第26話  旅立ち 2

 食事を済ませ部屋の横にある風呂に浸かる隆は精把乱と共に闇の中の森を眺めている。

湯気が立ち上がり隆の頬はほわりと桃色に染まっている。


「精把乱、ぼくはもっと、おじさんと精把乱と一緒に居たかったです。でも駿さんを助けに行かないといけないから、駿さんと帰って来たらまた一緒に遊びましょうね」


「はい、隆様、私は隆様が帰ってこられる事、この首をなが〜くしてお待ちしております」


 と首をめいいっぱい伸ばした。


「さあ、そろそろ出ましょう。ベッドに入らなければ、裸のまま眠る事になりますよ」


「裸は恥ずかしいです」


 二人は笑った。寝巻きを着せてやりベッドに横になった隆は天井を見上げて、少しばかり、心を落ち着かせて、ベッド脇の精把乱を見た。


「精把乱、今日も美味しいご飯とクッキーとオレンジジュース、ありがとうございました。おやすみなさい」


 隆が目を閉じて眠ると、


「おやすみなさい。隆様」


 精把乱は隆の手を握りその場で眠りに落ちた。


 翌朝といっても闇である。銀月梠が部屋に入ると二人は手を繋いで眠っている。精把乱の寝顔には涙が流れていた。銀月梠の予感は精把乱にも感知できる。


「精把乱、起きなさい」


 銀月梠の声に驚いて飛び起きた精把乱は、


「あっ!朝食の準備を致します。あっ!銀月梠様、おはようございます」


 慌てて台所へと走って行った。


「焦ると飛ぶことさえも忘れるのだな」


 その声に隆も目を覚ました。


「おじさん、おはようございます」


「おはよう、さあ、朝だ。隆、起きなさい」


 とはいっても闇である。


「はい、おじさん」


 寝巻きを脱ぎ、青の長パオに手を通す隆にそっと手を貸してやった。


「おじさん、ありがとうございます。この長パオ、着るの難しいんです」


 頭からかぶり袖に腕を通す服は五歳の隆には少しばかり着にくい服である。顔を出した隆の目は、相変わらずどんぐりお目目で銀月梠の目をじっと見ている。


「こうしてみると、隆の目は大きな目をしておるな。怜にそっくりだ。お前の目玉は黒々として綺麗であるの」


 隆は嬉しそうな顔をして、銀月梠に抱きついた。抱き返す腕が小さな身体を包み込む。立ち上がる銀月梠の手にさりげなく手に手を絡めた。その小さな手を握り返す手には愛おしさが溢れている。


 珍しく朝寝坊をしてしまった精把乱は懸命に朝食を作っている。その間、隆は書物室にあるペン挿しに珍しい色のペンを見つけてそれを手に取った。必要な文具を持って自分の部屋へと戻り和紙を机の上に広げ置くと椅子に座り深呼吸をした。


「おじさんの顔を描くのだから、気持ちを整えます」


 隆は背筋をぴんと伸ばし、銀色のペンを持つと頭に銀月梠を思い浮かべ、すらすらと描いていく、描いている間にふと閃いた表情かおをしたかと思ったら黄金色のペンを持って再びすらすると描き足す。


「描けました。おじさん、喜んでくれるといいですね」


 隆は部屋の窓から精把乱の作る美味しそうな朝食の匂いが漂ってきたから素早く立ち上がって食卓に向かった。


 隆が描いた銀月梠の絵から神々しい光が浮かび上がる隆が描いた絵には魂が吹き込まれる事を幼い隆はまだ気づいていない、きらきらと輝き放ちだす金色と銀色の眩い光は部屋全体を包んだ。




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