに耐えながら歩き続け、洞窟の外に出た。そして、馬車に乗り込んで街に戻った。座席に座った瞬間に今までの疲れがどっと押し寄せて、俺もジェシカも車内ではずっと爆睡していた。

 街に到着すると、とりあえず顔見知りのあの僧侶に回復をしてもらった。相変わらずぼったくりだが、早く痛みから解放されたかったから大金を払ってやったぞ。二人合わせて三万ゴールドもかかった。前より値上げしやがって、本当にあくどい商売だぜ。

 完全回復した俺達はその足でギルドへ向かった。


「ふぅ〜、ダンテ様が帰ってきたぞ!」


「ただいまで〜す!」


「ダンテさん、ジェシカさん! 帰ってきたんですね!」


 セシリアがドタドタと足音をさせながら、俺達の方へ駆け寄ってくる。そして、俺の両手に手を添えた。


「生きていたんですね!」


「何だよ、死んだかと思ってたのか?」


「だって三日間も帰って来なかったから……すっごく心配でした……」


 鼻をすする音が聞こえる。泣いているようだ。

 俺達は洞窟の中で三日間もすごしていたのか。閉鎖されたダンジョンの中だと時間の感覚が狂うんだな。


「心配かけて悪かったよ。だけどその分、たんまりと稼いできたぜ」


 俺はコアの入った袋をセシリアに渡す。


「こんなにたくさん! これだけあれば十万ゴールドにはなりますよ!」


「マジか、やったぜ!」    


「お菓子食べ放題ですね!」


 俺とジェシカは喜びのあまり、強く抱き合った。


「そちらのピカピカの箱は何ですか?」


「お、これか? 実はだな……」


 俺は今回の洞窟探検で起こったことを全て話した。


「太古の洞窟の最深部に財宝が眠っているという噂は本当だったんですね」


「そんな噂があったのか?」


「昔からある有名な話ですよ。ただ、今まで最深部に行って帰ってきた人が一人もいなかったので真偽の確かめようが無かったんです」


 まあ確かにあそこの最深部にたどり着くのはかなりきついかもな。選択肢が十個ある分かれ道を十回正解しないといけないとしたら、単純計算で百億分の一の確率だ。実際はもっと多かったので、最深部に行ける確率はめちゃめちゃ低い。もしたどり着けたとしても、並の冒険者では彷徨える魂に勝利するのは困難だろう。俺もジェシカがいなければ負けていた。


「早速開けてみようぜ!」


「そうですね!」


 セシリアはギィーという音をさせながら宝箱を開けた。


「これは……紙の束……でしょうか? 古代の文字で何か書かれています。解読してみるので少し待っていてください」


 古代の魔法書か何かか? 金銀財宝を想像していたが、こういう文化的価値のあるお宝も悪くないな。

 それにしてもセシリアって古代文字が読めるんだな。ただのギルドの受付嬢とは思えないほどエリートだ。もしかするといつか大出世するかもな。

 

「解読できました! 『好きだ。なぜ好きか、理由なんて無い。どこが好きか、そんなのも無い。ただあるのは、君が大好きだということ』と書いてあります」


「は? 意味不明なんだが」


「他にもありますね。『君のことを忘れられない僕がいる。あれからどれだけの時を過ごしただろう。君はもう僕のことを覚えていないかもしれないけれど君に贈るよ。〜My Sweet Sweet Angel,I love you forever〜』何か気持ち悪い文章ですね」


 何か聞いているだけで体がゾワゾワしてくるんだけど。こういうのを共感性羞恥っていうのかな?


「それでその謎の文章の正体はなんなんだ?」


「どうやらこれは何千年も昔のサマヨエール・タマシイという人物が書いたポエム集のようです」


 サマヨエール・タマシイってあの彷徨える魂のことだよな? すげえ名前してんな。あいつの親は何を思ってそんな名前をつけたのだろう。


「つまりあの幽霊は過去に自分が書いた恥ずかしいポエムを洞窟の最深部に封印して、何千年も守り続けていたってことか?」


「そういうことになりますね」 


「こっちは死にかけたってのに、得た物は古代人のポエムだけ!? くっそ、ふざけんなよ!」  

「師匠、落ち着いてください! 古代人の感性を知ることのできる貴重な資料ですし、博物館に持っていけば高く買い取ってもらえるかもしれませんよ!」


「こんなくっせえポエム売れるか?」


「昔の人の日記とかが展示されていたりしますし、これにも需要があるかもしれません」


 まあ今度持って行ってみるか。何千年もの時を経てポエムを晒されるサマヨエール・タマシイさんが可哀想な気がするがな。ちゃんと成仏できてると良いな。


「アンデッドモンスターをたくさん討伐したことですし、レベルもかなり上がっていることでしょう。血液検査してみませんか?」


「よし、頼むぜ!」


 腕に針を刺し採血をする。針の痛みにも慣れてきたな。ジェシカも泡を吹かなくなってるし。


「結果が出ましたよ!」


「どうだった?」


「ダンテさんのレベルは20にまで上がっていました! 恐らく、彷徨える魂の経験値が莫大だったのでしょう」


「よし! これで初心者脱却だぜ!」


 冒険者の間では初心者、中級者、上級者という序列がある。公式的に定められた序列ではないが、長年の時をかけて冒険者達に根付いている。一般的に中級者はレベル20以上、上級者はレベル60以上と位置づけられている。


「それに新たなスキルを二つ修得していますね」


「二つも!?」


「一つはEランクスキル、ファイアーボール。大抵の初心者魔法使いが最初にマスターする下級魔法ですね。ブリザードと違って、ちゃんと相手にダメージを与えられる実用的な攻撃魔法ですよ」


 やったね。今までまともな攻撃魔法が無かったせいで、賢者なのに物理攻撃ばっかりしてたから下級魔法でも使えるようになって嬉しいぜ。


「ジェシカ! 魔法陣を……」


「ギルドの中での試し撃ちは駄目ですよ! 普通に火事になりますから。また弁償してくれるのなら良いですが」


「冗談だっつーの! それでもう一つはどんなスキルなんだ?」


「Bランクスキル、索敵ですね」


「索敵?」


「自分に敵が近づいてきていることを察知できるスキルです。モンスターだけでなく自分に敵意を持った人間なども察知できますよ」


 なかなか便利なスキルじゃないか。目が見えないから突然通り魔に襲われたりしたらどうしようと不安に思っていたが、索敵スキルがあれば安心だな。


「ジェシカさんもレベルアップしていますよ。レベル92です!」


「本当ですか!? わーい、わーい!」


「スキルも修得していますよ!」


「どんなのですか?」


「Aランクスキル、魔力覚醒です!」


 またジェシカはAランクスキルを獲得したのか。俺よりもレアなスキルをゲットしていて羨ましいな。まあレベルが90超えだから当然といえば当然なのだが。


「Aランクスキル! 嬉しいです〜!」


 ピョコピョコ跳びはねていてなんか可愛いな。


「魔力覚醒ってどんなスキルなんだ?」


「魔法の威力が十倍になります。最下級魔法のブリザードでも相手を氷漬けにできますよ」


 何それ超強いじゃん。そんなに強いのにAランクなんだな。まあSランクはそれを超えるチートばっかりだからか、俺のスキルを除いて。


「でもさ、ジェシカって魔法使えないよな? その場合どうなるんだ?」


「どうにもならないですね」 


 つまり激レアスキルをゲットしたのに、本人が雑魚過ぎて何の役にも立たないってことか? 魔力覚醒を俺が修得すればもっと有効活用できたのによ。この世界の神様は麻薬の常習犯なんじゃねーのか? ちくしょうめ!



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