第9話 同棲始めました

「たのもーう!」


「たのもーう、です!」


 クエストを終えた俺とジェシカは、成果を報告するためにギルドに帰還した。


「セシリアいるかー?」


 セシリアを呼ぶが返答が無い。その代わりに別の受付嬢が俺達のもとへやってきた。


「セシリアさんは定時過ぎたので帰りましたよ。代わりに私が対応させていただきますね」


「じゃあこのスライムのコアを換金してもらえるか?」


「かしこまりました。こちら、報酬になります」


 受付嬢は袋に硬貨を詰めて俺に渡した。本当はこの袋がパンパンになるほどスライムを倒したはずなんだがな。爆破スキルはコアまで破壊してしまうのでガチで使いにくい。


「死にそうになりながら戦ったのに、これだけしか稼げないんじゃ割に合わないよなあ……」

 

「スライム討伐でそんなに死にそうになることってありますか?」


「普通のスライムはどうにか倒せるんだが、変異種のスライムに遭遇しちまってよ。あれが超強かったんだよ」


「確かに初心者の方だと変異種はきついかもしれませんね。もう少し強くなればきっと勝てますよ」


「いや、ちょっとやそっとの努力で勝てるレベルじゃないぞあれは。ベテランの冒険者が複数人で戦ってようやく勝てるレベルじゃねーの?」


「この辺のスライムは変異種でもそこまで強いのは出ないはずですよ。炎の魔法を使う赤スライムか、耐久力が高い青スライムくらいじゃないですか?」


「いや、俺は黒いスライムと戦ったんだが。めちゃめちゃ速くて、硫酸ぶっかけたり超凶悪なやつだったぞ」


「黒いスライムですか? 聞いたことないですね」


 その声色は俺を疑ってるな? 嘘つき呼ばわりは悲しいぞ。でも実際に黒スライムを見たのは俺じゃなくてジェシカか。奴は俺の視界から外れるように動き回ってたから、俺が姿を認識することはできなかったんだ。


「ジェシカ、お前見たんだよな?」


「はい、この目ではっきり見ました! 受付嬢さん、私の目をしっかり見てください! これは嘘つきの目ですか?」


「疑ってなんていませんよ! 貴重な情報ありがとうございます。この件は上の方に報告します。後日、正式な調査団が派遣されるでしょう」


 ギルドが認識してない新種の変異スライムか。ひょっとして俺達はボスクラスのとんでもないモンスターを相手にしていたのかもしれないな。














 クエストを終えてギルドに報告した俺達は、セシリアの家を目指して歩く。既に日は暮れていて、フクロウの鳴き声が聞こえる。思ったより時間がかかってしまった。

 ちなみにスライム一体討伐の報酬千ゴールドは二人で山分けした。ご飯代にはなるかな。

 

「さて着いたぞ」


「ここが今日から私が住むお家ですね!」

 

「ああそうだ。ちょっとうるさい家主がいるけど、すぐに慣れるぞ」


 俺はポケットから家の合鍵を取り出して鍵穴に差し込む。


「ただいまー!」


「おかえりなさい。遅かったですね」


 家に入ると先に帰っていたセシリアが温かく出迎えてくれた。やっぱり帰る家があるって素晴らしいね。


「クエストどうでしたか? ……って、後ろにいる小さな子はジェシカさんですよね? どうしてここに?」


「それが色々あってさ……」


 俺は今日の出来事を詳細に説明した。


「つまり、こんなに長い時間かけたのに手に入れられた報酬はたったの千ゴールド。ジェシカさんの回復に七千ゴールドかかってしまったので実質的な儲けはゼロ。おまけに身寄りの無い女の子を拾ってきて、ここに住まわせたいと」


「はい、そういうことです」


 あー、これは怒られるな。いつも通りの展開ですよ。


「わかりました」


「あれ? 怒らないの?」


「正直ブチ切れそうです。でも小さな女の子を見捨てる訳にはいかないでしょう? 居候が一人だろうと二人だろうとそんなに変わりませんし、ここに置いてあげますよ」


 こいつ普段からよく怒ってるけど、本当は超優しいんだよな。とりあえずジェシカを置いてもらえることになって良かった。


「ありがとうございます。おっぱい女さん!」


「だから、セシリアです!」


「なあ、ジェシカの部屋はどうするんだ? ここ3LDKだし、一部屋開けるのか?」


「あの部屋は物置に使っていて掃除にかなり時間がかかりそうなので、しばらくは無理ですね」


「じゃあお前の部屋で一緒に暮らさせるのか?」


「私のベッドは小さいので二人は寝られません。なのでリビングのソファで寝てもらうことになりますね」


 それは可哀想じゃないか? ずっとソファで寝てると背中を痛くするぞ。何か良い考えは無いものか……あ、そうだ!


「俺の部屋で一緒に寝るのはどうだ? 俺のベッドはダブルだから、二人でもゆったり使えるぜ!」


 そう言うと、俺は親指を立てて見せつける。我ながらこれは名案だと思うぞ。


「この変態!」


「はぁ?」


 このおっぱい女は何てことを言うんだ。俺のどこに変態要素があると? 清く正しく美しい純情ボーイだぞ。


「小さな女の子を自室に連れ込んで、いかがわしいことをしようとしているんでしょう? このロリコン野郎!」


「ロリコンだあ? 俺の恋愛対象は自分より年上の女ですう! 俺はただ、ジェシカに快適に過ごして欲しいと思っただけだ!」


「そんなこと言って、あなたの魂胆は見え見えなんですよ!」


「なにぃ?」


 俺達の口論はどんどんと激しくなっていく。そしてどんどんと本筋とは関係ない方向に発展していく。


「絶対、目玉焼きには醤油だろ! ここだけは譲らん!」


「舌が腐ってるんですか? どう考えてもマヨネーズです!」


 最早ここまで来るとただの不毛な言い争いになってしまっている。だがな、一度振り上げた拳はそう簡単には下ろせないんだよ。


「あ、あの!」


 そんな口論に割って入るように、ジェシカが声を上げる。


「私、師匠と一緒の部屋で大丈夫です!」


「おう、そうだよな!」


 やっぱりジェシカは純粋な子だ。俺のことをちゃんと信用してくれているんだな。クソ雑魚なのを除けば最高の相棒だ。


「これからパーティを組んでクエストをこなしていく訳ですから、お互いのことを良く知るために一緒に生活してみるのも悪くないと思うんです」


「本当に大丈夫なんですか? あの男、何をしでかすかわかりませんよ?」


「大丈夫ですよ。師匠はなんだかんだ完全なクズにはなれないタイプの人です!」


 出会って間もないのに俺のことをよく分析できてるな。でも待てよ? お前、俺のこと少しはクズだと思ってたのか?


「ジェシカさんが大丈夫ならそれで良しとしましょう。ですがダンテさんに変なことをされたらすぐに言ってくださいね」


「はい!」


 こうして俺はジェシカと生活の場を共有することとなった。

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