第10話 静寂
玄関を入ると祖母が振り向き、「お帰りなさい」と言った。「ただいま」と言ってから、
「ちょっと部屋で休んできます」
「そう」
笑顔とともに言うと、祖母は自分の部屋に戻って行った。
階段を上がって行きながら、気が付いた。ここには音がない。外に出れば、鳥のさえずりや風の音は聞こえる。木々のさざめきも。
が、家の中はどうだろう。
この家には、そういえばテレビがない。ステレオのような音楽を流すものもない。
たいていは、それぞれの部屋にいて、部屋を訪ねることもしない。最低限の挨拶や、食事中のちょっとした会話はあるが、楽しい食事の時間、という雰囲気でもない。
敷地が広いだけに、お隣さんははるか遠くだ。
今まで住んでいたアパートには、もっと人の気配があった。ドアの開閉する音、人の話し声、テレビや音楽の音。それらが、ここにはいっさいない。
急に怖くなって、階段を駆け上がり自分の部屋に急いで入った。制服のままベッドに横たわると、天井を見ながら、
「よっちゃん。これは、前からなの? ここはどうしてこんなに静かなの?」
訊くが、答えは返って来ない。
「それとも、よっちゃんがいなくなったからこうなったの?」
やはり答えはない。が、前からこうだったと言うよりは、よっちゃんがいなくなってからなのではないかという気がしてきた。
(この怖い状況を変えるには…)
よっちゃんに一言、言ってもらえばいい。が、それは出来ない。よっちゃんは私の頭の中に話しかけてくることしかできないようだ。じゃあ、どうするか。
(決めた。やってみよう)
ベッドから勢いつけて起き上がると、制服を着替え始めた。
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