第11話 商業ギルドと、医者と、お姉さん

 飛び込み営業はやった事がない。

 女の子の身だと貞操の危険とか色々がある。

 男に抱かれるなんて真っ平だ。


 舐める程度だと、ポーション瓶は使えないな。

 もっとも、金が無くて、それも買えないが。


 今まではコップに入れてたが、売り物となるとそうはいかない。

 ソフトカプセルにしたいところだ。

 卵の白身でなんとならないかな。

 そう思うが、卵を買うお金が無い。


 ポーションはまとめてだと、どこで売れるんだ?

 知識にも答えはなかった。

 エンゼルは世間知らずだからな。


 辛うじてあった知識は、商業ギルドがあるって事だ。

 行くしかないか。

 道行く人に聞いて商業ギルドに辿り着いた。


 大通りに面した一等地に商業ギルドは建っていた。

 金貨とペンの紋章の看板が掲げてある。


 どんな業務かと知識を探れば、金を貸したり、契約を取り仕切ったり色々だ。

 要は銀行と公証人役場と商工会議所が、一緒になったみたいなものだろう。

 恐るるに足らんな。


 扉はないので、そのまま入ってカウンターへ。


「品物を売りたいのですが」

「取引相手のご紹介という事でしょうか?」

「そんなところですわ」


「扱う品物と数量をお教え願えますか?」

「品物は治療のポーションで、数量は100本ぐらいですが、よろしくて」

「ふん、馬鹿にしてもらっては困ります。その規模ですと商業ギルドでは扱えません。お、わ、か、り、で、す、か」


 鼻で笑われてしまった。

 ムカつく事と言ったらない。

 魔法をぶっ放してやりたくなったが、我慢だ。


「量はまだ作れますわ」

「第一、あなた、紹介料を払えますか」

「いくらですの」

「金貨1枚です。それにポーションの鑑定書は持ってますか?」


 金貨と鑑定書は無理だな。

 魔石を売れば何とかなるかも知れないが、鑑定書は難しい。

 エンゼルの知識ではいかんともし難い。


「もう、結構ですわ」


 仕方ない。

 医者の所に飛び込み営業しよう。


 医者の場所もすぐに分かった。

 俺が病気だとでも思ったのか、道行く人に聞いたら、親切に教えてくれたのだ。


「お邪魔致しますわ」

「病気かね」

「治療のポーションをお売りしたいのですけど、いかがかしら?」

「お嬢さん、どこの誰だか知らないが、そんな物は買い取れない。良いかい。薬は信用が第一だ。効果の怪しい薬など誰も買わない。出直すんだね」

「そうですか、仕方ありませんわね。では、ごきげんよう」


 くそう、これではどこに行っても見込み薄だ。

 ポーション瓶の問題も解決してないし、露店で売るの色々とありそうだ。

 くそっ、上手くいかない。


 高さが2メートルぐらいの小さな橋が川に掛かっている。

 橋の上でウロウロしているアダっぽいお姉さんを見つけてしまった。


 みると懐が膨らんで、重そうに垂れ下がっている。

 金貨なら金持ちだが、たぶん石だろうな。


 俺はどんな事があっても自分からは死なんぞ。

 お姉さんにどんな事情があるのかは知らないが、ここで見つけてしまったのも何かの縁。

 一肌脱いでしっぽりいきたい、じゃなくて、一肌脱いで万事解決。


「さっきから見てましたが、目障りですわ」


 自殺者を怒らせて、思いとどまらせるのをドラマでやっていたから真似してみた。


「あんた、何だい?」


 お姉さんは怒ったようだ。


「怒る元気があるなら、生きてみてはどうでしょう」

「何も知らないで」

「ええ、知りませんわ。ですから、とっとと話して下さいませ」

「病気なんだよ。死病に掛かっちまってね」


「どういう病気なのか説明して下さらない?」

「男とやるとうつされる病気だよ」


 性病ですか。

 ウイルスなら、手引書の魔法でなんとかなる。


「そんな事」

「そんな事って軽々しくお言いでないよ」

「たぶん、治ります」


「本当かい。嘘を言ったら承知しないよ」

「わたくしのポーションを飲めば治るのですわ」

「ううっ、治る。治るんだね」


 お姉さんは泣き出した。

 落ち着く為にも場所を変える事にした。

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