第6話 いざ勉強会!

 お店に行くと、すでに遠と花梨ちゃん、真帆ちゃんがお店の前で待っていた。

 

「おはよう。あの、えーと、こちらが」


 わたしから紹介を始めた途端、しずちゃんはずいっと一歩前に出た。


「初めてまして。タダノシズと申します」


 ワンピースの裾を摘み、片足を引いて軽く膝を折る。まるでお姫様みたいなお辞儀。

 一体どこで覚えたのよ雫さん……。

 みんな、圧倒されたように一瞬シーンとなった。でもすぐさま沈黙を破ったのは花梨ちゃんだった。


「きゃあ! まさに正統派美少女~! わたし、下条花梨。花梨って呼んでね」


 興奮で頬を染めた花梨ちゃんは、しずちゃんの手を取り、ぶんぶんと勢いが良い握手を交わす。


「よろしくね、花梨ちゃん」


 ふんわりと柔らかく笑うしずちゃんに、花梨ちゃんはもうメロメロのようだ。

 遠と言えば……茹でたタコのように真っ赤になっていた。うん、遠は通常運行です。


「お久しぶり、遠くん。それから、もうひとりのお友達のお名前は?」

「……篠田真帆」


 真帆ちゃんは塩対応だ。さすがにお姫様風ご挨拶は、ちょっとやり過ぎだったかも、雫さん。


「じゃあ行こっか」


 四人を引き連れて、お店の引き戸を開けた。

 昔ながらの木枠に擦りガラスの引き戸は、ちりんちりんと軽やかな音を立てる。

 

「いらっしゃい。待ってたわよ」


 店頭で待ち構えていたお母さんが、みんなを笑顔で出迎えた。


「奥の席用意してあるから、さあ入って入って」

「わーい! ありがとうございます!」と花梨ちゃん。

「お、お邪魔します……」と遠。

「ありがとうございます。今日はお世話になります」と真帆ちゃん。

 そして、しずちゃんと言えば。


「お母様、初めまして。わたくしダダノシズと申します」


 と、またお姫様ご挨拶をするものだから、慌てて間に飛び込んだ。


「お母さん! 奥の席だよね!」

「あ、うん。そうよ」


 お母さんも通常運行。さすが接客業をしているだけあって、お姫様挨拶をする美少女の登場にも驚きもしない。


「はい、みんな入って入って」

「じゃあ、みんなから飲みたいもの聞いてね」

「はーい」


 店頭には手作りの陶芸作品や、お土産用のお茶やお菓子も置いてある。手前にはテーブル席。奥の客席はお座敷だ。


「ここで靴を脱いでね」


 みんなかが靴を脱いで上がる中、雫さんはお店をゆっくりと見渡している。その目は何かを追い求めているようで、少し寂しげにも感じた。

 どうしたのかな、雫さん。


「わ、掘りごたつだ。正座苦手だからよかった~」


 お座敷の席を見るなり、花梨ちゃんは安心したように声を上げた。

 わたしも実は正座が苦手なんだよね。なぎなたの稽古の時も、いまだに結構辛かったりする。


「あ! しずちゃんは、わたしの隣ね!」


 花梨ちゃんはしずちゃんの手を引いて、さっさと席に座り込んでしまった。

 すっかりしずちゃんを気に入ったようだけど、今日の目的は遠としずちゃんを会わせることだ。このままだと花梨ちゃんがべったりして、遠と話す機会がなくなっちゃう。


「しずちゃん、何にする?」


 早速花梨ちゃんはメニューを開いて、しずちゃんに顔を寄せる。


「えーどうしようかな。これ、美味しそうじゃない?」

「抹茶フロートかあ、わたしもしずちゃんと同じにしようかな」


 花梨ちゃんと妙に楽しげだし!

 もう、雫さん! 絶対本来の目的忘れてる!

 仲睦まじいふたりの様子に、何だかイライラする。 


「りん」


 しずちゃんが、ポンポンと自分の隣にある座布団を叩く。


「りん、わたしの隣に来て」


 わたしが当然隣って顔をしているのが、なんだか腹が立つ。


「…………せっかくだから、武藤に隣、座ってもらったら?」

「え、おれ?」

「うん」


 遠が会いたいっていうから、この場をお膳立てしたんだぞ。つべこべ言わずに座りなさいよ……という心の声が届いたのか、遠は神妙な顔で頷いた。


「えーと、失礼します」


 隣に照れ臭そうに座る遠を、しずちゃんは貼り付けたような笑顔で「わーい、遠くんがとなりだぁ」と棒読みみたいな歓声を上げる。

 明らかに目が笑っていないけど、わたしは知りません。今日の目的をちゃっちゃとこなしてください。


 ちょっと意地悪だったかなと思いつつ、真帆ちゃんと並んで座る。教科書や参考書をバッグから取り出しながら、心の中で舌を出した。

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