第19話 ダンジョン探検②
「くっ……こいつは強いな……」
「師匠、負けないで!」
洞窟の奥までやって来た俺達は、ゾンビウルフという狼型のモンスターと戦っている。獣は俊敏で力強くいため苦戦を強いられている。
「ジェシカ! 準備できたか?」
「もう少しだけ待ってください!」
「なるはやで頼むぞ!」
ここまで連戦しているため体力が限界に近づいている。視界に頼らず音や気配などを頼りに戦うので、神経をすり減らして余計に疲れが溜まるのだ。正直、白杖を振り回すだけでもかなりしんどい。俺は防御に徹して時間を稼ぐ作戦に切り替えた。
「師匠、完成しました!」
「よくやった!」
俺はジェシカが完成させた魔方陣の上に飛びのり、早口で呪文を詠唱する。最下級魔法なので詠唱の時間は短く済んだ。
「ブリザード!」
俺の右手から、粉雪のようなパラパラの氷が放たれる。こんな物当たっても痛くないと思うかもしれないが、目に入ったらどうだろうか。俺は子供の頃に雪合戦をやって、雪が目に入ったことがある。あれはかなり痛かった。わざと俺の目を狙ってきたアンドレイのことは絶対に許さない。
「うがぁー! うぉぉー!」
ゾンビウルフの苦しむ声が聞こえる。どうやら俺の狙い通り、目にクリーンヒットしたようだ。
チャンスを逃さぬよう、ひたすら攻撃を叩き込む。五、六発殴るとゾンビウルフは地面に倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。すかさずジェシカがコアを回収する。
「勝てましたね!」
「ギリギリの勝利だったけどな……奥に行けば行くほど、どんどん敵が強くなってやがる」
「本当、お疲れ様です」
「コアはどのくらい集まった?」
「十五個くらいです」
「けっこう集まったな。そろそろここらで休憩しないか?」
「そうですね!」
ジェシカは周囲に塩をばら撒いた。これは聖なる塩といって、一定時間アンデッドを遠ざける効果がある。これを使えばダンジョンの中でも安心して休息をとることができる。
俺はポケットの中から非常食の乾パンを取り出す。どんな気候でも腐らず、時間が無い時にすぐに食べられる万能フードといったら、やっぱり乾パンだよね。異世界人の開発した物には本当に助けられるぜ。
「お前も食えよ」
「え〜、乾パンですか? あんまり好きじゃないんですよね」
「かき氷も作れるけどどうする? シロップは無いから氷をそのまんま食べてもらうことになるけど」
「乾パンでお願いします……」
ジェシカは受け取った乾パンをポリポリと食べる。
「お腹が空いてるから何でもうまい……」
「だろ? 空腹は最高のスパイスっていうのは本当だったんだよ」
「でも乾パンばっかり食べてると口の中がパサパサになってきますね」
「ほれ、水飲めよ。ブリザードで生成した氷を溶かして作った水だ。賢者の天然水とでも名付けるか」
「賢者の天然水……格好いいですね! 心なしか普通の水よりも美味しい気がします!」
それは気のせいだと思うけどな。なにはともあれ、喜んでくれたみたいで良かったよ。
「ごちそうさまでした! お腹いっぱいになったら何だか眠くなってきちゃいました……」
「じゃあモンスターが来ないか俺が見張ってるからお前先に寝てていいぞ」
「師匠が先に寝ないで良いんですか? ずっと戦い続けてヘトヘトでしょう?」
「俺のことは気にすんな。お前体力無いのにここまで来るの大変だっただろ? だからゆっくり休めよ」
「それじゃあお言葉に甘えて、おやすみなさい!」
ジェシカは寝袋にくるまるとすぐに寝息をたて始めた。相当疲れてたんだろうな。本音を言えば俺だって早く眠りたいが、ジェシカの安全のためにここは頑張って敵が来ないか見張るぞ。見張るといっても何も見えないから、聞き耳をたてるだけだがな。
「さて、そろそろ探検を再開しようか」
「はい!」
ジェシカと交代で仮眠をとり、俺達はすっきりした状態で歩き始める。やっぱり睡眠って大事だわ。溜まった疲労が嘘みたいにふき飛んでいる。
「師匠、前方からゾンビウルフが来ています!」
「またゾンビウルフか。厄介だな……ジェシカ、下がってろ!」
俺は勢いよく前に走り出す。そのまま足をバネのように使いジャンプをして、ゾンビウルフにドロップキックを喰らわせる。先制攻撃されることは予想外だったのか、ゾンビウルフは大きくバランスを崩す。その隙を逃さず、足を高く突き上げて顔面に蹴りをいれる。
「ゾンビウルフが倒れましたよ!」
「え、もう終わったのか? さっきはあんなに苦戦したのに」
「きっと師匠のレベルが上がって強くなったんですよ!」
「おお、そうか!」
レベルが上がったのは嬉しいんだけど、今のところ物理方面でしか生かせてないよな。早く賢者らしく最上級魔法を使いこなせるようになりてえな。でっかい火の玉を操ったり台風を起こしたりさ。今の俺って武闘家とやってること変わらないじゃん。
その後もたくさんのモンスターと遭遇したが、全て物理攻撃で始末した。賢者として悲しくなってくるね。
モンスターを倒しつつしばらく歩いていると、ジェシカが突然ピタリと足を止めた。
「どうした?」
「分かれ道ですね」
「どっちに進むかコイントスでもするか?」
「いえ、選択肢が二つどころじゃなくて十個あるんですが」
「じゃあ右から三番目で」
「そんな良い加減で大丈夫ですか?」
「こういうのは適当で良いんだよ!」
「そういうものですか……」
俺の直感で選んだ道に二人で進む。
「また十個の分かれ道です!」
「じゃあ一番左で」
「また分かれ道です!」
「右から二番目にしよう」
「またまた分かれ道です!」
「左から四番目」
このように何度も分かれ道に遭遇しながらも、俺達はひたすら洞窟の奥に進み続けた。すると、またジェシカが足を止めた。
「どうした? また分かれ道か?」
「いえ。どうやらここが洞窟の最深部のようです」
「最深部か……何か変わった物はあるか?」
「錆びた大きな扉がありますね。それ以外は何にも無いです」
「何それ、めっちゃ不気味じゃん」
「怖いので同時に中に入りませんか?」
「了解だ。行くぞ? せーの!」
俺達は恐怖で体を震わせながらも、手を繋いで一緒に扉の先へ進んだ。
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