第6話 おっさんのこと知ってんの!?
放課後になり。
教室はいっきに閑散とした。
クラブ活動に行くもの。
塾に行くもの。
駄弁りながら帰るもの。
みんなてんでに教室を出ていく。
咲良も彩香も、赤白コンビも、今日は用事があるようでみんな先に帰っていった。
俺ははあため息を吐いて、机に突っ伏していた。
今日はマジで色んなことがあった。
ありすぎた。
疲れた。
ツッコミ疲れた。
精神的に堪えた。
幼馴染みの美少女がおっさんに見える。
そのことがこんなにもストレスになるだなんて。
俺は脱力して、しばらくそうしていた。
「柳原くん」
声がして、顔を上げた。
すると。
見知った顔が目の前にあった。
「か、神楽?」
俺は思わず体を起こし、居ずまいを正した。
クラスメートの一人である。
なのでもちろん顔は見知っているのだが。
同窓というだけで、ほとんど面識はない。
会話をしたこともこれが初めてだ。
というか。
神楽はいつも一人でいて。
あんまり友達と話しているのを見たことがない。
ぶっちゃけ。
声を聞いたのもこれが初めてかもしれない。
だから驚いていた。
どうして神楽が。
放課後に残って、わざわざ俺に話しかけて来たのか。
「ちょっと話してもいいかしら」
神楽は気だるげに髪を
「え? あ、ああ、もちろん」
「ありがと」
神楽は素っ気なく言い、俺を見下ろした。
オレンジに染まる教室。
人気のない空間。
なんとなく、ドキドキした。
「柳原くんってさ」
と、神楽は言った。
「今日、なんかちょっとおかしいよね」
「そ、そうかな」
「うん。なんていうか、一人で悶えたりしてるし、独り言も多いし」
「こ、こんなもんだよ。ほら、俺ってちょっと大袈裟なとこあるし。春先でテンション上がってるだけ」
「ほんとになんでもないの?」
「うん」
「そう」
神楽はちらと視線を外した。
その横顔を見て思った。
この子。
よくみると結構な美人だ。
あんまりまじまじと見たことなかったけど。
「氷見さんって」
どきりとした。
「氷見さんって、柳原くんの幼馴染みだよね」
「ま、まあ、一応」
「彼女なの?」
「まさか。腐れ縁ってやつだよ」
「ふーん。そう」
神楽はそう言うと、じろりと俺を見た。
初めて感情が伺えた。
この視線は――苛立ちだ。
彼女は俺に、苛立っている。
「咲良がどうかした?」
俺は聞いた。
思ったまんまを聞いた。
何故、今、ここで。
神楽は俺に咲良のことを聞くのか。
これまで一度も話したこともないのに。
「うん。なんかさ、柳原くんの今日の態度。氷見さんに関係してるのかなって思って」
その言葉でさらに心臓が跳ねた。
「そ、そんなことねーけど」
俺はすっとぼけた。
「そう。なら良いんだけど」
しかし、そんな俺を見て、神楽はさらに言った。
「ごめんね。もしかして、柳原くん、氷見さんのことが、氷見さんじゃないように見えてるのかなって、そんな風に見えたから」
強烈な言葉だった。
明らかに、何かしらの"意味"を込めていた。
俺は驚いた。
驚きすぎて、椅子から転げ落ちた。
その様子を見て。
綺麗なクラスメートは、クスクスと笑い――
「やっぱり、そうなのね」
そう言って目を細めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます