第20話 ダンジョン探検③

「どうだ? 何か恐ろしいモンスターとかいないか?」


「いえ、モンスターなどは特に見当たりません」


「なら良かった。ダンジョンの最深部には凶悪なボスモンスターとかがいるものだからな。ついつい警戒しちまったよ」


「変わったことといえば、この部屋は洞窟の中とは思えない程だだっ広いこと。そしてたくさんの松明が置かれているため明るいこと。後は……」


「後は?」


「部屋の中心部にキラッキラした宝箱が置いてありますね」


「なるほど……それは明らかに罠だな」


「はい……どう考えても罠ですね」


「でもお宝は欲しいよな?」


「欲しいですね」

 

「じゃあ持って帰っちゃおう!」


「はい!」


 俺は宝箱を担いだ。どんなに怪しいとわかっていても欲望には逆らえない。人間の悲しい性だなあ。


「返せ……」


 邪気のこもった低い声が俺の耳に入ってくる。


「ジェシカ、何か言ったか?」


「いいえ、何も。師匠こそ何か言いませんでしたか?」


「いや、俺も何も言ってないんだけど」


 何この現象、超怖いんですけど。恐怖に慄く俺達に追い討ちをかけるように、不気味な声が聞こえてくる。


「返せ……その箱を返せ……」


「し、ししょう……後ろ……」


 俺は咄嗟の判断で体を百八十度回転させ、アイマスクを外す。俺の目の前にはどす黒いガス状の何かが浮遊していた。そのガス状の何かは俺の視界に入ったにも関わらず、何故か爆発しない。


「我には実体が無い……故に貴様の攻撃など効かぬ!」


「そんなのありかよ!? お前、何者だ!」


「我は彷徨える魂……自分の名前などはとっくの昔に忘れたが、その箱を守るという使命だけは覚えている。さあ、その箱を返すのだ。さすれば我が住処に勝手に入ってきたことは不問としよう」


 素直に箱を返せば命は助けてくれるってか。幽霊の癖に話が通じるやつみたいだな。だが、もう既に俺の答えは決まっているぜ。


「やなこった! この箱は俺が見つけたから俺の物だ!」

 

「そうですよ! あなたのようなキモいもくもくお化けには、キラキラなお宝は勿体ないです!」


「そうか、それが貴様らの出した答えというわけか……ならば死んでもらうとしよう」


 彷徨える魂の周りに無数の青い火の玉が現れた。その火の玉一つ一つにものすごい怨念を感じる。死者の魂か何かなのだろうか。

 彷徨える魂は人間の右手にあたる部分をブンと一振りすると、火の玉のうちの一つが俺に向かって一直線に飛んでくる。俺は大きくバックステップをして、それらを全て回避する。

 ここはとても広い空間なので爆発の被害を気にせず、アイマスクを外した状態で戦闘できる。そのお陰で自分本来の力が発揮できるのだ。


「ジェシカ、俺の視界に入らないように気をつけろ!」


「了解! この宝箱も師匠の目に入らないところに隠しておきますね!」


 なかなか有能な弟子じゃないか。これで心置きなく戦うことができる。

 

「おらぁ!」


 俺は白杖を両手で握り、彷徨える魂を一刀両断しようとする。しっかりと当てたはずなのに、体をすり抜けてしまった。


「だから言っているだろう。貴様の攻撃など効かんのだよ。今ならまだ間に合う。大人しく降参したらどうだ?」


「断る!」


「馬鹿な奴だ……」


 再び火の玉が俺めがけて飛んでくる。俺は右に大きくジャンプしてそれを避ける。着地した直後に次の攻撃が繰り出される。体を海老反りさせスレスレで回避する。俺が体力をすり減らして必死に避け続けているところに、相手は容赦なく攻撃を叩き込んでくる。

 避け続けたところで、少しずつ体力を削られてジリ貧になるだけだ。どうにかしてこの状況を打開しなければ。


「こうなったら、いちかばちかだ!」


 横向きに構えた白杖をフルスイングして火の玉にヒットさせる。俺の予想通り火の玉は進行方向を変えて彷徨える魂の方へと一直線に飛んでいく。


「ぬわぁー!」


「ホームランバッターダンテ様の実力を思い知ったか!」


 幽霊には実体が無いため人間の攻撃は当てることはできないが、自分自身の攻撃ならばダメージを受けてしまうのだ。この白杖が炎にも耐えられる設計で助かった。かなり危険なギャンブルだったが、読みが当たって良かったよ。


「さあ、俺と火の玉で野球をしようぜ! かかってきな!」

 

「ククク……我の攻撃を利用するとはやるではないか。だが我も簡単には負けんぞ」


 多数の火の玉が連続で飛んでくる。そのタイミングに合わせて、俺は白杖を振って跳ね返す。


「うわ、あっちぃ!」


 全ての玉には反応しきれずに、何発か俺の体に直撃してしまう。火傷してしまった左手がものすごく痛む。かなりのダメージを受けている俺に対して、彷徨える魂はまだまだ余裕がありそうだ。攻撃を喰らうことすら楽しんでいるように見える。


「だいぶ疲れが溜まってきているようだな? ここで一気にたたみかけるとしよう」


 火の玉のスピードがどんどん速くなっていく。俺は左腕の痛みで心が折れそうになるも、自分に鞭打って白杖で火の玉を打ち返し続ける。一発打つ度に左腕に電撃のような激痛が走る。それでも俺は絶対に諦めない。お宝をゲットして早く借金を返済するんだ!

 

 

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