第21話 馬車と、王子と、慰め

 婚約破棄の元凶の魔法学園。

 そこに行くにあたって色々な物を用意した。

 まずは3人分のメイド服。

 そして、仮面。

 俺は面が割れているから、仮面を被って、名前もエルを名乗る事にした。


 準備は整いテトラが御者台に、俺とラピアお姉様とフォリアが馬車に乗り込む。

 暇だからさ、やってしまうよね。

 まあ、あれだよ。


「酷い、私も混ぜて!」


 御者台のテトラが不満を漏らす。


「歳をとったのかねぇ。いき過ぎて、腰が辛くなってきたさ。代わってあげるよ」


 ラピアお姉様がテトラの代わりに御者台に乗った。

 三人でいちゃいちゃしながら、馬車は進んでいく。

 ガクンと馬車が停まった。


「はうん」

「敵だよ!」


 無粋な敵だ。

 良い気持ちだったのにな。

 食らえ恨みの、大火球。


 馬車の窓から身を乗り出した。

 下半身には何も穿いてない。

 こんな格好で失礼いたしますわ。


 火球のポーションを舐める。

 敵は黒ずくめの男達だった。

 次々に火球に飲み込まれていく男達。

 あっけないな。


 馬車でいちゃいちゃする作業に戻った。

 流石に一日中はいちゃいちゃ出来ない。

 けだるさの中、賢者タイムとなった。


「あの黒ずくめの敵は母が雇った刺客に違いありません」

「頭は潰したはずなんですけど、なんででしょう」

「一度受けた依頼は取り消したりしないそうです。依頼主が死んでもです」


 なるほどね。

 まだ、必殺姉妹人のミッションは終わってないという事か。

 魔法学園は王都にある。

 刺客達の本拠地も王都にあると見ていいだろう。


 そんな事より、またいちやいちゃしたくなってきた。

 乾く暇がないな。

 いいかげん自重しないと。

 まあ、そんなこんなで、王都の魔法学園に着いた。


 試験は既に終わっていて、授業も始まっている。

 大遅刻だが、旅行とかで休む生徒は多い。

 学園は気にしないそうだ。

 貴族用の寮に入る。

 俺は使用人部屋の一つに入った。


 懐かしさがこみ上げてくる。

 エンゼルの記憶というか感情だろう。

 寮から出て、学園に入り廊下を歩く。


 向こうから取り巻きを連れて、シクリッド王子が歩いて来る。

 嫌な奴に会った。

 廊下の端に避け、会釈してその場に留まる。


 シクリッド王子はすれ違い、止まった。

 そして首を傾げる。


「おい、メイド。仮面を取れ。不作法であろう」

「お許し下さいませ。仮面の下は過去の出来事で醜く歪んでおりますの」


 今のエンゼルの顔を鏡で見たら色々な感情がごちゃ混ぜになって歪んでいるだろうな。

 恋慕、嫌悪、歓喜、失望、それに殺意。


「ふん、どこかで会わなかったか」

「いいえ、初対面ですわ」


 転生の記憶が戻ってから初めて会った。

 だから初めてだ。


「おい、嘘判別魔法を掛けろ」

「はいはい。【嘘判別魔法】。さっきの質問の答えは真実です」

「そうか、気のせいだったか。メイド、行っていいぞ。ああ、そうだ。名前を聞いておこう」

「エルですわ」


 ふう、なんとかなった。

 用心深い奴だな。

 王族はそのくらいでないと生きていけないのだろう。


 授業の行われている教室にそっと入って、一番後ろの席に着く。

 懐かしいという思いが溢れて来る。


 エンゼルの事を考えたら、また学園に通えるようにしてやった方がいいのだろうか。

 それにはエンゼルの冤罪を証明しないといけない。

 今の俺なら出来そうな気がする。


 エンゼルには悪いが幸せな結婚は望めないな。

 男の心だと男に触られたりしたら鳥肌ものだ。

 この性癖は治りそうもない。

 エンゼルよ、一杯慰めてやるからな。


 教室をそっと出て、自室に戻った。

 全身をゼリーにくるまれ快感に身をゆだねる。

 ここから先は乙女の秘密ですわ。


 十分と言えるほど慰めた事は確かだ。

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