第16話 スキル修得
「結果がでました!」
「どうだ? レベル上がってるか?」
「はい、レベル6に上がっていますね!」
「思ったより上がらないものだな。まあ、雑魚モンスターばっかりだったからそんなもんか」
「ですが、新しいスキルを使えるようになったみたいですよ!」
「お、マジ!? どんなスキルよ?」
「スキル名は『ブリザード』、氷系の魔法スキルですね」
「試しに使ってみよう。ジェシカ、魔法陣の準備をしてくれ!」
「はい!」
ジェシカはチョークを持つと、床にせかせかと魔法陣を描き始める。ギルドの床を汚すのはちょっと悪い気がするけど、モップでしっかり掃除すれば消えるだろ、多分。
「できました!」
俺は完成した魔法陣の上に乗り、呪文の詠唱をする。
「くぁwせdrftgyふじこlp……くぁwせdrftgyふじこlp……くぁwせdrftgyふじこlp!」
訳のわからないことを言っているように聞こえるかもしれないが、決してふざけているわけではないぞ。これはれっきとした呪文で、この世界の人々はこれを学校の授業で暗唱させられる。
「さあ、いくぜ!」
全身のエネルギーが魔力に変換されているのを感じる。ゾクゾクするぜ。これが魔法を使うっていう感覚なんだな。魔力を右手に結集させ、俺は大声で叫んだ。
「ブリザード!」
あれ? 何も起こってない気がするぞ。俺は視界が塞がれているため、ちゃんと魔法が発動しているかどうかを確かめる術が無い。
「どうだ? ちゃんと氷出てるか?」
「バッチリですよ、師匠!」
「本当か? どのくらい出てる?」
「師匠の出した氷をこのバケツに集めておきました! 触ってみてください!」
「どれどれ?」
バケツに手をつっこむと、ひんやりとした感覚が伝わる。
「量少なくね? 片手に収まりきる程の氷じゃ、何の役にも立たないだろ。 何か粉雪みたいにパラパラだし! なあセシリア、魔法失敗しちゃったっぽいんだけど、何がいけなかったんだ?」
「失敗してないですよ。ブリザードはちゃんと発動してます」
「ブリザードってこんなにショボいの!?」
「Fランクの最下級魔法ですから、そんなものですよ。そもそもギルド内で魔法を使うのを止めなかったのは、弱い魔法だったからです」
「そんなあ……」
膝から力が抜けて地面に崩れ落ちる。
「師匠、この魔法にも使い道ありますよ!」
「どんな?」
「このお皿にブリザードをしてください!」
皿にブリザード? どんな意味があるのか想像もつかないが、せっかく弟子が知恵を絞ってくれたのだからやってみよう。
「ブリザード!」
「うん! やっぱりちょうど良い量ですね!」
「何にちょうど良いんだ?」
「これにいちごシロップをかけて、かき氷の完成です!」
「かき氷だぁ?」
「最近暑いですからね、かき氷が美味しいですよ! 師匠も食べますか?」
「食べる……」
「シロップはどうしますか? いちごとメロンとブルーハワイがありますが」
「ブルーハワイで」
「へいお待ち!」
スプーンでかき氷をすくって口に運ぶ。すごくうまいね。氷の質が良いわ。超ふんわりして、口の中でほろりと溶けていく。賢者は魔力が高い職業だから、作られる氷も一流なんだな。戦いには何の役にも立たないけど。
「このブルーハワイって何の味なんだろうな?」
「異世界にはハワイっていう地域があるらしいです。そこでよく食べられているからブルーハワイなんじゃないですか?」
「ジェシカさんよ、それは俺もわかるんだよ。ハワイのどんな食材を使ったら、こんな味になるんだ?」
「う〜ん、永遠の謎ですねえ……」
「まあ、謎だからこそうまいのかもしれないな」
「ジェシカさんの結果も出ましたよ!」
一日中蟻を踏み潰してただけでろくに戦ってないからレベルが上がっている可能性は低いが、一応聞いておこう。
「おめでとうございます。レベル91に上がっていますよ!」
「やったー!」
「え、マジ!? 何で?」
「私も全く心当たりないですね。デスアーマイゼ以外のモンスターは倒していませんし」
「ジェシカさん、倒したデスアーマイゼの中に頭部が金色の個体がいませんでしたか?」
「いましたね。あまりにも綺麗だったので標本にして持って帰ってきちゃいました。ほら、見て!」
「それはクイーンアーマイゼです。極稀に現れるデスアーマイゼの変異種で、倒すと膨大な経験値を得られます」
「わーい、わーい! 蟻さんをたくさん倒した甲斐がありました!」
ジェシカは大声ではしゃぎながらギルド内を走り回る。高級な壺とか置いてあるから壊さないでくれよな。借金がこれ以上増えるのは御免だぞ。
「もしかしてひたすら蟻を殺し続けるのって経験値効率良いのか?」
「それはないですね。デスアーマイゼを倒したところで経験値は雀の涙ですし、クイーンアーマイゼの出現率は異常に少なく、一年に一度目撃情報があるかどうかってレベルです」
へえ、ジェシカは相当運が良かったんだな。ただあいつの場合、どれだけレベルが上がっても強くなることはなさそうだが。
「ジェシカさんもスキルを修得されてますよ」
「本当ですか!? やった、やった!」
よっしゃー! これでこのポンコツにも使い道が生まれるぞ。でも俺みたいなFランクスキルを引く可能性もあるな。こいつのポテンシャルがクソ雑魚だから、修得するスキルも雑魚そうだ。
「どんなスキルなんですか? おっぱい女さん!」
「私の名前はセシリアです! そこそこ長い間、一緒に暮らしてるんですから覚えてください!」
俺はからかうためにわざと間違えてるのに対して、ジェシカは本気で間違えてるんだからけっこうヤバいよな。こいつ、モンスターの知識とかはそこそこあるんだけどな。馬鹿だけど勉強だけできるってタイプか。
「ごめんなさい、セシリアさん。それで、どんなスキルなんですか?」
どんな面白いFランクスキルだろうな。俺がかき氷量産なら、こいつは小麦粉量産とかか? かき氷より小麦粉の方が使い道あるから良いよな。
「なんとAランクスキルの……」
嘘、Aランクだと? この雑魚のジェシカが? Sランク程のチートではないにしろかなり性能の良いスキルが期待できそうだ。
「Aランクスキルの……」
「ごくり……」
「Aランクスキルの……」
こいつ、めちゃめちゃ溜めるじゃねえか。生きた心地がしないからさっさと発表しろよ。
「『心眼』スキルです! おめでとうございます!」
「し、心眼だと!?」
「ばんざーい! ばんざーい!」
俺が欲しいスキルを弟子が先に手に入れたんだが。何だ、このやり場の無い悔しさは。だいたいお前は普通に目が見えるんだから、心眼いらねえだろ。
「師匠! もっとレベルを上げて、色んなスキルをゲットしましょうね!」
「おう……そうだな……」
こうして一日中頑張った結果、俺はかき氷製造スキルを、ジェシカは俺が喉から手が出る程欲しい心眼スキルを手に入れたのだった。
世の中は本当に理不尽だな。マジで神様をぶん殴ってやりたいわ。
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