第3章 屋敷神様の秘密

第1話 郷土研究部は廃部危機

 色々あったけあれど、いよいよ期末テストが始まった。

 結局、勉強会はしないまま終わってしまった。花梨ちゃんも、しずちゃんが泣き出したことは気にしていたけれど、どうしてなのかはわからなかったみたい。「幽霊の話が怖かったのかな?」と聞かれたけれど、本当の理由なんて話せないし、話すわけにもいかなかった。


 何はともあれ、テストが終わったら待ちに待った夏休み。うん、頑張ろう!


「ねえねえ、りんちゃん」


 無事一日目のテストが終わった後、帰り支度を済ませた花梨ちゃんが、わたしの席に近づいてきた。


「あのね! 今年の文化祭の出し物のことなんだけどね!」

「気が早いよぉ、まだテスト期間中だよ」


 文化祭は十月。夏休みが終わって約一ヶ月後だ。確かにそろそろ考えてもいいとは思うけど、今は明日のテストのことでいっぱいいっぱいだ。


「えー、もみやまん、もうノリノリだよ?」

「あの人……もう引退だよね」

「だって文化部の見せ所は文化祭でしょ? 文化祭で有終の美を飾って引退するって言ってたよ」

「受験生なのに余裕だね……」


 もみやまん、とはわたしと花梨ちゃんが入っている郷土研究部の元部長、籾山修一もみやま しゅういちのことだ。三年は夏休み前に引退のはずなのに、文化祭まで居座るつもりのようだ。


「それに、新たな部員を獲得しないと廃部決定になっちゃうでしょ? 文化祭で新入部員をゲットしなくちゃ!」


 ちなみに現部長は花梨ちゃん。というか、わたしと花梨ちゃんしか部員はいない。今年は新入部員もいなかったから、まさに廃部の危機である。

 花梨ちゃんに誘われて入っただけだから、わたしはそれほど部活に熱心なわけじゃない。なぎなた部があれば、間違いなくそっちに入っただろうし。

 でも、今の部活が楽しくなかったわけじゃない。無くなっちゃうのはやっぱりイヤだ。


「それで、もみやまんとネタ探ししてたんだけどね」


 バッグの中から、一冊の本を取り出した。かなり古びた感じの本だ。


「じゃーん! 我が町『鶴ヶ久美町の歴史』! なんと我が校の図書室に最高のネタがあったわけ! 昔うちの学校の敷地は沼だったんだって。鶴ヶ久美川の治水工事をする前は、その沼が町、当時は村かな。村の水源だったんだって」

「へえ」


 もしや花梨ちゃん、テスト勉強そっちのけで調べていないか心配になってきた。


「川の治水が終わった後、その沼は水か枯れて消えちゃったんだって。その跡地にうちの学校を建てることが決まって、後に残ったお社を当時の地主さんちに移すことになったらしいよ」

「沼にお社があったの?」


 以前だったか聞き流してしまっただろう。でも雫さんと会ってからは、お社と聞くと気になってしまう。


「うん。沼がご神体として祀っていたのは龍神様。今は地主さんちの屋敷神として祀られているんだって」

「屋敷神?」


 聞き覚えというか、すっかり耳になじんだ言葉につい反応してしまった。


「りんちゃん、知ってるの?!」


 目を爛々らんらんとさせた花梨ちゃんが、わたしの肩をがっちりとつかんだ。


「……シ、シラナイヨ?」

「りんちゃんって誤魔化す時、カタコトしゃべりになるからバレバレだよ?」

「…………」


 まさかそんなクセがあるなんて……知らなかった。


「りんちゃん! 郷土研究部存続のためにお願い!」


 今度は神頼みするみたいに、手を合わせてお願いのポーズを取る。

 周りのクラスメイトは、わたしたちに気にせず、さっさと帰っていく。頼りの真帆ちゃんも、とっくに帰ってしまっていた。


「…………うちに、屋敷神様の祠があるの」


 また事故物件なんて言われたらイヤだなあと思いつつ白状した。


「りんちゃんちって、地主さんだったの?」

「うん、おばあちゃんが子供の頃までそうだったみたい。今はほとんど土地を手放しちゃったらしいから今は違うけど」

「ということは……りんちゃんちに、龍神様のお社があるってことだよね!」

「さあ……実は何の神様かわからないし」

「ううん! 絶対に龍神様だよ! りんちゃん!」


 しまった。花梨ちゃんが暴走し始めた!


「今日りんちゃんちに行ってもいい?」

「だめ! テスト中だし! テスト勉強しないとヤバいし!」

「じゃあテスト終わったら! もみやまんにも言っておくね!」


 じゃ! とバッグを抱えて、花梨ちゃんは教室から飛び出した。


「ちょっと待って! わたしいいって言ってないから! 花梨ちゃん!」


 慌てて花梨ちゃんを追い掛けるけど、こういう時の花梨ちゃんの足は速い。校内に花梨ちゃんの姿はすでになかった。


「どうしよう……」


 ふと、しずちゃんの、雫さんの泣き顔が頭をよぎった。

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