第4話 改めて自己紹介

 何者だいと聞かれても、わざわざ語るほどの大した身の上じゃない。けれど、怪しまれるのも嫌だし……。

 取りあえず思いつくまま、自己紹介を始めた。


「わたしは四人家族で、大学生のお姉ち……姉がいて、両親は地元でお店をやっていて、わたしは中学校に通っています。今日は友達と文化祭の発表のために、神社のことを調べにきたんです」

「ふうん。嘘はついていないようだけど……おりんちゃんは学校に行ってるんだ。裕福な家の子なんだね。ところで『ぶんかさい』って?」

「文化祭は学校のお祭りです。わたしは郷土研究部に入ってて、古い神社のことを調べに来たの」

「へえ、お祭りかあ。いいね、ボクもいきたいなぁ」


 文化祭行きたいのかぁ。連れていってあげたら喜びそうだけど、雫さん(仮)は意地悪だからイヤだな。だからスルーすることにする。


「……けど、誰かに肩を掴まれて、気が付いたら臭いおじさんに、ここへ連れてこられました」


 すると、おすずちゃんが顔色を変えた。


「……きっと叔父です。わたしが逃げだと思ったのでしょう。本当に申し訳ありません」


 おすずちゃんが申し訳なさそうに「ごめんなさい」と頭を下げる。


「ううん、あのおじさんが悪いんだから。おすずちゃんのせいじゃないよ」


 おすずちゃん、と言われて微妙な顔になる。

 そうだよね……本当はおりんちゃんだもんね。雫さん(仮)がややこしいからって、勝手に名前を変えられちゃったんだし……非常に申し訳ない。


「で、どこの神社に行く途中だったの?」


 雫さん(仮)の質問に首を傾げる。


「どこのも何も、ここって神社じゃないの?」

「違うよ。ここから南へ一里いちり先の沼のふもとに、水神を祀る祠はあるけれど、もしかしてそれのことかな?」


 水神? ううん、違う。確か廃神社は生け贄になった女の人たちのために建てられた神社のはず。

 わたしが頭を振ると「ふーん」と素っ気ない返事が返ってきた。


「あの……今度はわたしが」


 おすずちゃんが話し始めた。


「わたしは花宮鈴はなみや りんと申します。今はすずで結構です」


 ……ごめんね、おすずちゃん。


「花宮家は元は名主で、現在は村長むらおさを務めております。わたしは本家のひとり娘で、ゆくゆくは婿を取り、家を継ぐ予定でした」


 名主なぬし村長むらおさ、婿を取る? ものすごい時代錯誤な単語が並んで驚いた。


「五つの頃に父が亡くなり、わたしが成人して結婚するまで、叔父が当主代理をすることになりました。しかし、叔父はわたしが邪魔だったのでしょう……川の氾濫はんらんを、龍神様のお怒りを鎮めるために差し出す人身御供ひとみごくうにわたしを選んだのです」

「ひとみごくう……って、確か……生け贄?」


 花梨ちゃんの言葉を思い出しながら尋ねると、おすずちゃんは大きく頷いた。


「うそ……なにそれ」

「嘘ではありません。昔は五十年に一度だったそうですが、叔父が当主代理になってからは、毎年儀式を行っています」

「毎年?!」

「ですが、ヌシ様のお話によりますと、実際には儀式は行われていないそうです」


 どういうこと?!

 もう驚くことばかりで頭がついていかないよ!

 混乱して何も言えないでいると、雫さん(仮)がうきうきとした様子で、わたしたちの間に割り込んできた。


「はーい。今度はボクの番ね!」


 もう、何を聞かされても驚かない自信があった。だけど、雫さん(仮)は、さらにわたしを驚かせてくれた。


「ボクはこの村の鎮守の神様なんだって。湧き水でできた沼があってね、その沼のヌシがボク」

「へ、へえ……」


 そういえば、おすずちゃんが「ヌシ様」って呼んでいたことを思い出す。


「水を司るボクは、水神とも龍神とも呼ばれているんだ。疑っているでしょ。本当だよ? ね、おすずちゃん?」


 おすずちゃんは頷いた。わ、本当なんだ。

 雫さん(仮)は村の神様。うちの雫さんは我が家の屋敷神様だし。もしかして親戚か兄弟?


「そうだ、ボク龍神とも言われているから、龍の姿にでもなってみる?」

「いえ、大丈夫! 信じますから、龍にならなくていいです」


 冗談じゃない! と慌てて断ると。


「そう?」


 なぜか雫さん(仮)はちょっと残念そうだった。

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