第21話 ダンジョン探検④
「貴様、なかなかしぶといな……」
奮戦の甲斐あって相手もかなり弱ってきているようだ。俺のスタミナが切れるのが先か、奴が焼かれて消滅するのが先かの耐久戦になりそうだな。ここに来るまでたくさんの困難を乗り越えてきたんだ。負ける気がしないぜ!
「貴様は我と耐久戦をしようと考えているな?」
考えを見透かされていたようだ。だが問題は無い。恐らくあいつの攻撃手段は火の玉しか無いだろう。他に攻撃手段があるならとっくに使っているはずだ。だからどの道、お互いに耐久戦以外の方法は無いはずだ。
「お察しの通り、我には死者の魂を利用した火の玉以外の攻撃手段は無い」
「だろう?」
「だからといって耐久戦にしかならないと決めつけるのは早計だぞ?」
「何!?」
「貴様が打ち返せない攻撃をすれば良いだけのことよ!」
いくつもの小さな火の玉が一箇所に集まり巨大な火球に変化した。飛んでくる火球を俺は必死に避け続ける。流石にあんなでかいのは打ち返せないよ。白杖もろとも俺の体が燃えちまう。
「初めはお遊びのつもりで小さい玉だけで戦っていたが、我も負けるわけにはいかんのでな。悪いが本気を出させてもらうぞ。最後にもう一度だけチャンスをやろう。大人しく箱を置いてここを立ち去れ」
「何度も言っているだろう? 俺は逃げねえ!」
「若者よ、素直に負けを認めることも強さなのだぞ。まあ、もう何を言っても聞かないのだろうがな」
巨大な火球が隕石のように降り注ぐ。俺は素早くステップを繰り返して回避し続けるも、着地をミスして足を捻ってしまう。
マズい、足が動かない。避けないといけないのに動けない。ヤバいヤバいヤバいヤバい……
「うわぁーー!!」
回避することができずに巨大な火球をもろに喰らう。そのまま俺は地面に倒れ込んだ。全身に力が入らない。レベルが高くなったお陰で、どうにか生命を維持できているがそれも長くは続かないだろう。
「貴様はなかなか骨のあるやつだった。久しぶりに楽しい戦いができたぞ。さらばだ、強き若者よ」
宙に浮かんでいる火球がどんどん大きくなっている。奴はあれを俺に落としてとどめを刺すつもりなのだろう。
ああ、俺死ぬんだな……今までの人生の走馬灯が流れる。短い間だったがジェシカやセシリアと一緒に暮らせて楽しかったな。あいつらはろくでもない俺の人生に彩りを与えてくれた。来世でもあいつらと巡り会いたいものだ。そんなことを考えながら、俺は死を覚悟して目を閉じた。
「私の大切な師匠をいじめるなあー!」
その時、ずっと隠れていたジェシカが突然姿を現し、彷徨える魂にポカポカとパンチをいれた。
「うわっ!?」
殴られることなど想定していなかったようで、彷徨える魂はバランスを崩して転んでしまう。パンチ自体の威力は低くても、意表を突けば相手を転ばせることができるのだ。そしてコントロールを失った巨大火球が奴の体に命中した。
「うぎゃぁぁぁぁ!!」
奴の悲鳴が洞窟内にこだまする。
しかしそれでも奴は倒れない。ヨロヨロとしながらも、体を起こす。
「不意をつかれてヘマをしたが、次はそうはいかんぞ。二人まとめて死ぬが良い!」
「させません!」
ジェシカは彷徨える魂の背後に回り羽交い締めにする。
「何故だ!? 何故貴様は我に触れられる?」
「恐らく心眼スキルのお陰でしょうね。このスキルは暗いところでも見通すことができるだけでなく、実体の無い相手を実体化させるという隠された能力があったようです!」
心眼スキルにそんな効果があったとは驚きだ。ジェシカ自身も今気付いたばかりみたいだしな。あいつが心眼スキルを獲得していて本当に助かった。
「離せ! その手を離せ、小娘!」
「私が触れている間、こいつは実体化しています! 師匠のとっておきの爆発スキルをお見舞いしてやってください!」
「駄目だ! お前まで巻き添えにしちまう!」
「そんなこと言ってる場合じゃないです! 私の努力を無駄にするつもりですか?」
「あー、もうわかったよ! いくぞ!」
俺は顔を上げて彷徨える魂を見つめる。次の瞬間、大爆発が起こる。今までで一番大きな爆発だ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
甲高い断末魔を上げながら彷徨える魂は消滅した。
俺はアイマスクを装着して、倒れているジェシカに駆け寄る。
「ジェシカ! 大丈夫か、ジェシカ!」
「ししょう……今までありがとうございました……」
「縁起でもないこと言うな! ほら、回復ポーションを飲めよ!」
「それは師匠が飲んでください……私みたいな雑魚よりも、師匠のような強い人が生き残るべきです……」
「いや、お前が飲め! 俺みたいな人間のクズよりも、お前みたいな純粋でかわいい女の子が生きていた方が世の中のためになる!」
「師匠は優しいですね……じゃあ半分ずつ飲みましょう」
回復ポーションとは瓶一本分飲んで初めて効果を発揮する物のはずだが、半分だけだとどうなるのだろうか? ポーションを半分だけ飲んだ前例が無いのでどのような結果をもたらすのかは未知数だ。しかし、ジェシカのことだから一度言い出したら聞かないだろうし、俺はポーションを半分だけ口に入れた。
「ほら、お前も飲め!」
「ゴクゴク……少し痛みが引いてきた気がします」
「確かに楽になってきたな。ただ完全回復はできてないみたいで、体がところどころ痛むけどな」
「なにはともあれ命が助かったんだから良しとしましょう!」
「だな! それに宝箱も手に入った!」
「せっかくなので街に戻ってセシリアさんの前で開けませんか?」
「そうしよう!」
俺達は宝箱を担いで、洞窟の出口を目指してヨタヨタとした足取りで歩き始めた。
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