第11話 よっちゃん、かく語りき
夕食の時間になった。相変わらず、最低限の言葉のやり取りしかない。皆、その時は笑顔になるが、その一瞬後には真顔になっている。今まで何故気付かなかったのだろう。それが不思議だ。
食事が終わる頃、私は三人をぐるりと見てから、
「あの…、話があります」
「何よ、薫。改まって」
母が私を見ながら言う。ここからが大事なところだ。失敗はできない。
「ここに来てから、私、よっちゃんの気配を感じてたんだ。それで、時々よっちゃんの声を聞くようになった。それで…」
そこまで言った時、思いもかけず彼女が私の中にやってきた。自分の意思ではない言葉が放たれた。
「父さん、母さん、お姉ちゃん。私は、あんな最期を選んだけど、いつも三人から愛情をもらって、幸せでした。
私は、父さんと母さんが観劇に出かけて帰りが遅くなるってわかってたから、あの日を選んだの。すぐに見つかったら、命が助かっちゃうかもしれないでしょ。それじゃ、困るから。
庭のあの大きな木の根元で私が薬を飲んだのは、あの木が大好きだったから。お姉ちゃんは
だからね、皆。哀しみに縛られてないで、幸せに生きてほしいの。私は、まだ私が小さかった頃の、笑い声が絶えなかったあの時みたいになってほしいの。
それから、薫ちゃん。あの人にも同じように伝えてほしいの。あの人は、今、自分を傷つけて生きているけど、私はそんなこと望んでない。私は、あの人に幸せに生きてほしいってずっと思ってる。伝えてね、薫ちゃん」
その言葉を最後に、彼女は私から消えていった。祖父母と母は、ただ驚いて、何も言えなかった。私は彼らを見ながら、「だそうです」と言った。
私の言葉に母が、
「薫。あの人って誰? あなた、何で知ってるの?」
真剣な表情で訊いてくる。
「えっと…、よっちゃんが教えてくれたから」
答えになっていなかったかもしれないが、それ以上は訊かれなかった。と、祖母が両手で顔を覆った。そして、
「よっちゃん…ごめんね…ごめんね…」
何度も何度もそう言って、最後には泣き出してしまった。祖父も俯き、目元を指で拭っていた。母は、そんな祖父母の姿を見ながら、唇を噛んでいた。
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