第3話 遠からのお願い

 花梨ちゃんの約束どうしようかな。いやいや、花梨ちゃんが勝手に言ったことだし、わたし行くなんて言ってないし。

 せめて真帆ちゃんに相談しようと、スマホでメッセージを送る。


『花梨ちゃんに、心霊スポットに誘われた。どうしよう』


 すぐに既読はつかない。とりあえずバッグにスマホをしまい、顔を上げる。そこに思いがけない相手の後ろ姿を見つけて、思わず「あ」と声が出てしまう。

 

「花宮!」


 しまった……遠は気付いていなかったのに。わたしが声を出したばっかりに気付かれてしまった。

 こちらに駆け寄ってくる遠から、全力でにた逃げたくなってきた。


「花宮。もう一度タダノさんに連絡を取ってほしい」

「…………」


 やっぱり! もう面倒くさーい!


「今日夏祭りがあるだろ? 一緒に行けないかな……急には無理かもしれないけどさ、聞いてくれないか?」


 あ、忘れてた。毎年夏祭りが学校の校庭で行われていることを、すっかり忘れていた。


「え、ええと……」


 とっさに上手い断わり文句が思い浮かばない。苦し紛れに、頭に浮かんだ雫さんの言葉を口にする。


「しずちゃん、恋人がいるって」

「……それは……自分で聞いてみるから……頼む!」


 両手を合わせて拝まれてしまう。わたしは神さまじゃないってば!

 花梨ちゃんの件といい、遠の件といい、面倒くさいことばっかりで頭を抱えたくなる。


「さすがに、今日は無理かも」

「頼む! 今日だって郷研のよくわからない探検に付き合ってやるんだからさ」


 むか。なんなのその上から目線。


「なんなのよ。しずちゃんしずちゃん言っててさ。お姉ちゃんのこと、好きだったんじゃないの!?」

「なっ、ばっ……! お前、何言ってるんだよ……」


 遠の顔がトマトみたいに真っ赤になる。明らかにうろたえている。ふーんだ。ずっと見てきたんだから、知っているに決まってるじゃない。


「もうお姉ちゃんのこと、好きじゃないの?」

「…………うるせー。お前には関係ない」

「じゃあ、今回のも関係ないよね」


 途端、遠は「しまった」という顔になる。


「しずちゃんと、花梨ちゃんの約束をごっちゃにしないで。わたしだって、肝試しなんてイヤなんだから!」

「肝試し?」


 遠は驚いたように聞き返す。


「有名な心霊スポットらしいよ。今日行くところ」

「心霊スポット……」


 花梨ちゃんから聞いていなかったらしく、驚いた様子だ。遠は怖いの苦手だっけ? と思っていたら、急にすました顔になる。


「……郷研のは付き合ってやるよ。下條のは別件だし」


 すました顔をしているけど、うずく好奇心は抑え切れないみたい。

 あー……遠って、小学校の頃、図書室で妖怪や心霊の本を借りまくっていたもんね。大好物だよね、この手の話。


「今日が無理なら、別の日でもいいからさ……頼むよ」


 急に遠がしおらしく引き下がってきた。強気で迫られると、負けるもんかーって言い返せるけど、急に大人しくなっちゃうとダメダメ言ってる自分が意地悪になった気持ちになる。


「……わかった。とりあえず聞いてみる」


 わたしが頷くと、遠は照れくさそうに笑った。うう……結局わたしは、遠に甘いみたい。


「…………さんきゅ、ありがとうな!」


 良い笑顔を残して、遠は颯爽と走り去った。でも廊下の先で先生に出くわして「廊下を走るな!」と注意されている。ざまーみろ。

 ふと、スマホが微かに震えていることに気が付く。どうやらメッセージが来たみたい。メッセージの送り主は真帆ちゃんだった。


 真帆ちゃん! 真帆ちゃんなら、暴走した花梨ちゃんをきっと止めてくれる!

 期待を胸にメッセージを開く。


『わたしも花梨に誘われたよ。ちょっと楽しみ』


 真帆ちゃんもオカルト好きだったことを、今初めて知りました。

 うわーん! 助けて神様!



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