第7話 絶対に逃げません
「そういえばお前にはスキルは無いのか? 初心者応援キャンペーンでランダムにスキルを貰えただろ」
「私が冒険者デビューしたのは四年前だったので、その時はそのキャンペーンはまだやってなかったんです」
四年前って、こいつ十歳くらいだったろ。そんな小さい時から冒険者やってたの? でもこんなポンコツがどうして飛び級なんかできたんだ? 不正でもしたのか?
「きゃあ! ダンテさん、またスライムです!」
「何!?」
俺はとっさに白杖を構える。スライムの動く音や独特の刺激臭を頼りに位置を探る。だがそう上手くはいかない。生まれつき盲目だったならまだしも、つい最近まで視覚からの情報に頼りきっていた人間が、そう簡単に視覚情報をシャットアウトして戦えるはずがないのだ。さっきのはまぐれだったのだろう。
「ジェシカ、スライムの場所を口で教えてもらえるか?」
「もうちょい前です! 右向いて! あ、右向き過ぎ! あとほんの少し進んで! そこだ!」
俺はジェシカの指示通りに白杖を構えて歩く。これもう、まんまスイカ割りだな。
「おりゃあ! 俺様の一撃をくらえ!」
俺の攻撃がスライムにきれいに直撃する。しかし、スライムはすかさず飛び上がり俺の顔面に突撃した。流石に一発じゃ仕留めきれないか。俺は物理職じゃないからな。
「ダンテさん、後ろからも!」
前方のスライムに二発目を叩き込もうと振りかぶった瞬間に、後頭部に激痛が走る。
「何かいっぱい来てます!」
耳をすませるとズリズリと大量のスライムが地面を這いずる音が聞こえる。こりゃ十匹はいるんじゃないか? やはり夏場のスライムはどんなに駆除しても新しいのが沸き続けるな。
流石にこれだけ多くのスライムを白杖だけで倒すのは無理か。こんな時こそ俺のSランクスキルを使わせてもらおう。
「全て消し飛べ!」
アイマスクを外すと、視界に入った数匹のスライムが爆発に巻き込まれ粉々になる。すかさず振り返り後方のスライムも爆撃する。
「ダンテさん……私にも当たってます……ぐふっ……」
「あっ、ごめん!」
俺の爆撃はスライムだけでなくジェシカにも命中してしまったらしい。幸い少しかすっただけで大事にはいたらなかったが、次からスキルを使う時は周りに気をつけないとな。
それにしても、チラッと見えただけだがジェシカけっこう可愛かったな。水色の髪の毛で身長は低め、そして幼い顔立ち、同年代からはけっこうモテるんだろうな。俺は年上の方が好みだから恋愛対象外だが。
「けっこうダメージ受けたんで、そろそろ帰りませんか?」
たとえカス当たりだといっても防御力が低いジェシカには致命的なダメージだったようだ。本当はもう少し狩りを続けたかったが、完全に俺のミスのせいだから仕方ないだろう。まあスライムを十匹倒せただけでも良しとしよう。
「ジェシカ、コアを回収してくれるか?」
「ありません……」
「は!? 無いってどういうことだよ」
「ダンテさんの爆撃でコアもろとも消し飛んだみたいです」
マジかよ。スライムは雑魚モンスターだからコアの造りも貧弱なんだな。でもどうすんだよ。コアが無いと報酬貰えないし。
「もう少しだけスライム狩ってもいいか?」
「駄目です! 今すぐ戻って回復しないと死にます!」
「あー、もう仕方ないな!」
俺は地面に横たわっているジェシカを持ち上げて、お姫様抱っこした。
「俺が運んでやるから、どっちに進めばいいか教えてくれるか?」
「はい!」
俺はジェシカのナビゲートに従いながら街を目指して歩き始めた。
「ダンテさん、スライムがいます! 今までの白いやつとは違って黒色です!」
色付きのスライム、変異種か。普通のよりかなり強い個体らしいから、今の状態でまともに戦えば勝ち目は無いだろう。だが俺には必殺技がある。
「ジェシカ、周りに他の冒険者はいないな?」
「大丈夫です! 思いっきりブチかましてやってください!」
アイマスクを外してスライムを凝視だ!
目の前にあった木が一本、粉砕された。
「あれ? スライムいなくね?」
「後ろです!」
俺は素早い動きで後ろを振り向く。しかしそこにはスライムはおらず、またしても一本の木が吹き飛んだ。環境破壊は良くないぞ。
「スライムいねーじゃん。お前、俺のこと馬鹿にしてんの?」
「ダンテさんの視界から外れるように素早く動き回ってるんです!」
俺の能力を見抜いてやがる。流石、変異種。知能が高いな。それに俺の視線に合わせて動ける程の機動力も持ち合わせている。これはなかなか手強いぞ。
ならば、こちらも本気を出すとしよう。
「喰らえ! 回転爆破じゃー!」
俺は目を見開いたままその場で高速回転を繰り返す。こうすることで自分の周りを三六〇度爆破することができる。木々が次々と爆破されてもうすぐ森林そのものが無くなりそうだ。環境破壊は良くないね。
「どうだ! やったか!?」
「全然当たってないです!」
「ちっくしょー!」
どんなに強い攻撃でも当たらなければ意味が無い。考えろ、あのスライムに如何にして攻撃を当てるかを考えろ。俺は目を閉じて自分の脳をフル活用する。
駄目だ何も思いつかない。考えれば考えるほどパニックになっていく。どうしよう。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……
「危ない! 避けて!」
ジェシカの甲高い声で我に返った俺は、とっさの足捌きで後ろに下がる。スライムから発射された、何か液体のような物が前髪の先に付着した。
「俺の髪がシューシューいってる! 溶けてんのか!?」
「多分、硫酸か何かだと思います! 気をつけて!」
この黒スライムは知力、機動力だけでなく殺傷力まで桁違いだ。まともに喰らったら、全身ドロドロ人間になるところだった。
かくなる上は……
「ジェシカ! 全力ダッシュで街まで帰るぞ!」
「逃げるんですね!」
「逃げるんじゃない! 戦略的撤退だ!」
「戦略的撤退ですね? 了解!」
俺とジェシカは街に向かって全力で走り出した。二人とも身体能力はそこまで高くないはずだが、何故か逃げ足だけは異常に速い。
アイマスクを外してなりふり構わず走り続けたため、周りの草木を大量に消し飛ばした。自然の神様ブチ切れてるだろうな。
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