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タガが外れる、とはまさにこんな様子。
弾けるような脚力/歓声をあげて駆け出す子ども×4。早業と言わざるを得ない手付きで衣服を脱ぎ捨てる/下に買ったばかりの水着を着ていた。
子どもたちに続いて自称・神が海へめがけて走り出した。
「いぇーい」「わーい」「やほー」「およぐぞー」
「グァハハアハハハハハハハ!」
自称・神=カグツチは子どもたちと一緒に過ごさせすぎただろうか。一見するとガタイのいい湘南男なのだが、無邪気さは小学生のそれと変わらない。
お盆前の横浜・海の公園=家族連れ、カップルでかなり混んでいるが、早めに来たおかげでなんとか場所を確保できた。
はしゃぐ子どもたちと大男の絵柄はかなり周囲から浮いていた=テレビの取材とか来るかもしれない。
「こらこら、走らない。まずは準備体操だ。それとカグツチ、その背中の荷物を背負ったまま海に飛び込むつもりだったんじゃないだろうな」
「ム、いかんのか」
「だめに決まっているだろう。あとそのアロハも脱ぐんだ」
カグツチはドサッと荷物をおろした。そして瞬きする間に派手なアロハシャツが
昔、修学旅行で見た仁王像そのままの姿だった。
「次は準備体操」
「ふむ、初めて聞く言葉だな」
「毎朝、子どもたちがラジオ体操をやっているだろ? あれだよ」
「おおっ、あれか」
本当にわかったんだろうな=子どもたちと波打ち際で一列に並ぶと腕を回して屈伸を始めた。カグツチはだいぶ人間らしくなってきた。
「モモ、遊びに行っていいんだぞ」
「わたし、おねーさんだから、そんなことしないもん。それに人前で服を脱ぐのは恥ずかしいもん」
「下に水着を着てたろ?」
「やだもん。はしたないもん」
モモも大人になったということか。
「ちょっと待ってろ。更衣室を作るから」
高速詠唱。マナの奔流が体の内から流れ出す=カグツチに奪われたマナが回復してやっと本調子に。
カグツチが背負っていた100Lの巨大バックパックがひとりでに起立/畳んで入れておいたレジャーシートが飛び出す/ひとりでに広がって地面に降りた。
さらにもう一枚=銀色の遮光シートがふわりと浮かび上がり、ロープも支柱もなしに浮かんで影を作った。
「私も手伝う!」
モモにせがまれて気づく=こういうことは任せるべきだった。子育ての本にもそう書いてある。
「じゃあ、アクエリアスをみんなに飲ませてきてくれないか。泳ぐ前には水分補給が大切だから」
モモの表情は堅い。が渋々といったふうにバックパックから4本のアクエリアスを抱えて踵を返した。
不満の気持ちを表すかのように2枚の式神がモモの頭の周囲で旋回している。
「さて、次は更衣室か」
「ふーん、次はどんな魔導なの?」
カナ=腕組み。
「壁だよ。魔導障壁で作る」
「あーね」
「あー?」
カナは短く咳払いした。
「九州の方言。ついね。じゃあ、私に任せて。そういうの得意だから」
カナはレジャーシートの中央を見た/指が艶やかに舞い印を結ぶ。軽やかに流れ出すマナはまるで魔導の
遮光シートで作った影の中央=その部分だけ丸く影が濃くなっていく。そして漆黒の円筒が出現した。
「うぉーすっげー」
「ちょっと、ルイちゃん、失礼だよ。その言い方。初めて見ました。すばらしいですね。でしょ」
サナの友達=ワクワクテンションとウキウキテンションがレジャーシートに砂を飛ばしながらはしゃぐ。
「もう、砂が中にはいっちゃうよ」
サナ=マイペース。ふたりのテンションに慣れているようで、平然となだめようとする。
「なあなあ、サナもこんなすっげー魔法が使えんの」
「ここまでの魔導は、まだちょっと」
サナ=ルイのペースにたじたじになる。
はしゃぐ中学生たちの横から、ニシは出現した漆黒の円筒に手を伸ばした。
目は物体が有ると認識しているが、指先は何事もないように空を切った。
「これは?」
「光を遮断したのよ。これなら中で着替えても大丈夫でしょ」
「だが、中は真っ暗だろ?」
「ふふん。マジックミラーの要領よ。中からの光だけを遮断するから外からは見えない」
ニシ=やや考えるように沈黙した。
「でもそれはそれで恥ずかしくないか」
まるでマジックミラー号/未成年の前なのであえて口にせず。
カナもやっと理解したようで、指先が宙をきってマナが再び流れた。
「さ、これで外からも中からも見えないし、ちゃんと中は明るいから」
カナ=ドヤ顔。茶髪のポニーテールがブンブン揺れる。大人としていい姿を見せられて満足げだった。
中学生×3人は黒い円筒形の更衣室に入った。
「詠唱があるかと期待したんだけど。残念だったなぁ。影、というか光の遮断だろ。そうだな、“シャドウ”なんてどうだ?」
ニシは更にバッグから荷物を取り出しながら言った。クーラーボックスやら果物が入ったタッパーやらを出す。
「どうだ、じゃないわよ。というか笑わないでよ」
「すまんすまん。かわいいからつい、な」
しかし反応がない。
「あれ、怒った?」
ニシは恐る恐るカナの方を見上げた。
「別に」
腕組み&妙にソワソワ。さっき以上にポニーテールがブンブン揺れている。少なくとも怒ってはいなさそうだ。
「カナが優秀な魔導士だってわかっているよ。命も救ってもらったし。頼りにしてるんだ」
歯の浮く言葉たち/普段顔を合わせているせいで余計に言い出しづらい言葉たち。まっすぐ見ながら言うのは恥ずかしく/もっともらしくタオルを並べたりテーブルを
「ねえ、ニシ」
「ん?」
「ちょ、呼んだんだからこっちを見てよ」
妙に改まって何だろう=普段のツンと澄ましたインテリという感じではない。
「あの、実はね、私──」
その後の言葉はよく聞き取れなかった。
「ウェェェイ、一番乗り!」「もう、ルイちゃん、ブラもパンツも畳んででないよー」
円筒形の影の中からルイが飛び出す一見すると学校の水着だが背中が大きく開いている/レジャーシートの横でしゃがんでいたせいで、ニシは危うく側頭部を蹴られるところだった。
その後ろ=続いてツカサとサナも出てくる。
「はい、ツカサちゃん。日焼け止めありがと」
「どーいたしまして。ちゃんと塗らなきゃダメなんだからね。」
中学生には似つかわしくないビキニ×2。ツカサに至っては紐でくくっている/いやたしかあれは飾りだった=扇情的すぎないか?
「あっ、お兄さん。行ってきますね」
サナ&ツカサも駆け出した。
なんとなくふたりを目で追ってみたが、振り返るとカナが頭を抑えていた。
「
「ああいうとは??」
何ごとかと再度振り返る=中学生とは思えないサイズが揺れている。
「んなわけないだろ。子どもだぞ。で、さっき何か言いかけてたみたいだけど、相談ごとか?」
「もういい。大丈夫だから。私、着替えてくる」
「あ、そうか。もし何かあったら気兼ねなく言ってくれよ。あとモモも着替えるから、その魔導は消さないでおいてくれ」
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