第27話  旅立ち 3

 朝食を済ませた三人は家を出て小川にかかる橋を渡り闇の森を歩いていく、銀月梠と精把乱の間を歩く隆は奥歯を噛み締めしっかりと歩いているが、かなり緊張しているようだ。


「大丈夫か、隆」


「はい、おじさん」


 隆は銀月梠と精把乱の手を握った。緊張しているせいか冷たい手をしている。


「よいか、隆よ。あやつに、たどり着くまでいろんな声が聞こえてくるだろう。お前の進む道を阻もうとする者たちが必ず姿を現す。惑わされる事なく、自分を信じて進むのだぞ」


「はい、おじさん」


 隆はふーっと息を吐いた。


「あっ!わたくし、隆様に描いてもらうのを忘れておりました」


 精把乱はショックを受けて身体を折り曲げて落ち込んだ。落ち込む精把乱の手をぎゅっと強く握りしめ、


「精把乱、ぼくの部屋の机の上におじさんと精把乱の似顔絵描いておきました。帰ったら見てください」


 隆はにこやかに二人を交互に見上げ、銀月梠は隆の頭を優しく撫でて微笑んだ。


「では戻ったらお前の絵を見るとするか、隆よ。そこが入り口になる」


「そこ?」


 辺りを見渡すが入り口らしきものは無い。


「どこですか?」


 銀月梠が指し示すそこには、今歩いてきた道と変わらぬ道が先の方まで続いているだけだ。しかし銀月梠は立ち止まり、隆を見やる。


「お前には見えぬのか」


 隆は少しばかりひとりで前に進んで辺りを見渡した。それでも入り口は見当たらない。困った顔をして銀月梠に振り向いた。


「おじさん、入り口なんてどこにもありません」


 樹木の間にも目をやり、闇の中のどこかに入り口があるはずと隆は懸命に探した。


「おじさん」


「その辺りを見ていても、見つけることはできない、感じるのだ。どこが入り口なのか、心で訊くのだ。隆、神の聖域は感じなければなにも見えない、見ることなど出来はしないのだ。隆、心だ。理解できたか」


「はい、おじさん、心で感じるんですね」


 心で感じようとするけれど片目を少し開けて闇の中に入り口を探している。銀月梠には隆の様子が分かり「ふう……」と息をついた。精把乱もブロッコリー頭を斜めに倒して隆の姿を見ている。


「やはり五歳の隆には酷であるのか」


「銀月梠様、少し修行をなさってから聖域に侵入した方が良いのではないですか、今、入って無事に駿太郎様に会えるとは限らないと思いますし、私は心配でなりません」


「精把乱、あまり時間がないのだ。あの男は助けを求めない、先へと進み、龍神龍王バイロン様の懐に入ってしまうかも知れぬのだぞ」


「懐に!それは……まだ誰も成した事はない事です」


「褒められたものではない、急がねば間に合わぬ」


 銀月梠は頭を悩ませる。


「隆、ここに来て座りなさい」


 銀月梠は杉の大木の根元に腰を下ろしすと隆は嬉しそうに駆け寄り横に座った。精把乱も横に座り三人並んで杉の大木に三人同時にもたれかかった。








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