第5話 みんなで浴衣
ソーダ味のアイスを食べながら、花梨ちゃんに心霊スポット探検に誘われた経緯を話した。
「ふーん……りんは行きたくないの?」
「もちろん! わたし、幽霊とかジェットコースターとか、怖いのが苦手だから」
「そっかぁ。断ればいいんじゃない?」
「……まあ、それはそうなんだけど……色々付き合いが、ね」
簡単に言ってくれるけど、花梨ちゃんの誘いを断るのは難しい。一応部活のことでもあるし、花梨ちゃんが勝手に言い出した可能性もあるけれど、部長もオッケーを出していたらなおさら無理。
「しかも真帆ちゃんも、遠もノリノリなんだよぉ……」
「遠も行くの?」
「うん。花梨ちゃんがボディガードとしてお願いしたんだって」
ガリガリとアイスを齧っているうちに、棒の先が見えてきた。残念ながら当たりじゃなかった。
「ボクも行こうか?」
「え?」
思いがけない提案に、藁にもすがる思いで飛び付いた。
「ホントに雫さんも来てくれるの?」
「ボクが一緒にしずちゃんの姿で行けば、遠にも会えるでしょ? そこで遠の件は片づけて、そのままお祭りに行くってのはどう?」
「~~! ありがとう!」
思わず飛び付きそうになったけど、すぐに我に返った。わたしってば、何を一体……危ない危ない。
「ま、雫さんに任せなさい」
雫さんはドンと薄い胸を叩いた。
雫さんは一応神様だし、幽霊も恐れ多くて近寄らないかもしれない。しかも遠の約束も果たせるし、ここできっぱりと振ってくれたら面倒ごととはおさらばできる。
「じゃ、じゃあ、しずちゃんの服も用意しないと……」
「その代わり、と言ったらなんだけど。りんにお願いがあるんだ」
「お願い?」
ちょっとだけ、嫌な予感がする。
「お祭りでしょ。だから浴衣にしない?」
あ、なーんだ。そんなことか。ホッと胸を撫で下ろす。
「あ……でも、わたしのだとちょっと子供っぽいかな。しずちゃんだと大人びた柄の方がいいかも。そうだ、お姉ちゃんのを借りて」
すると雫さんは、大きく頭を振った。
「ボクじゃなくて、りんにだよ。りんに浴衣を着て欲しい」
「わ、わたし?」
「うん!」
きらきらした目でわたしを見ている。
こ、これは断れないやつだ。でもお祭りでなら、いいかな? まさか心霊スポットからではないはず……。
「念のため聞くけど、心霊スポットから帰ってから、だよね?」
「ううん。心霊スポットから。だってお祭りだけだと、ちょっとの時間しか着れないでしょ?」
「えええ! 歩きにくいし嫌だよ。わたしだけ浴衣とか恥ずかしいし!」
「じゃあ、みんな浴衣だったらいいんだね?」
「それは……まあ」
さすがに花梨ちゃんも真帆ちゃんも、心霊スポットへ行くのに浴衣とか着ないよ。
「りん、スマホかして」
そう聞くや否や、わたしのポケットからスマホを取り出すと、何やら操作をし始める。
勝手にスマホを使われたことよりも、雫さんがスマホを使いこなせることに驚いてしまった。
「ん、よし。これでおっけー」
笑顔でスマホを返してくれた。一体何をしたのだろう。
受け取ったのと同時に、ピコンとメッセージの着信音がした。相手は花梨ちゃんだ。
『浴衣でオッケーだよ☆ 時間掛かりそうだから、ちょっと待っててね!』
「……雫さん、これは……?」
すると、今度は真帆ちゃんからもメッセージが届いた。
『わたしも了解。着替えたら、りんちゃんちに行きます』
立て続けに遠ともみやまんからも。
『じゃあ俺は稽古着で』と遠。
『僕は父の浴衣か甚平で参ります』と、もみやまん。
「みんな浴衣で来るって。よかったね、りん」
「…………えー」
ほくほくの笑顔の雫さん。
スマホのあまりにも速い操作は、まさに神業としかいいようがなかった。
さすが神様というべきか……あはははは……。
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