第27話 魔物無双


 都市アルダはグモブ公爵家に対して宣戦布告をした。


 理由はもちろん俺達の海にドラゴンを落としたことによる損害を支払えとの訴えだ。


 奴にその要求の手紙を送ったが突っぱねられたので、もはや戦う以外に道はないのである。


 海に落ちたドラゴンの腹に公爵家の剣が刺さっていたことは、すでに国中に広めている。


 しかもアダムス教会からも剣を確認して、俺達は正当に軍をあげたと発表してもらっている。


 つまり俺達は官軍で、グモブ公爵は賊軍だ。


 俺達はすぐに魔物たちを連れて港町ダーシュへと進軍(といっても魔物数十体の軍勢だが)した。


 そして俺達は今、ダーシュの近くにいる平原で公爵軍と相対していた。


 彼らも黙って俺達に侵略されるつもりはないようで、陣を敷いて抵抗する構えのようだ。 


「我らは正当な理由の元に、グモブ公爵に謝罪と賠償を要求する! 速やかに軍を引かれよ! 我らの正当性はアダムス教が証明している! つまりそなたらはアダムス教に逆らっていることになるぞ!」


 俺がそう叫ぶと敵軍からざわざわと声が聞こえ始める。


「あ、アダムス教会相手に逆らっていいのか……?」

「ダーシュから司祭や医者がいなくなるかも……」

「上で話し合って決めてくれ……なんで俺達が戦わなくちゃいけないんだよ」


 どうやら公爵軍の士気はものすごく低いようだな。


 アダムス教は大陸に覇を唱える宗教で、この国の民も大半がその信者だ。


 そんな彼らからすればアダムス教会に逆らうことは、神様に逆らうことと同義なわけで。


 信者じゃないとしてもアダムス教会に見捨てられると街は立ち行かなくなる。


 もし反教者の街と認定を受けるとどうなるか。


 大陸中から最低都市の烙印を押されてしまい、今後の交易が拒否される恐れもある。

 

 癒しの魔法を使える神官や、学校を開いてくれる牧師なども街からいなくなってしまう。


 なのでアダムス教に逆らってはいけないのだが……グモブ公爵はそれでも俺達と戦うつもりのようだ。


 奴の独断であって肝心の戦う兵士たちは納得していないのだが。


「けっけっけ。どうするんだい? このまま戦うのかい?」


 魔女が愉快そうに笑い始める。


「決まってるだろ。ゴーレムたちを先鋒に突撃だ!」


 俺が指示すると四体のゴーレムが前に出る。


 そしてそれに続くようにドワーフやサキュバス、ケンタウロスたちがついていく。


 すると公爵軍は俺達に対して迎撃態勢をとって、ようやく兵士たちが陣から出てきた。


 だが彼らからはやる気が感じられない。表情もすごく暗い。


 これなら少し小突くだけで勝手に潰走してくれそうだ。


 そしてゴーレムたちと公爵軍の先鋒部隊がぶつかり合うが。


「「「「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!?」」」」


 ゴーレムのショルダーアタックで、鉄盾を構えた敵兵が四人纏めてぶっ飛んだ。


 重量に差があり過ぎるので、正面から受け止めるなど不可能である。


 更にそれだけではすまない。


「うふふ。私に見惚れなさい……ほら、貴方はどちらのみ・か・た?」

「「「我々は貴方様の忠実なしもべです!」」」


 サキュバスの魅了で公爵軍の兵士たちが俺達へと寝返っていく。


「おおおおおっ! 我が人馬一体が繰り出す武の極み! 特と馳走さしあげよう!」


 ケンタウロスが敵軍に突撃していき、駆け抜けながら何人もの兵士を剣で切り裂いていく。


 兵士たちは槍で必死に動きを止めようとするが、ケンタウロスは足を止めずに弓で槍隊を排除していく。


「がっはっは! 我らドワーフの豪傑さ、とくと味わうがよいわ!」


 ドワーフたちが巨大なハンマーを振り回し、敵兵の身体を剣や鎧ごと粉砕する。


 ……うちの魔物たちくそ強いな。公爵の軍はちゃんと鉄装備を揃えているのに、あれだと布きれと変わらん。

 

 更に上空からはペガサスたちが風魔法を放って、敵兵の放った矢を吹き飛ばしていた。


「た、助けてっ!?」

「もういやだ! 俺は逃げる!」

「ぐわあああぁぁぁぁぁ! 矢が! 矢が足に刺さった!」


 もはやこれは戦いではない。魔物による一方的な蹂躙劇だ。


 よく考えれば魔物って人間よりも戦闘のスペック高いからなぁ。


 四人パーティーとかで討伐するのが基本だし、そんな魔物たちが連携して襲い掛かってきたらこうもなる。


「こ、こんなのやってられるか! 逃げるぞ!」

「命あってのものだねだ!」


 元から士気が皆無だった軍だ、すでに近くの森に逃げていく者が出始めている。


「に、逃げるな! 戦え! 逃げた者は処刑するぞ!」


 そんな中で馬に乗った敵軍の指揮官は心が折れていないようだ。


 よく見れば彼の兜にはグモブ公爵家の紋章が記してある。


 親族の類だろうか? それなら逃げないのも納得だが……あいつさえいなくなればこの軍は瓦解するんじゃないか?


 普通に考えたらこの状況で戦い続けるのは無理だし、敵将討ち取ったりーとかでさ。


「誰かあそこの指揮官をやってくれ! あいつがいなくなれば敵軍は崩壊する!」


 こんな悲しい闘いは早く終わらせるべきなんだ! 


 だって人的資源が無為に減るのもったいな……違う! 人の命が消えていくのを見ていられない!


「吾輩に任せるである」


 ヴァンパイアが飛翔して指揮官へと近づいていく。


 ……あいつ、コウモリにならなくても移動できるんだな。


「ひ、ひいっ!? 来るなぁ!?」


 指揮官はそんなヴァンパイアに向かって剣を振るが、片手で受け止められてそのまま握り砕かれた。


「……は? え、これ鉄の剣……」

「ではいただきます」


 ヴァンパイアは敵指揮官の首筋に噛みついた。


 すると噛みつかれた男は剣を地面に落として、ガクリと身体の力をなくした後。

 

 突如発狂したように叫び出した。


「総員撤退! 我らが間違っていた! 撤退だ! アダムス教に逆らうな!」


 叫ぶ指揮官の顔が青白くなっている。


 どうやらヴァンパイアが噛みついて眷属にしたようだ。 


 こうしてグモブ公爵軍との戦いは俺達の圧勝に終わった。 


 そのまま俺達は港街ジュールへと歩を進めていく。

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