第8話 心霊スポットへ!

 遠は帰ってしまうかと思ったけれど、心霊スポットへ付いてきてくれるようだ。遠のメンタルの強さを意外に思いつつ、ひとりでも多い方が心強いからありがたい。


「ね、せっかくだから、りんちゃんちの神様にお参りしよう!」


 との花梨ちゃんの提案で、出発前に、うちの祠にみんなで手を合わせることになった。特に花梨ちゃんと、もみやまんは熱心にお願いごとをしている。

 お参りを終えたもみやまんが、感心したように祠を見渡す。


「古いが手入れが行き届いていていますね。手入れは母君がされているのかな?」

「ううん、わたしがやってるよ」

「ほう、そうでしたか」


 もみやまんは、にっこり笑顔になると、わたしの頭をよしよしと撫でる。


「花宮さんが、屋敷神様を大切にしているのが伝わってきますな」

「……トンデモナイデス」


 なんだか親戚のおじさんに、よしよしされている気分。それに「大切にしている」なんて、雫さんの目の前で言われると……恥ずかしいなぁ。

 照れ臭いのを笑って誤魔化していると、雫さんにぐいっと手を引かれる。


「りんに馴れ馴れしく触るな」


 雫さんは毛を逆立てた猫のように、もみやまんに威嚇する。


「ちょっと、しず……くん?! ごめんね部長」

「いやいや、私こそ失礼しました」


 そんな雫さんの態度に腹を立てるわけでもなく、ふふふと笑う。


「花宮さんは、屋敷神様に大事にされているようですね。ここは良い気に包まれている。花宮家も安泰ですな」

「……あ、ありがとう」

「ですが、くれぐれも信心を怠らぬよう。神様は畏れ多いモノですからな」

「はい……」


 畏れ多い、か。もみやまんのスピリチュアルな発言に、神妙な気持ちで頷いた。


***


 これから心霊スポットへ行くせいか、みんな少し興奮気味だ。クールな真帆ちゃんですら、花梨ちゃんと怖い話で盛り上がっている。

 そんなみんなの後ろを歩くわたしたち。声は聴こえないだろうけど、念のため声を潜める。


「あのね、花梨ちゃんが言うには、うちのお社って今日行く心霊スポットと関係があるらしいの」

「へえ、面白いことを言うね」


 あれ? きっと「ひどーい」とか「怖ーい」とか言うと思っていたのに。


「ね、それよりもさ。手、つないでいい?」


 いいともダメだとも返事をする前に、雫さんに手を握られる。


「ちょっ! ちょっと待ってよ……!」

「信心、信心!」


 神様と手をつなぐことが信心? 納得がいかないし、みんながいるから恥ずかしい。でも、あまりにも雫さんが嬉しそうだから。


「もう、仕方ないなぁ」


 わたしも、つないだ手をきゅっと握りしめた。すると雫さんは、たちまち頬を真っ赤に染める。


「りんってば……大胆」

「なっ……! なによ、それ!」

「ふふふ、嬉しいなってことだよ」


 雫さんは目を細めて笑う。あ、またわたしを通して違う人を見てる目だ。

 もやもやしているのも気持ちが悪い。わたしは思い切って疑問を口にした。


「……あのさ。『おりんちゃん』って、雫さんにとって、どういう人なの?」


 もしかさしたら「りんのことだよ」って言うかもしれないと、少し期待していたみたい。

 だけど雫さんは、そんなことを言うことはなかった。


「ボクにとって『おりんちゃん』は、可愛いくてカッコ良くて、危なっかしくて目が離せない。ずっと見ていたくなるような人だよ」


 あ……聞かなきゃよかった。


「…………ふうん」


 聞く前は大したことじゃなかったのに、今は聞いたことをこんなにも後悔している。

 わたしは「おりんちゃん」の代わりなの?

 遠にワンピース姿をけなされた時よりも、胸が苦しくなる。


「……わたし、花梨ちゃんたちと行くね」


 雫さんの手を振りほどくと、前を歩くみんなのところへ駆け出した。


「え、りん? どうしたの?!」


 背後で雫さんの声が聴こえるけど知らない。

 もう……わたしと手をつないでいるくせに、他の女の子のこと嬉しそうに話すなんて。


 雫さんのバカ!

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