第9話 おっさんのことより気になるんだけど!?
神楽雅。
あまりに衝撃的な邂逅。
そして告白。
ぶっちゃけ。
俺のなかで彼女は、かなり特別な存在となった。
俺は、家に帰ってからもずっとあの子のことを考えていた。
あいつはどういう女の子なのか。
どこまでが本気なのか。
どれまでが本当なのか。
彼女という存在のおかげで、謎は増えてしまった。
どうして俺と神楽だけが、咲良のことをおっさんとして見えているのか。
そのことのヒントを、本当は彼女も知っているんじゃないか。
知っているけど、俺には黙っているんじゃないのか。
なんとなくだけど。
そんな気がする。
少なくとも、まだ全ては話していない。
そのような印象をうけた。
そんなことを栓なくだくだくと考えていた。
もちろん、彼女のことを友達にも聞いた。
赤井と白田、そして彩香。
もちろん、咲良にも。
彼らは口を揃えて言った。
「ごめん。よく知らない」
これは半ば予想通りだった。
神楽は本当にいつも一人でいる。
誰かと親しげにしているところを見たことがない。
ただ。
彩香だけは、彼女の噂を一つだけ聞いていた。
「なんか趣味が結構珍しいらしくてさぁ。えーと、なんだっけ。たしか――」
黒魔術! と、彩香は電話越しに少し大きな声を出した。
「くろまじゅつぅ?」
俺は思わず顔をしかめて、間の抜けた声を出した。
「なんだよ、それ」
「うーん、私もよく知らないんだけどぉ。なんか、そんな感じっぽい雰囲気のことを言ってた気がするっぽい」
っぽい。
これは彩香の口癖だ。
なんでも曖昧にしたがる彼女らしい癖である。
ただ今回はおそらく、本当に記憶が曖昧なんだろうと思う。
黒魔術。
この言葉は占いとかタロットとか、その程度として受け取っておいたほうが良さそうだ。
いずれにせよ――
「女子中学生がやる趣味とは思えないな」
と、思わず俺は言った。
クラスメートの女子がやってること。
それは人気動画サイトを見たり詐欺メイクアプリをやったり。
或いはコスメを試してみたり。
そんな感じだ。
俺は想像してみた。
うす暗い部屋。
お香の匂いが漂っている。
床には魔方陣。
蝋燭の燭台が円状に等間隔で置いてある。
そのど真ん中に、黒マントを身につけた神楽。
真っ黒の衣装に、真っ黒の髪の毛。
冷たい瞳。
なんだ。
めちゃくちゃ――しっくり来てしまう。
なんかやってそう。
一度そのように思うと。
なんか、本当に神楽は黒魔術をやってるんじゃないかと思えてきた。
アフリカとか中米とか。
あの辺りの部族の魔術を研究してるんじゃないのか。
そのように思い付いて、背筋がぞくりと冷えた。
とりあえず、ありがとうなと言って、俺は彩香との電話を切った。
「黒魔術、ね。馬鹿らし」
俺は一人ごちてから、ごろんとベッドに横になった。
そうは言っても。
やはり気にかかる。
何故なら。
黒魔術と言えば、"呪い"だ。
他者に対して、科学では説明できない呪いをかけたりする。
そして"呪い"と言えば――
俺は今、まさに、呪いにかかっているではないか。
それはつまり。
神楽雅こそ、咲良をおっさんに見せている張本人ということになりはしまいか。
あり得ない?
いや――あり得る。
俺は頭をブンブンと振った。
だって。
だって、動機がある。
神楽には、動機があるじゃないか。
それは。
神楽本人が言ってたじゃないか。
俺に咲良は渡さない、と。
頭の中で、かちりとパズルがハマるような音がした。
そうだ。
そうだよ。
それなら。
神楽が俺が咲良のことをおっさんに見えていることを知っていても不思議じゃない。
何しろ
俺はがばりと起き上がった。
どうやら。
明日、神楽に聞かなければならないことが出来たようだ。
コンコン。
と、そのとき。
急にベランダの窓がノックされた。
目をやると――そこには、おっさんがいた。
ああいや。
おっさんに見えているけど、咲良だ。
咲良がいた。
俺は驚いた。
ちらと時計を見ると、もう夜の8時である。
「えへへ。来ちゃった」
ちくしょう。
このギャルゲーのようなシチュエーション。
俺は喜ぶべきなのか。
それとも、悔しがるべきなのだろうか。
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