第5話 おっさんの手作り弁当!?


 昼休憩になり。


 クラスメートは学食に行ったり、弁当を取り出したり、或いは売店で買ってきたパンを持ち出したり。


 みんないつものように、てんでに食事を始めた。


 俺はいつものようにカロリーメイトとパックのコーヒー牛乳。


 正直、腹に入ればなんでも良いタイプ。


 白田、赤井と一緒に教室の隅で駄弁りながらそれらを食べていると、


「なによあんた! まーたそんな栄養の偏るもの食べて!」


 おっさん咲良がやってきた。


「うるせーな。俺はこれでいいの」


 俺はそういうと、パックのコーヒー牛乳にストローを刺し、チューチューと吸った。


 すると彼女は呆れたような口調で、しょうがないわね、と言った。


「ほら、これ。私は彩香と売店でなにか買って食べるから」


 そう言って、彼女は自らの弁当を差し出した。


「いや、だから要らねーってば。おばさんにも悪いしよ」


「良いから! あんたが食べなさい! お母さんには事情を話しておくから! 言っとくけどね! 別にあんたのことを心配してるわけじゃないんだからね! あんたが体調崩したら、私があんたの面倒見なきゃいけないから、それが嫌だからこうして気にかけてるだけなんだから! 妙な勘違いはやめてよね!」


 咲良は強引に俺に弁当を持たせると、スカートを翻して踵を返して歩いていった。


 俺は手元の手作り弁当に目を落とした。


 可愛らしいキャラのハンカチに包まれたお弁当箱。


 ずしりと重たい。


 明らかに咲良が食べるような量じゃない。


 もしかして――あいつ、食欲もおっさん化しているのだろうか。


 そう思うと胸がざわついた。


 外見がおっさんで。


 中身もおっさんになったら。


 さすがに愛せそうにない。


 中身も外見もおっさんの人間は。


 それはもうただのおっさんだからだ。


「ごめんねー」


 そんな風に思っていると。


 彩香がやってきた。


「そのお弁当、咲良ちゃんが最初から翔平くんのために作ってきたのー。咲良ちゃんってば、いっつも翔平くんの偏食を気にしてたんだよー」


 だから食べてあげてね。


 彩香はそう言うと、可愛らしくウィンクをして見せた。


「ほらー、なにしてんのー? さっさと行くわよー」


 咲良が彩香を呼ぶ。


 すると「それじゃあね」と言って、彩香は咲良と共に教室を出ていった。


 そうか。


 そうだったのか。


 咲良のやつ。


 俺のためにわざわざ弁当を作ってくれたのか。


 俺は胸がキュンキュンした。


 相変わらずおっさん姿なのはキツいが。


 やっぱり中身は優しくて素直になれない咲良のまんま。


 最高の幼馴染みなのだ。


 俺は少しでも疑った自分を責めた。


 見た目なんてマジどうでも良い。


 俺は咲良が好きだ。


 大好きなのだ。


 俺は改めてそのことを確信した。


「氷見のやつ、すっかり翔平のお母さんだな」 


 赤井が冷やかすように言った。


「そうだな」


 俺は言った。


 だけど心の中では。


 今はどっちかって言うとお父さんだけどな、と、そう思っていたが、口には出さなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る