第17話 効率的な金策

「いらっしゃい、いらっしゃい! かき氷が安いよ!」


「賢者の上質な魔力で作った美味しいかき氷ですよ! ぜひ食べてみてくださーい!」


 ある日の夕暮れ。俺とジェシカはギルドの前に屋台を出店して、かき氷を売っている。最下級魔法のブリザードはほとんど魔力を使わないので、実質無料でかき氷を無限に生成できる。金儲けには最高の方法だろ? 営業許可をとってないから違法な屋台だけどな。


「ジェシカ〜、今日の収入はどうだ?」


「五千ゴールドくらいですねえ」


「少ないな……ちょっと前までは一日で五万くらい稼いでいたのに」


「最近、涼しくなってきましたからね。もうかき氷の季節は終わりなのかもしれません」


 うーん、困ったな。ここ数週間はかき氷の商売でかなり楽に儲けてきたから、今更きついクエストなんてやりたくないんだよな。あの手だけは使いたくなかったが、こうなっては仕方ないか。


「ジェシカ、プランBでいくぞ!」


「了解っす!」


「良い感じの奴がいたら教えてくれ」


「いました、いました! 良い感じの男が!」


「よし、いくぞ!」


 俺達は一人の男に駆け寄り、彼の肩を叩く。触った感じ、筋肉とかほとんど無いヒョロガリだな。良い感じに弱そうだ。


「おい、お前」


「ぼ、僕ですか?」


「そうだよ、お前だよ」


「な、何の用でしょうか?」


 男はオドオドしている。やっぱり、体つきが弱いと心も弱いんだろうな。


「ちょっとお金を貸して欲しいんだわ」


「い、嫌ですよ!」


「なら仕方ない。ジェシカ、例の物を出せ」


「はい!」


 ジェシカは懐から一枚の紙を取り出す。これはレベル証明書だ。血液検査を受けるとギルドが発行してくれる。


「この紙をよーく見ろ。俺の弟子はレベル91の勇者だぞ。殴られたら大怪我じゃ済まないかもな」


「レベル91!? ひええ……」


「それで、どうするんだ? お金貸してくれるの、くれないの?」

 

「どうぞ! 全部あげますから、命だけは助けて!」


 男は俺に財布を渡してどこかへ走り去った。

 

「いくら入ってるか数えてくれ」


「ざっと十万は入ってます。やりましたね、師匠!」


「ああ!」


 一分もかからず十万か。無駄に高いジェシカのレベルもこういう時に役に立つな。罪の無い人間から金を巻き上げてしまったことは心が痛むが、そのぶん良いことをして償うとしよう。


「何やってるんですか、あなた達は!」


 突然、何者かに俺達は後頭部を殴打される。


「誰だ!? いてえじゃないか!」


「セシリアさん、やめてくださいよ!」


 殴りかかってきたやつの正体はセシリアのようだ。仕事が終わってちょうど帰るところなのだろう。 


「ギルドの目の前での違法屋台の営業は黙認していましたが、流石にカツアゲはアウトです!」


「カツアゲなんて人聞きの悪い。俺達はただ、レベルを見せつけてからお金を借りただけだぞ。なあ、ジェシカ?」


「そうです! お金を借りただけです!」


「返すつもりはあるんですか?」


「……」


「……」


「無いんでしょ? それをカツアゲっていうんですよ!」


「申し訳ありませんでした!」


 俺とジェシカは即座に土下座の構えをして頭を下げる。


「もう絶対にやらないでください! この財布はあの方に返してきます!」


 セシリアは財布を持って、先程の男を追いかけるように走り出した。


「明日からは真面目にクエストやって稼ごうか」


「ですね……」











 カツアゲ事件から数日が経った。あの男は心優しかったため、俺達のことを許してくれた。警察沙汰にならなくて本当に助かったぜ。

 ここ最近はしっかりとクエストをやっている。おなじみの採取クエストの他に、ゴキブリ駆除やゴミ屋敷清掃などの雑用っぽい仕事を多くこなした。お陰で所持金が三十万を超えた。借金を返すにはこの百倍は稼がないといけないと考えると、気が遠くなるな。

 ちなみに俺のレベルは10になった。新しく覚えたスキルは何も無いが、腹筋が割れてきている。賢者だから筋肉ついても仕方ないんだけどな。当然のことながらジェシカは一切レベルアップしていないぞ。


「ダンテさん、ジェシカさん! そろそろ行きますよ!」


「はいよー!」


 今日はセシリアの出勤の時間に合わせてギルドへ行くことになっている。大がかりなクエストを受注する予定のため、朝一で出発しなければならないのだ。


「今日は寝てちゃ駄目ですか?」


「借金を返すためにはクエストしないと駄目だろ!」


「クエストなら昨日もやったじゃないですか〜」


「駄々をこねるな!」


 こいつ俺以上のぐうたらになりやがったな。かつての真面目だったジェシカちゃん、帰ってきておくれ。まあ、俺が悪いんだけどな。


「早くしてください! 遅刻したら私が上司に怒られるんですよ!」


「俺がこいつを説得しとくから先に行っててくれ!」


「任せましたよ! じゃあ行ってきます!」


 セシリアはギルドにダッシュで向かっていった。さて、早く後を追いかけるためにもこの眠り姫を家から引っ張り出さないとな。


「行こうぜ、ジェシカ」


「う〜ん……」


「たけのこご飯とかき氷を好きなだけ食わせてやるぞ」


「嫌ですよ! 最近、たけのこご飯とかき氷しか食べてないじゃないですか!」


 だって、たけのこと氷の在庫が大量にあるんだから仕方ないだろ。こいつをやる気にさせるための物といったらやはり……


「お菓子を買ってやるよ」


「お菓子……確かに魅力的だけど、睡眠と天秤にかけると……」


「特別に今日は好きなだけ買ってやるよ!」


「それなら行きます!」


 やっぱりチョロいよな。不審者に「お菓子あげるよ」って言われたらついていきそうで、危険極まりない。

 そんなこんなでジェシカの説得に成功し、俺達もギルドへ向かった。



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