第4話 変な先生
不思議な体験については、誰にも話していない。話すことで、それが本当にあったことだと認めることになりそうで嫌だった。
あれから数日経つが、何も起こらなくなっていた。きっと、本当に気のせいだったんだ、と思えるようになってきた。疲れていて、変に神経が過敏になっていたのだろう。
入学式を終え、授業が開始になった。そして、随分と風変わりな教師と出会った。担当は生物だった。
「これから一年間、よろしくねー。
すごくノリが軽い人だ。まだ二十代半ばくらいだろうか。いきなり嫌悪感を抱いた。
「はーい。じゃあね、今日十二日だから、十二番さん。はじめに、を読んでくださーい」
十二番さんが読み始めた。この先生、大丈夫なんだろうか。本当にそう思った。が、意外とわかりやすく教えてくれる人だった。生物にそんなに関心があったわけではなかったが、一年間頑張れそうな気がしてきた。変な人だけど、そこは目を瞑ろう、と思った。
午前中で授業が終わり、まっすぐ家に帰った。「ただいま」という言葉も、ためらわずに言えるようになってきた。ここが自分の家だと認識してきているのだと思う。祖母は「お帰り」と言い、
「今、お昼ご飯、準備するわね」
「ありがとうございます。部屋に行ってカバンを置いてきます」
二階の部屋へ急いで行った。カバンを置くと、伸びをした。午前だけの授業とは言え、結構重かった。制服から普段着に急いで着替え、部屋を出ようとした時、床に直置きしていたカバンが倒れた。直して出て行こうとすると、また倒れた。ここにいろと言うことだろうか、と思ったが、振り切って出て行った。何事もなかった。
廊下に出ると、母が私の部屋の前にいた。ここに引っ越してから、まだ仕事をしていないので、ほぼ家にいる。母は私を見ると、
「学校、どうだった?」
「変な先生が一人いた」
「変な先生? 大丈夫なのかしら」
不安そうな顔になる。
「いや。大丈夫だよ。教えるのはすごく上手いから。わかりやすい。生物の授業、楽しみになった」
母はまだ不安そうに見えたが、「そう」とだけ言った。
「そろそろお昼ご飯の時間だってさ。行こう」
促すと母は頷き、私の後についてきた。
食堂へ行くと、準備が整っていた。二人で暮らしていた時は、どちらかがやらなければ食事することができなかった。そう考えると、今のこの状況は本当にありがたいことだ。
食事が始まると、祖母が、
「薫ちゃん。今日から授業始まったんでしょう。どうだった?」
母と同じことを訊いてきたので、同じように説明した。
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