ヤマドリ

島尾

ヤマドリと友人

 先日、とある池に釣りをしに行った。釣果はゼロ匹だった。


 ところで、その池は非常に自然豊かである。周囲は原生林であり、そこらへんでは見られないような生き物が多い。


 ヤマドリも、その一種である。


 ずっと前に私は野鳥観察サークルに所属していた。大学のサークルである。

 大学ということは、当然先輩、同期、後輩がいる。私は先輩と話すのが得意だった一方、同期や後輩とはほとんど話せなかった。


 従う、というのは、ラクだ。何も考えなくて良いのだから。はい、ですよね、なるほど、などの相槌を打ち、敬語で話すだけで、好印象を持たれる。

 一方、同期と話すのは難しい。話を聞いて、自分の考えを抱き、適切な言葉で発話しなければならない。まず、集団が話している内容を聞き取るのが難しい。全く興味のないことや、難解なこと、会話が自分抜きでも成り立っている場合。これらは、話の内容を理解することを妨げる。次に、自分の考えを抱くことだ。そもそも考えたくない。私は数学の難題について考えることや、化学反応のメカニズムについて考えることは得意な一方、雑談の内容についていちいち考えることをアホくさいと感じる。無駄なエネルギーを使う感じがする。もし考えを抱いても、適切な言葉で発言しなければ相手に理解してもらえない。私は中学高校と、無口で、しゃべることに慣れていない。学力至上主義の中にいたので、周りの人間を敵視し、しゃべるなんてことはあり得なかったのだ。そのツケが回ってきて、まともにしゃべれなくなってしまった。

 後輩との関係構築は割愛するが、猛烈に難しかった。


 さて、私には唯一、今でも連絡を取り合う元サークル仲間の同期がいる。彼は背が極端に低く、男の娘のような見た目で、眼鏡をかけ、物知りだ。ミステリーが好きで、生物全般が好きで、特に蝶々が好きだ。彼のアパートは非常に狭く、それぞれの家具も小さい。彼はラインの返信が早く、言葉選びも上手だ。私の下手な、くだらぬ文章に返信してくれてどうもありがとう。


 さて、例の池に釣りに行ったわけだが、そのときヤマドリを見た。しかも何羽かいて、数メートル先に釣り人がいるにもかかわらず悠然と闊歩していた。ヤマドリは警戒心が強いはずだが……。あそこのヤマドリは、釣り人が敵ではないと覚えているのかもしれない。

 そのことを、彼にラインした。彼は驚いている様子で、そもそもなぜその池に行ったのか問うてきた。私は釣りのためと答え、彼は私が釣りをする人間ということを初めて知った。直後に私が初心者だと謙遜すると、趣味が増えるのはいいことだ、と返ってきた。今思えば、やたら上から目線である。微塵も嫌な気はしない。


 彼は忙しいと思う。数年前に「博士課程にいく」と言っていたから、もう今は博士課程だろう。博士論文を書いているのだろうか。健康面は大丈夫だろうと思われる。彼は萌えキャラに癒されるフシがあるので、その点は悪化していると思われる。おそらく白髪が生えているだろう。


 他にもサークル仲間の同期はいる。が、特に何も思わない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤマドリ 島尾 @shimaoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説