第2話 もうひとつのお社

 雫さんって、元は龍神様なの?

 花梨ちゃんが言っていたことを雫さんに聞いてみようかと思ったけれど、結局聞けないままだった。


 ****


 三日間の期末テストが終わった!

 この後、採点されたテスト結果や通知表が返ってくるけれど、何といっても夏休みが待っているし、秋にはなぎなたの昇級試験があるから稽古も頑張らないといけない。

 でも何よりも、テストが終わったという解放感!

 今日は家に帰ったら、何もせずにゴロゴロしよう……と思っていた矢先。


「りーんちゃん! 文化祭の取材! 約束だったよね?」

 

 そう声を掛けてきたのは花梨ちゃん。でも、わたしはいいとは一言も言ってない。事故物件扱いされたのも、実はまだ根に持っているし。


 イヤだよ。と答えようとする前に、花梨ちゃんは前の席に座り込むと、はしゃいだ様子で言った。


「あのね! りんちゃんちの屋敷神様も気になるけど、もうひとつ気になる場所があるの!」


 わたしの机の上で頬杖を付くと、ニコニコとする。

 花梨ちゃんのこういう無邪気なところがいいところでもある。仕方ないなあ。


「気になる場所?」


 実は雫さんに関する話だから気になってしまう。つい身を乗り出すと、花梨ちゃんは楽しそうに話し出した。

 

「あのね! 川が治水されるまで、龍神様を祀っていた神社の跡地があるの!」

「あれ? うちの学校の敷地じゃなかった?」


 そう。花梨ちゃんはこの学校は元沼地で、そこに龍神様が祀られていたと話していたはずだ。


「もうひとつあるの。でね、ふふふ……そこはね」


 花梨ちゃんはニヤリと笑うと、わたしの耳に顔を近付けてきた。そしてコソコソ声で。


「龍神様の怒りを鎮めるために、人身御供を捧げていた場所なんだって!」

「ひとみごくう?」


 聞き慣れない言葉に、思わず首をかしげてしまう。すると花梨ちゃんは得意げに鼻をふふんと鳴らす。


「人身御供……つまり生け贄だよ。神様に捧げるための、い・け・に・え!」

「……怖いことを、嬉しそうに言わないでよ」

「ごめーん! でも昔のことだから大丈夫」


 なにがどう大丈夫なのかわからない。


「ほら、田んぼの中に神社があるでしょ?」

「あー……あれかぁ」


 田んぼのど真ん中にある小さな神社。木も生えていない鳥居と石造りの小さなお社。昼間でも気味が悪くて、カラスさえ近づかないと言われている。

 まさかそんないわく付きの場所だったなんて。でも、あの人を寄せ付けない雰囲気を思い出してみれば納得だ。


「治水をしてからは、人身御供になった女の人たちの魂を慰めるための神社になったらしいよ」

「ふ、ふうん……」


 ものすごーく、イヤな予感がする。


「でね! あそこって実は有名な心霊スポットなの!」

「やめたほうがいいと思う!」


 絶対反対! でも花梨ちゃんは聞く耳を持つわけがない。


「今年の文化祭のテーマはこれよ! 『忘れられた龍神信仰! さ迷う生け贄となった娘たちの亡霊!?』」

「怖いからやめようよ」

「大丈夫! ボディガードとして、なぎなた有段者の武藤遠くんが同行します」

「余計に面倒だってば!」


 遠はいらない。またしずちゃんしずちゃん言い出すのは目に見えているから、はっきり言って面倒くさい。


「ほら。りんちゃんだって、武藤くんとの距離を縮めるチャンスじゃない?」

「え?」


 あれ? わたし、いつの間にか遠のこと意識していない?

 そのことに改めて気が付いて、びっくりしてしまった。


「そんなわけで、お昼食べたら迎えに行くね!」


 花梨ちゃんはそう宣言すると、勢いよく席を立った。

 あ、これどこかで見たパターン!

 その手は食わないぞと、わたしも席を立ったけど、まだ帰り支度の途中だった。


「じゃあまたね!」

「待って花梨ちゃん!」


 慌てて花梨ちゃんを追い掛けるけど、すでに姿はなかった。


「……どうしよう」

 

 昼間といえども、心霊スポットなんてイヤだよ。もう、助けて~!





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