第7話 我が家は事故物件?!
「このカフェ素敵だね。古民家って感じで」
真帆ちゃんは目の前の美少女よりも、うちのお店に興味があるようだ。興味深く、お店を見渡している。
「ありがとう。おばあちゃんが子供の頃に住んでいた家なんだ」
「へえ、すごい。本物の古民家なんだ。お庭もいいね。和って感じ」
「そうかな」
わたしとしては、イングリッシュガーデンで洋風のカフェがよかったなあ。
なんでも、おばあちゃんがお嫁に行った後、ひいおばあちゃんがひとりで住んでいたという。ひいおばあちゃんが亡くなってからは、ずっと使われていなかった。
誰も使っていない古民家を、おばあちゃんが自分が死ぬ前に片づけておかないとね……という話をしていたらしい。
取り壊すにもお金が掛かるから、誰か住まないってきいた時、お父さんが名乗りをあげたというわけだ。
お父さんはパティシエで、都心にある洋菓子店に勤めていたんだけど、ずっと独立を考えていたみたい。親戚たちももて余していたし、お店として使うことにも反対はなかったらしい。
「ねえ、この家……りんちゃんのおばあちゃんが住んでたの?」
花梨ちゃんが目をきらきらさせてたずねる。
「うん。おばあちゃんが結婚してからは、ひいおばあちゃんが一人で住んでいたんだって」
「ね、この家で幽霊出てきたりする?」
「さあ……今まで見たことないけど」
神様なら出たけどね、と心の中で呟く。
「なんで幽霊?」
尋ねると、花梨ちゃんはちょっと得意げに話し出す。
「だって、ほら昔の人って病院じゃなくて家で看取られるでしょ? だから、幽霊がいてもおかしくないかなって」
「ちょっと、花梨ちゃん。失礼だよ」
と真帆ちゃんがとがめるけれど、当の花梨ちゃんはきょとんとしている。
「だって、事故物件とかと同じだよね? 家で人が死んじゃうんだから」
さすがにこの発言には、みんなギョッとする。わたしだって黙っていられないけれど、とっさに言葉が出てこない。
すると、突然しずちゃんが立ち上がった。そしめ、花梨ちゃんを威圧するように見下ろす。
「どうしたの、しずちゃん?」
「……人は必ず死ぬ。家で家族を看取るのは昔は当たり前のことだった。幸いこの土地は以前の戦では戦火に呑まれなかったが、この土地では水害で大勢の人が死んだ」
静かな口調。さっさまではしゃいでいた人と同じ人とは思えない。
「そうするとこの町はいたるところに出るな。幽霊とやらが」
「え! 本当に?」
花梨ちゃん……かえって嬉しそうなんだけど。
「昔はこの辺りは水害が多く、随分家や人が流されたな……」
「うわー」
しずちゃんがやたら饒舌だ。というか怒ってる? しかも美少女キャラがまたどこかにいっちゃっているし。だけど花梨ちゃんは喜んでいる様子だし……。
ハラハラしながら様子を伺っていると、遠がふたりの間に割って入った。
「下条、自分のひいおばあさんが幽霊になって出てくるなんて言われて、いい気分がするか?」
「えーわたしだったら、出てきてほしい!」
「……お前な」
残念ながら、花梨ちゃんには通じないらいしい。でも、言うなら今しかない。
テーブルに乗り出し、わたしは花梨ちゃんに真正面から向き合った。
「花梨ちゃん。わたしの家を事故物件って言われてすごく嫌な気持ちだった。ひいおばあちゃんの幽霊が出たとしても、面白半分に扱われるのは……わたしはイヤだよ」
ドキドキしながら花梨教えての反応を待つ。
「そっかあ、ごめんね! あ、わたし抹茶フロートがいいな」
花梨ちゃんは謝るものの、あっけらかんとしている。その後に続いた言葉が、飲み物のオーダーだと気づいたのは、三秒後だった。
「えっと……うん、わかった」
花梨ちゃんは悪気はないんだろうな。まあ、わたしも言いたいことは言ったし……うん、切り替えよう。
「みんなは飲み物、何がいい? しずちゃんはどうする?」
立ち尽くしたしずちゃんに声を掛ける。だけどその顔を見た途端、ぎょっとした。わたしを見るなり、くしゃりと表情を崩した。
「りん」
「し、しずちゃん?!」
しずちゃんの大きな目からぽろぽろと涙がこぼれ出した。わたしは慌てて立ち上がると、立ち尽くして泣き出したしずちゃんの元へ急ぐ。
「どうしたの?!」
「りん……!」
しずちゃんはわたしに抱き着くと、肩に顔を埋めてきた。泣き声も上げず、静かに涙をこぼし続けるしずちゃんの背中をよしよしと撫でることしかできなかった。
残念ながら勉強会は、その後お開きとなってしまった。
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