第28話  旅立ち  4

「隆、童玄と私がなぜ別々に生きなければならなくなったのか、童玄からはなにも聞かされてはいないのか」


「はい」


「そうであろうな。まだ五歳になって間がないにも関わらず、この様な目に遭わなくてはならぬとは」


 銀月梠は項垂れた。


「おじさん、大丈夫ですか」


 銀月梠は隆の頭を撫でる。


 『私たちの長兄、春絽しゅんろうが天宮の地に亀裂を入れ龍神龍王バイロン様の跡目を継ぐ子供たちを下界へと落としてしまった。なぜその様なことが長兄にできたのか、大人になった今でも理解できない。方々に散らばってしまった龍神かみの子供たちは天宮の城に戻れなくなってしまった。その償いに父は下界に落とされ、長兄もどこかへと消された。そして私たちがその報いを受け、今に至っているのだ。長兄が龍王バイロン様の怒りをかわなければ、私と童玄はずっと共にいられたはず、本心を語れば、独りで生きる事は決して安楽だったわけではない、やはり童玄とは共に過ごしたかった。このガルバナの森に落とされた私は精把乱に出会った。精把乱が居てくれたからこそ、今の私が在ると思っている。ひとりきりではないと思わせてくれた精把乱には感謝しているのだ。隆よ。もし、私が思っている以上の力がお前に在るのであるならば、私には会うことが許されない龍王バイロン様にお会いして、訊いて来てくれぬか、私と童玄はいつまで離れ離れで居なければならぬのかと』


 隆は銀月梠の心の声を訊いて悲しくなった。大きなどんぐりお目目から大粒の涙が溢れて、頬を伝って落ちていく、精把乱は銀月梠の心の声は訊けなくても気持ちは伝わってくる。涙を流すものだからブロッコリー頭の葉は水分が無くなりしんなりと萎びて垂れ下がる。


 尊敬する偉大な父、童玄も銀月梠と同様、悲しみを抱いているのなら助けてあげたいと思った。困っている人を助けるのが隆の宿命である。隆の目から地面に雫がぽつりぽつりと落ちて、そこに生えるオジギソウがじわりと葉を閉じた。三人が座っている周辺に生え茂るオジギソウは次から次へと森の茂みまで

閉じて道を作った。


「あっ!」


 涙を通してぼやけた小さな光の粒が見えて隆は目をこすり涙を拭った。


「どうしたのだ。隆」


「おじさん見えました」


「オジギソウが教えてくれたようであるな」


 隆は立ち上がり小さな粒の光に向かい歩き出す。


「隆様!」


 精把乱の声に隆が振り向いて微笑んだ。


「僕、行ってきます!おじさん、僕、必ず駿さんを見つけて、戻ってきます。精把乱、また、オレンジのジュースを作ってくださいね」


「はい!もちろんです。隆様の戻ってくるのを首を長ーくして待っております」


「隆、気をつけるのだぞ」


「はい!」


 隆の背中は勇ましく光の中に溶けるように消えて行った。

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