決戦! グモブ公爵!
第25話 ドラゴン墜落は人災だった
ヴァンパイアにグモブ公爵の弱みを握るための諜報活動をさせたら、脅しの材料は見つからなかった。
だが都市アルダが死の都市になった理由であるドラゴン墜落が、その公爵の仕業だという情報を手にしたと言う。
「……ドラゴンがグモブ公爵のせいだと?」
「ああそうだ。奴の血から得た情報だから間違いはない。奴はお抱えの戦士を使ってドラゴンを都市アルダの海に墜落させた」
「どうやってだよ。そううまく飛んでいるドラゴンを海に墜落させるなんて……」
「簡単だ。殺したドラゴンをここまで運んできて海に投げ捨てたのだ。ドラゴンを殺せるほどの猛者だ、それくらいのことはできる」
……それが本当なら凄まじい力技だな。
実際のところ、俺はドラゴンが海に墜落した現場を見ていない。
なので空を飛んでいたドラゴンが急に落ちてきたのか、それとも投げ捨てられていて不自然に着水したのかはわからない。
だがひとつだけ言えることがある。そもそもドラゴンが事故で海に落ちて死ぬのはあり得ない。
理由は簡単だ。ドラゴンは強靭な魔物であってそうそう鳥のように墜落はしない。
大きいだけのトカゲでない、雷の直撃を食らったとしても死なないほどの生物なのだ。
そんな存在が自然に落ちるはずがない。仮に奇跡的に翼の調子が悪かったとしても、海に落ちた程度で死なない。
なのでドラゴンは海に落ちたのではなく何者かに撃ち落とされたのだ、と今までは考えていた。
……すでに殺されたドラゴンが、誰かに海に投げ飛ばされるというのは盲点だった。
だが言われてみるとこちらのほうがしっくりくるかもしれない。
仮にドラゴンが魔法で撃ち落とされたなら、そんな噂が民衆の間で広まるだろう。
ドラゴンが海に落ちたところの目撃者は多数いるのだから。
「……ちなみに犯行の動機は?」
「グモブ公爵の領地にも港がある。都市アルダの港が死ねば、この国の港が減って彼のそれの価値が上がる」
「あー……」
「彼は金遣いが荒い。遊べる金を増やしたかった」
ダーシュという港町がある。
俺がペガサスを召喚した時に向かった街だが、あそこは奴の領地の一部である。
都市アルダが死んだことによってダーシュは更に儲かっていたはず。
「じゃあなんだ? 俺の親父が十年以上苦しんだのも、最終的にバルガスに殺されたのも全部グモブ公爵のせいか?」
「そうなるだろうな。どうするかね? 今度は奴の血を啜り切ってやろうか? あまり美味ではないが」
ヴァンパイアはニヤリと犬歯を光らせるが冗談ではない。
「ふざけるな! そんな風に殺すなんてダメだ!」
「ふむ。なんだ? 正式に法に乗っ取ってとかそういうのかね? 人間とは面倒な……」
「はぁ? 違う。そんなあっさり殺すなよ。親父の仇かつ俺が殺されかけた要員な上、更に俺を性奴隷にしようとするクズだぞ? 最低でも生まれてきたことを後悔するように処刑してやる!」
目には目を、歯には歯をだ。
俺と親父と領民たちの受けた苦しみは倍返しにしてやる!
たかが金が欲しいとかの理由で、どれだけの人間を路頭に迷わせたと思っていやがる!
都市が一つ死んだんだぞ!? 俺は都市アルダの代表として、町民たちのためにも奴に正義の鉄槌を下さなければならない!
よくもやってくれたなクソ公爵! 俺がこんなに苦労して魔物にヘコヘコしてるのも全部お前のせいだ!
「くくく。精々頑張りたまえ。では吾輩は眠るとしよう。棺桶はどこに用意している?」
「ドワーフの工房にあるはずだ。勝手に持っていって好きなところで寝てくれ」
「そうさせてもらおう」
ヴァンパイアは無数のコウモリに散って飛び去って行った。
……あいつ全然自分の足で歩かないな。足腰貧弱なのでは?
そんなことを考えながら執務室にオバンドーとサーニャを呼んで、今後のことを相談することにした。
「そういうわけでグモブ公爵を捕縛して正義の鉄槌を下す!」
「いやいきなりすぎね。相手は公爵家ね」
「公爵がどうした! こちらはアダムス教お墨付きだ!」
アダムス教会が白と言えば黒も白になる。
それは公爵よりも権力が強いのだ。俺達が正当な理由と証拠を持っていれば、公爵領に攻め込んでも許される。
こちらは港と親父を殺されているのだから、攻め込む理由としては十分だ。
「証拠がないね。ナイナイではいくらアダムス教でもこちらが賊軍ね」
「証拠は今から探す! ドラゴンをサルベージしてな!」
ヴァンパイアから教えてもらったのだが、グモブ公爵のお抱えの戦士は公爵家の印のついた剣をドラゴンの心臓に突き刺して殺した。
その時にその剣が抜けなくなって、仕方なくドラゴンに刺さったまま海に放り込んだらしい。
まさか海に落ちたドラゴンがサルベージできるはずもなく、別に構わないと思ったのだろう。
だが俺ならば海底に沈んだドラゴンを引き上げられる。
それでドラゴンにその剣が刺さっていれば……攻め込む大義を得る!
「それで証拠が見つかればすぐにグモブ公爵領に攻め込むぞ!」
「でも攻める軍がないね」
「魔物がいるだろう、魔物が」
ペガサスにデュラハン、ゴーレムに魔女にレイスに……十分な戦力だ。
数はそこまで用意できないが、そこらの凡人の軍には負けないだろう。
「でもその話が本当なら、グモブ公爵にはドラゴンを殺せる使い手がいるね。そいつはどうするね? 今の魔物たちでもきついと思うのね」
「それも大丈夫だ。俺に策がある」
ドラゴンすら殺せるほど強い戦士となれば、どんな魔物を召喚しても勝てるかわからない。
そもそも大抵の魔物はドラゴンより弱い。あれは魔物の中でもトップクラスに強い。
なので下手に新しいのを召喚したりはしない。
「そのお抱えの戦士とやらは今いる魔物たちで勝てる」
「むむっ? てっきり超強力な魔物を呼ぶものとばかり思ったね」
「あのな、そんなヤバイ魔物呼んでも養えないだろうが。ドラゴンですら食費やば過ぎて呼ぶ気でないのに」
たぶんドラゴンなら三日おきに牛一頭とかいるんじゃなかろうか。
そんなの払ってたら都市アルダは破産してしまう。
そんなことしなくてもうちには無限の可能性を持つ魔物がいるのだから。
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