第10話 領都ソレノイドと、ポーション屋と、あん♡そこっ♡ポーション

 この街、領都ソレノイドはエンゼルの知識にある。

 10年前まではバリアブル領だった

 反乱を起こして改易になり、ソレノイド伯爵にこの地が与えられたのだ。

 ソレノイド子爵はちょうど陞爵して伯爵になったところで、王は厄介なこの地を押し付けた。

 今でも民は王家に反抗する精神が残っているらしい。

 王子から身を隠すにはうってつけだな。


 切実な問題として金がない。

 魔石はポーションを作る為にできれば売りたくない。

 洞窟から持って来た食器類は二束三文だろう。

 パン製造機は売れるだろうが、これはいざという時の為に残しておきたい。


 魔法は召喚魔法だから、硬貨を召喚できないかやってみた。


extern void coin_summon(void);


void main(void)

{

 coin_summon(); /*硬貨召喚*/

}


 ポーション化して飲んでみたが、召喚されたのはボロボロになった銅貨。

 腐っていて、手でボロボロと崩せる。

 こんなの使えない。


 どうやら、複雑な加工品ほど魔力の抜けが遅いらしい。

 他人の魔力が抜けないと召喚出来ないのは分かっている。


 困ったもんだ。

 俺は、ポーション屋の門を叩く事にした。


「失礼いたしますわ。ここで雇って貰えないかしら」

「あんた、職人歴は?」


 中年の女性が疑うような目つきで尋ねてきた。

 どう言おう。

 魔石で作るポーションは魔王でも作れなかったんだよな。

 これを作れる事を言ったらどうなる。

 詐欺師呼ばわりか、天才扱いかどっちかだな。


「魔石から作るポーションなら、熟練してますわ」

「ふん、聞いた事のない作り方だね。普通の薬草で作るポーションは作れないのかい?」

「生憎と作れませんの」

「じゃあ、やってみるかい?」


 親切な人だな。

 門前払いしないんだな。


「ええ、やってみようかしら」

「薬草から作るポーションは簡単さ。薬草を煮て、濾した溶液に、魔力を入れりゃ良い。濾した溶液があるから魔力を込めてみな」


 瓶に詰められた緑色の液体がある。

 これが完成前のポーションか。

 それを一つ手に取り、魔力を流すイメージをする。

 魔石に魔力を流したような感覚がない。


「出来ないみたいですわね」

「それが普通さ。才能がある人間しか薬師にはなれないんだよ。だから門戸はいつも開いているのさ。どんな人間に才能があるか分からないだろう」

「そうでございますか。わたくしには無理のようです」

「残念だけど、諦めな。たぶんどこに行っても同じことを言われるさ」

「お邪魔致しました。では、ごきげんよう」


 俺はポーション屋を後にした。

 さっきの試験だが、出来る可能性はある。


 魔力を移すプログラムを組めばいい。

 だが、ポーション1つ作る毎に、ポーションを舐めていたら、何の為に作っているのか分からない。

 魔石の値段は高い。

 採算が取れないだろうから、実用的ではない。


 俺のポーションはポーションであってポーションではないんだな。

 名前を付ける事にした。

 魔石を液体にしてプログラムを入れているわけだから、アン・ソース・コード・ポーション。

 短くして『あん♡そこっ♡ポーション』。

 エッチな目的に使えるネーミングだ。


 さあ、困った。

 何の仕事なら出来るだろう。

 家政婦あたりか。

 料理は苦手なんだがな。

 とりあえず、売るためのポーションを作ろう。


 傷をかさぶたにするプログラムを作ってみた。


extern void natural_healing(void);


void main(void)

{

 natural_healing(); /*自然治癒*/

}


 大きな怪我は治らないが、かすり傷ぐらいなら治るだろう。

 自然治癒の仕組みを知らないので、大雑把なプログラムになってしまった。


 試しに包丁で指先を切って、ポーションを舐めてみた。

 すぐに傷は治った。

 意外に性能はいいみたいだ。

 病気も風邪ぐらいなら治るかもな。

 わざと風邪はひけないから、試験はできないけどな。


 コップ一杯の自然治癒ポーションがあるけど、どこで売れば良いんだ。

 薬師は駄目そうだな。

 信用が無い職人の物なんか買ってはくれないだろう。

 100回分ぐらいの量はあるから、まとめて売れそうな所を狙おう。

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