第6話 チビ勇者の腕試し
「とりあえずスライムの生息地まで連れていってくれるか?」
「うぃっす! どうやって連れていきます?」
「おんぶしてくれるとありがたい」
年下の女の子に背負わせるのは申し訳ない気がするが、一人ではまともに外を歩けないので仕方がない。
「私、170cm以下の人権の無いチビなんですよ。ですから多分あなたのこと背負えないと思います。私より頭一つ分大きいので」
確かに自分よりひと周り大きい相手を背負うのはきついかもな。セシリアはそこそこ身長が高かったから俺のことを運べたけど、この子には無理そうだ。
それにしても、身長170cm以下は人権が無いって言い過ぎじゃないの? 俺もギリギリのラインだぞ。
「じゃあさ手を引いて歩いてくれるか?」
「分かりました!」
ジェシカは俺の手を優しく握り、ゆっくりと歩き始めた。
「お前、手冷たいな」
「手が冷たい人は内面が温かいんですよ!」
へえ、そうなのか。確かにジェシカはふわふわしてて馬鹿っぽいけど、優しそうなのは雰囲気で伝わってくるな。俺の手を繋いでも拒絶しないし。俺が学校に通ってた時、クラスの女子は俺に少し触れただけで発狂していたからな。
「そろそろ街の外に出ますよ。ここから先はモンスターが出るので気をつけてくださいね!」
ここからは常に気を緩めないようにしないとな。この辺の地域は弱いモンスターしか出ないが、油断していると殺されてしまうかもしれない。
「スライムは確か水辺を好むよな」
「ここから少し歩いた所に湖があるので、そこに行きましょう!」
ジェシカは俺の手を引いてずんずんと進んでいく。広い平原だから街の中よりもスピードを出せるのだろう。
「着きました!」
「よし、スライムはどこだ?」
「いませんね……」
「え、いない?」
美味しいクエストだから他の冒険者達に狩り尽くされてしまったか。こりゃ困ったぞ。お金をがっぽり稼ぎたいのに。
「あ、一匹だけいました!」
良かった。稼ぎゼロで帰ったらセシリアにこっぴどく叱られることになるからな。とりあえず一匹だけでも倒しておこう。
「助さん格さん、懲らしめてやりなさい!」
「私、助さんでも格さんでもないですよ!」
「うるさい、俺がこう言ったら戦うんだよ! わかったか?」
「あいあいさー!」
「よし、行ってこい!」
「おりゃあー!」
ジェシカはとてとてと足音を立てながらスライムに向かっていく。
「くらえー!」
ポカポカとスライムを殴る可愛らしい音が聞こえる。勇者なのに素手で戦うんだな。さっき一緒に歩いてる時、かすかに金属の音が聞こえたから腰に剣をぶら下げていると思うんだが。
「どうだ? そろそろ倒せただろ」
「もう少しです! 待っていてください!」
「はいよー!」
けっこう長いこと殴り続けてる気がするけどまだ倒せないのか。下級職でもこれだけ時間をかければ倒せるはずなんだがな。やっぱり武器を使わずに素手で戦ってるから時間かかるんだろ。一種の縛りプレイでも楽しんでるのか? 勇者ともなると普通の冒険じゃ楽しめないのか。
ずっと立ってるのも疲れたし座って待つとしよう。
「おりゃー! このやろー! 参ったかー! 参ってくださいー!」
可愛らしい打撃音が絶えず聞こえる。ポカポカという音がずっと続いていたが、突然ドスッと鈍い音が俺の耳に入った。
「ついにやったか!?」
「スライムさん、私に攻撃してきやがりました。みぞおちをやられました。もう駄目です……」
「え、嘘だろ!?」
ドスッという鈍い音が、早いペースで何度も聞こえてくる。
「ぐえっ! やめて! 死んじゃう!」
もしかしてこいつ、スライムにボコられてる? 勇者なのに? 細かいことを考えている暇はないな。とりあえず今はジェシカを助けることが最優先だ。
俺は攻撃の音を頼りにスライムの位置を特定すると、素早いステップで駆け寄り白杖を叩きつける。
このブヨブヨした感触、どうやらしっかりヒットしたようだな。スイカ割りをやりまくった経験が活きたぜ。
俺は白杖を何度も叩きつける。セシリアにもらった杖を物理攻撃に使用するとは誰が想像しただろう。スライムのヘイトはジェシカに向いているため、俺からの攻撃を避けることはない。知能が低い個体なのだろう。
「ダンテさん、スライムが倒れました!」
「ジェシカ、無事か?」
「お陰様でどうにか」
良かった。俺はほっと胸を撫で下ろす。俺の目の前で小さな女の子が死ぬのは見たくないからな。まあ見えないんだけど。
「スライムの死体からコアを取り出しました! これを持って帰りましょう!」
ジェシカは俺の手の上にテニスボールくらいの大きさの球体を置いた。これはスライムのコア、人間でいうところの心臓だ。大抵のモンスターはこのコアによって生命を維持している。このコアをギルドの職員に見せることで、そのモンスターを倒したと認定してもらうことができる。つまり、この球体を持って帰れば千ゴールドに化けるって訳だ。
「なあ、それよりさ。お前弱過ぎないか?」
「はい! 私はとっても弱いです!」
そんな威張って言うことじゃないだろ……
「お前本当に勇者なのか?」
「はい、本当に勇者です!」
「じゃあ何でそんなに弱いの? 勇者って最強の職業でしょ?」
「職業は最強ですが、私自身のポテンシャルがポンコツなので職業の強さを活かしきれないのです! その職業の能力と使い手の力量が噛み合って初めて強くなれるのです!」
ふむ、つまりこいつはクソ雑魚なのに最強職業をたまたま引き当ててしまったと言うわけか。でも普通そんなことあり得るか?
「職業ってのは本人の適性によって割り当てられるんだろ? 俺は頭はそんな良くないけど、悪知恵だけは良く働くから賢者を割り当てられた。お前が勇者になれる要素なんかどこにも無いと思うんだが」
「でも神器が私は勇者だと判断したんですよ。神様は私のことを勇者に相応しいと思ってくれているんです!」
罰当たりかもしれんが、俺は神様を一度ぶん殴ってやりたいね。絶対良い加減に仕事してるだろ。俺がこんなクソ能力を押しつけられたのも神様のせいだし。
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