第26話 ドラゴンをサルベージしよう
グモブ公爵に攻め込む名分を得るため、ドラゴンをサルベージすることになった。
十年前に海底に沈んだドラゴンだ。広大な海を探していたらいくら時間があっても足りない。
なので街の古参の住人から墜落した場所を聞き取って、大まかな目安をつけて捜索を始めた。
だがかなり前のことなのでみんなはっきりと覚えていない。
なので……記憶の読み取りの専門家に頼ることにした。
『あそこだ』
都市アルダの海岸にてサトリが海の特定箇所を指でしめした。
こいつに街の住人の心を読ませてドラゴンが落ちた時の情報を仕入れたのだ。
昔のことであまり覚えてないのなら、脳に眠る記憶を無理やり読み取ればいいじゃない。
「よし、クラーケン! そこら一帯を捜索してくれ!」
俺が海に向かって叫ぶとクラーケンが海面から触手でOKサインを出した。
そしてしばらく待っていると、八つの足で巨大なドラゴンの死体を引き上げて海岸へと放り投げてくれた。
まじでクソデカイな……全長十メートルくらいあるのでは?
横たわった死骸に恐る恐る近づくが……かなり綺麗で全く腐っていない。
死後まもないとしか思えなかった。
「腐ってないのか? 海を汚染するくらいだったのに」
「我が浄化したのだ。その時に腐は消えたに決まっている」
ユニコーンがぶるるといななきながら呟く。
なるほど、浄化の力は穢れだけじゃなくて腐れも消すのか。
肝心の目的を果たそう。ドラゴンに剣が刺さってないかを確認していく。
まずはドラゴンの背中側から見て確認するが後頭部や背中にはない。
なので正面のほうに移動して確認すると……あった。
巨大なバスターソードが心臓をえぐるように刺さっている。
しかもその剣も新品のような状態で、柄の部分にはグモブ公爵家の紋章が記されていた。
……海に十年沈んでいたのに錆びてすらいないぞ、この剣。確かに上等な剣だが素材は鉄にしか見えないが……。
あ、ユニコーンが錆びた金属も浄化したのか。海の汚染も消したのだから、無機物でも綺麗にできるはずだし。
…………ユニコーンの力でダメになった鉄を元に戻して儲けられないだろうか。
『鉄再生工場……これは儲かるな。どうやってユニコーンをその気にさせようか。処女数人プレゼントしたらいけるだろうか』
「断る。我が癒しの力を下賤な金儲けに利用するな」
「サトリ、心を読まないでくれ……」
即座に内心を暴かれるのでやはりサトリを使うのは諸刃の剣だ。
ま、まあこれでグモブ公爵家に攻める名分ができた。
後はどうやって勝つかだな。公爵家ともなればそれなりの軍を持っているだろう。
対してこちらは人間の兵士はいないので、魔物たちで戦わなければならない。
しかもあまり数を揃えることは出来ない。
召喚自体はいくらでもできる。だが後先考えずに呼んで養えなかったら俺が殺されかねないし。
かといって強力な魔物を呼び出すのも難しい。
強いやつはだいたい食費がかかるのだ。ドラゴンなら三日に一度くらい牛一頭求められる。
デュラハンなら数か月に一度、新品のフルプレートアーマーを要求される。
なので魔物の能力を活かした搦め手で敵軍に破壊工作を仕掛けたい。
そうして弱ったところを今まで召喚した魔物たちでぶっ飛ばす……やはりこれが理想だ。
都市アルダにいる魔物たちは数は少ないが粒揃い。うまく扱えば公爵家の軍隊相手でもしっかりと勝てるはず。
「さてと。じゃあ公爵家に攻め込むための作戦会議だ」
「それはよいがこのドラゴンの死骸はどうするのだ? こんなところで放置しておくのか?」
「いやドワーフがすぐ回収しに来るはずだ。こいつは公爵家に対する切り札なんだから」
そうして急いで屋敷の執務室に戻って作戦を練ることになった。
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ダーシュ港にあるグモブ公爵家の屋敷。
そこの豪華な一室でグモブ公爵は葉巻を吹かしていた。
そんな彼と同席しているのは、鋼鉄のように鍛え上げられた筋肉を持つ壮年の偉丈夫。
「ヴァーダル。其方に頼みたいことがある」
「ほう、なんでしょうか? 養われている身としては出来ることならやりますが」
「実はな、余は都市アルダに軍を差し向ける予定じゃ。とある者を大金で買い取ったのに引き渡してこないのでな。なんとその者はな、余が金を払った者を倒してしまったのじゃ」
「それはそれは……金を受け取っただから引き渡すのは当然でしょうに」
「故に侵攻することにしたのじゃ。それでな、お主も軍に参加して欲しいのじゃ。ドラゴン殺しの英雄たるお主がいれば、奴らも震え上がって降伏するはず」
公爵に対してヴァーダルは笑みを浮かべる。
その顔はまるで狼のように獰猛で、常人が見れば身をすくませるほどの恐怖を抱かせる。
「くくく……つまり大量に殺してよいということですね?」
「うむ。じゃが目的の人物……ライジュールは殺さずに捕縛せよ。あ、それと妹がいるそうなのでそれも。姉妹同時に調教するのは楽しそうじゃ」
「他の者は?」
「殺してよいぞ。都市アルダがまさか復活するとは思わなかったが、こうなれば余の領地にしてしまおう。十年前とは事情が違う、今の王なんぞ権力はないから盗ったもの勝ちじゃわい」
「御意……いやぁ嬉しいですよ。以前に都市アルダにドラゴン投げ込んだ時は、あれだけ人が多かったのに殺せなかったのが辛くて。ようやく心残りを消せます」
ヴァーダルは口の周りを舐め、瞳孔が開ききった目で告げるのだった。
それと見てグモブ公爵は満足げに頷いた。
「頼むぞ、千人殺しの血衣英雄よ。余の物を取り戻しておくれ」
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