第12話 衝撃の事実

「……しょう……ししょう……師匠!」


「うーん……うるさいな」


「起きてください! クエストですよ」


 そういえばそうだった。たけのこ狩りのクエストのために馬車に乗ってたんだったな。ゆらゆら揺られるとどうしても眠くなっちゃうんだよな。赤ちゃんがどうして揺りかごを好むのかがわかった気がするよ。

 馬車は徐々にスピードを落としていき、やがてピタリと停止した。

 

「着きましたよ、師匠!」


 俺はジェシカと共に馬車を降りる。

 さて、これからクエストだ。いっちょやってやりますか。腕が鳴るぜ!


「ここから竹林まではどれくらいだ?」


「すぐそこですよ! あのでっかい竹林を見てください!」


「俺が見たら爆発するんだけど」


「あ、そうでしたね。私が連れていってあげましょう。さあ、乗って!」


「お前乗って大丈夫なの? この前、ぺしゃんこになったじゃん」


「あれから一ヶ月経ったんですよ。私は生まれ変わったんです!」


 もしかして俺の知らない間に修行でもしてたのか? 意外に向上心があるやつなのかもしれんな。


「じゃあお言葉に甘えて、よっこらせ……」


「あっ、やっぱ無理……」

  

 案の定、ジェシカはペシャンコに潰れた。俺はピシャンと音をたてて、地面に叩きつけられる。


「痛いじゃねえか、ちくしょう!」


「ごめんなさい! やっぱり無理でした。普通に手を繋いで行きましょう」


 ジェシカに手を引かれて少し歩くとその足をピタリと止めた。


「さあ、到着です!」


「よーし、たけのこを探せ!」


「あれじゃないですか? あの地面からひょっこり出てるやつ!」


「どれどれ……」


 俺は両手でたけのこらしき物を触る。めっちゃゴワゴワしてるな。この形状と手触りは多分たけのこで間違いないだろう。でも、これじゃあ駄目だ。


「今回、俺達が依頼されたのは食用のたけのこだ。これは育ち過ぎちゃってて食べられねえ」


「どういうのが食べられるやつなんですか?」


「基本的に土から頭が出てるのはアウトだ。だから土の中を掘って探すことになるな」


「ラジャー! 探してきます!」


 ザザザザザと土を掘る音が聞こえる。スコップなどの道具を一切持ってきてないから手で掘っているのだろう。本当にそんなんで見つかるのか疑問だが、しばらくはあいつに任せてみよう。


「どうだ、見つかりそうか〜?」


 三十分くらい経ったので、とりあえず声をかけてみた。


「まだです〜! でも必ず見つけますので待っててください!」


「はいよ〜!」


 まあ、見つけられないならそれでも問題は無い。もう少し待ってみて駄目だったら俺が動くとしよう。

 それから更に三十分が経過した。


「見つかったか〜?」


「全然見つからないです!」


 そろそろ俺の出番といきますか。本当はジェシカに見つけさせて、自信をつけさせてやりたかったが仕方ないな。


「周りに人や建物は無いな?」


「はい、超安全です!」


 それなら良かった。俺の力は強大過ぎて周囲の人や物に甚大な被害をもたらすからな。

 俺はアイマスクを外し、ゆっくりと目を開ける。次の瞬間、爆音と共に地面に大きな穴が開く。


「師匠、超かっけーです!」


「これが本物の爆破採掘よ。ジェシカ、たけのこを探すんだ!」


「爆発で粉々になった物が多いですが、いくつか無事なのもありますね」


「よしよし、もっと掘るぞ!」


 俺は地面を爆破しまくり、大量の穴を開ける。そしてその穴からジェシカがたけのこを回収する。袋がパンパンになるまでひたすらこの作業を続けた。


「よーし、こんなもんで良いぞ!」


「ずいぶんたくさん集まりましたね。どのくらいのお金になるでしょうか?」


「これだけあれば五、六万にはなるな。爆破能力を持つ俺だけの特権だな」


「やっぱり師匠のスキルはすごいですね!」


「ものすごく不便だけどな。じゃあ帰るか」


「はい!」


 俺達は袋を担いで歩き始める。思っていたよりも重くてよろけそうになるが、どうにか踏ん張って歩き続ける。


「あっ……ああっ……し、師匠……」


「どうした?」


 急にジェシカの様子がおかしくなった。荷物が重過ぎて辛いのか? あいつの分は


「ヤバいのがいます……」


「モンスターか?」


「はい……」


「安心しろ。俺のスキルがあればどんなモンスターだってイチコロだからよ!」


「待ってください! あいつは……」


 爆破スキルを発動させるためアイマスクを外す。ジェシカが何か言いかけてたけど、倒した後に聞けば良いだろう。

 俺の視界に入ったのは大きな虎のようなモンスターだ。ダイヤモンドのように透き通った体が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。めちゃめちゃ眩しいな。

 しかしどんなモンスターでも一度視界に入れてしまえば怖くはない。虎のモンスターに俺の爆撃が襲いかかる。爆風で砂煙が上がった。


「やったか?」


「師匠、フラグ立てないで!」


「大丈夫、大丈夫! 俺のスキルは無敵……ってまだ生きてる!?」


「だから言ったじゃないですか! 師匠がつまらんフラグ立てるせいですよ!」


「一発じゃ駄目でもたくさん撃てば倒せるはず!」


「それもフラグですって!」

 

「喰らえ!」


 虎のモンスターをじっと凝視し続けると、何度も爆発が起こる。これだけの攻撃をぶち込めば生きていられないだろうよ。


「駄目です、師匠! ピンピンしてます!」


「どうして効かないんだよ!」


「あのモンスターの名前はクリスタルカイザー! 皮膚が特殊なクリスタルでできているので、爆発系の攻撃は効きません!」


 クリスタルカイザーって水みたいな名前してんな。いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

 爆破無効とかありかよ? 俺のメインウェポンは爆破だから、それが効かないと為す術ないんだけど。


「じゃあ、お前が戦ってみなさい!」


「無理ですよ!」


「やってみるまでわからないだろ! もしかしたら勝てるかもしれないじゃん!」


「絶対無理です! 生まれてから二十年、自分一人で戦いに勝ったことは一度も無いんです!」


 一度も勝ったこと無いってマジかよ。まあ、これだけ弱いなら妥当か。

 それよりも気になること言ったな、こいつ。


「お前、二十歳なの?」


「はい! この前、四年前から冒険者やってるって言いましたよね?」


 マジか……飛び級で学校卒業して四年前から冒険者やってるのかと思ったけど、普通に十六で冒険者デビューしてたのか。こいつみたいな雑魚が飛び級できるわけないもんな。


「お前、そんなロリっ子みたいな見た目で俺より歳上なのかよ……」


「お姉ちゃんって呼んでも良いんですよ?」


「呼ばねーよ!」


 そんなくだらない会話をしている間にザッ、ザッという足音が近づいてくる。


「ジェシカ、やっておしまい!」


「ええい! どうにでもなれ〜!」


 ジェシカはトテトテとクリスタルカイザーに向かっていく。


「おりゃおりゃおりゃおりゃ!」


 ポカポカと殴る音が聞こえてくる。これは駄目そうだな。ワンチャンあるかもと思ったけど、ワンチャン無かったわ。 

 

「うぎゃあ〜!」


 案の定ジェシカは一発殴られただけで即敗北してふっ飛ばされる。そして俺の頭上に落下した。


「いってぇ〜!」


「どんどん近づいて来ます!」

  

 ヤバいヤバい。このままじゃ食われる。どうするべきか。爆発が効かないこのモンスターを倒す最善の策を考えないと。最善の策……最善の策……


「師匠! 戦略的撤退を提案します!」


「だな!」 


 俺達はスタコラサッサと竹林を走り抜けた。アイマスクをしないで走ったので、途中何本もの竹を破壊した。自然破壊し過ぎてそろそろヤバいよ。俺、地獄に落ちるかもな。













 

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