第2話 「学童クラブと木村君」


 季節は、連休明けの5月上旬になる。窓の外からは晴れやかな陽光ようこうが降り注ぐ。

 

 石巻先生は、テーブルに向かいアリの絵を黙々と描く少年を、優しい眼差まなざし、でみつめている。石巻先生は、学童支援員には珍しい男性スタッフで、元は中学校の先生。定年退職後の正におじさん先生なのである。

 

 絵を描く少年の名は、昆虫大好き吉田桃介よしだももすけ君、小学1年生になる。


 石巻先生は、本日出席の33名の名簿を片手にチェックしながら全員を把握出来ると、なんとなく安堵あんどする。


 私語で、ザワつく喧騒けんそうの中、吉田少年にそっと語りかけるのだ。


 「桃介君は、何で虫が好きなんだったったかな?」


 「…動いてるから」


 「ん?ええっと、先生も動いてるけど。ええっと、車とかも…?」


 「自分の力で動いてる。スイッチがない」


 「な、な、なるほどねえ………。ん?しかし桃介君もスイッチないぞ?」


 「えっとね、僕は先生が話しかけたらスイッチが入るけど、よく止まってるよ」


 「ははあ…。なんとも哲学的だな」

 

 「桃ちゃん、また虫描いてんの?虫ならカブトムシが得意だ。描いてやろっか?」


 隣で、話に割り込んだ少年は、手際よくカブトムシの絵を写実的しゃじつてきにササッと強引に、桃介君のジャ○ニカ学習帳に書き込んだ。


 「れい君は、絵が上手いよね。いいなあ」桃介君は、微笑しつつ、つぶやいた。

 

 この割り込んだ少年こそ今回のお話の中心となる主人公、そう、ぼくである。


 僕は、木村玲きむられい。小学2年生である。アニメ名探偵コ○ンや、冒険小説をこよなく愛する。小学2年生にしては、自分で言うのも変だけど、一風変わった少年である。

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