なんで吠えるのか?
二日後。猛の休日だ。
僕らはまたあの公園へ行った。ただし、今回は買い物行く前にだ。なので到着時間が、ふだんよりだいぶ早い。
「来るかなぁ」
「来るだろ。たぶん、仕事の途中で、いつもこの公園によってるんだ」
「そうだといいけど」
待つこと四十分。子どもにまじってブランコこぐのにも飽きたころ、公園前の路肩に一台のタクシーが。ウィンカー出したまま、急いでトイレにかけていくのは、まちがいなく、あの運転手さん。
「来た! 来たよ。猛」
「おっ、コロマックスも来たぞ」
コロマックスってなんだよ? 可愛くないなぁ。
しかし、兄の言うとおり、コロポッキーは来た。ちょうど反対側の入口から、おじいさんにつれられて尻尾ふりながらやってくる。
そして、どうしたことか。コロロンはおじいさんのにぎるリードをふりきり、走りだす。泣きだす幼児。おびえる僕。
コロくんが一直線にめざしたのは、例のあの運転手さんだ。とびついて鼻をふんふんさせてる。
運転手さんはその頭をなでつつも、早くトイレへ行きたそう。
「コロ。あかん、あかん。戻ってこい」
おじいさんは息を切らしながら、ようやくコロミンゴに追いついた。何やら運転手さんにあやまりながら、コロを引き離そうとするんだけど、ちっとも離れない。
そのときだ。うちの探偵が立ちあがった。
「ちょっといいですか? 五分だけ話を聞いてください」
「いや、悪いけど、おじさん仕事中なんだよ。駐禁切られる前に行かないと」
犬も猛もふりきろうとする運転手さん。が、猛はひかない。強い口調で訴えた。
「あなたの命にかかわることですよ」
運転手さんがおどろいて黙りこんだすきに、猛は続ける。
「おじいさん。一つ聞いてもいいですか?」
「ああ?」
「この犬、ふつうより嗅覚が敏感なんじゃないですか? もっと言えば、何かの訓練を受けたことがある」
おじいさんはとつぜんのことにビックリしながらも、うなずく。
「うん。そうや。この子はな。もう引退してんけど、若いころ病院で実験に協力しとったんや」
「病院。やっぱり……」
ちんぷんかんぷんの運転手さんは、
「待ってくれ。トイレだけ行かしてくれへんか」
大急ぎで走っていった。そのしばらくあとだ。急にコロ太郎が吠えだした。猛も顔をしかめる。
「やっぱりそうだ。なんか、変な匂いがする」
猛が言うと、言葉がわかっているように、コロべえがクーン、クーンと悲しげに鳴いた。
「やあやあ、お待たせ。どうも最近、腹ぐあいがすぐ悪うなるんや。すまん。すまん」と言いつつ出てくる運転手さんに、猛は宣言する。
「あなた、今すぐ病院に行ったほうがいいですよ」
「はあ?」
「この犬が協力してた実験っていうのは、
「おお、そうや。ようわかったな」
な、なんと!
そう言えば、犬が飼いぬしの異常な匂いに気づいて、癌を見つけたって話、テレビではよく見る。外国ではそれを利用して、癌の探知犬を育成してるとかって話題も聞いたな。
猛探偵は続ける。
「あなたの今の話を聞くと、たぶん大腸あたりに問題があります。早期発見なら
運転手さんは青くなっていた。が、コロビンのつぶらな目を見つめているうちに信じる気になったようだ。
「わかった。仕事、半休もろて行ってみる」
僕らは運転手さんを見送った。
*
後日、運転手さんから話を聞いた。猛の言うとおり、大腸癌だったらしい。だけど、きわめて初期のステージ0。内視鏡手術で切除して、転移はなかった。
「ほんま、君らには感謝や。これ、つまらんもんやけど。おおきにな」
大きな松葉ガニをお礼にもらった! やったね。
「最初に気づいたのは僕らじゃないし、お礼はコロに言ってください」
「もちろん、言うたよ。高めのドッグフード、プレゼントした。とにかく、君らとコロンボには大感謝や」
思わず、僕と猛は顔を見あわせる。
「コロンボ?」
「あれ? コロの名前、知らんかったんか?」
知らなかった。うちじゃ、さんざん、コロッケとか、コロピーとか、コロコロマックスとか言ってたのに。
まさかの往年ドラマの名刑事と同名だとは。
運転手さんが帰ったあと、僕らは同時にふきだした。
「コロンボだって。どおりで名犬だね」
「だな」
これにて、東堂家の公園わんこ事件は解決した。
ただね。一つだけ解けない謎が残されてるんだよね。
うちの兄ちゃん、嗅覚が犬なみって、どうよ? 猛、恐るべし!
了
東堂兄弟の5分で解決録2〜公園わんこ事件〜 涼森巳王(東堂薫) @kaoru-todo
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