第28話 港町で籠城など無理だろう
待ち受けていた公爵軍を完膚なきまでに破った俺達は、そのままの勢いで港町ダーシュを包囲していた。
「ダーシュに告ぐ! 降伏して俺の指示に従え! そうすれば町民に危害は加えないと約束する!」
正門前で一時間おきくらいに公爵引き渡し要求をしているが、返事はまったく来なかった。
これで十二回目なのでおおよそ包囲してから半日が経過している。
……これ以上待っていても時間のムダだな。
このまま包囲し続けてもダーシュは永遠に落ちない。
何故ならダーシュは港町だからだ。
包囲というのは敵の兵糧を削っていくからこそ意味があるが、海を持つ町ならば補給はいくらでもできる。
つまり彼らはいくらでも籠城し続けられるので、相手に降伏する気がないなら包囲する意味もほぼない。
「がっはっは。どうするんじゃ? あの正門をぶち破るか?」
ドワーフのブロックが鉄槌を担いでいる。
彼らなら簡単に門のひとつやふたつぶち壊してくれるだろう。
「うーん……それをしてもいいんだが、ちょっと正門がもったいないんだよな」
俺としては公爵家を滅ぼした後はこの港町ダーシュも手に入れるつもりだ。
その時に正門を建て直すとなると金がかかる。
なので壊したくないのである。本音を言えば無血開港して欲しい。
だがあのグモブ公爵が町民のために自ら犠牲になるなど、そんな殊勝なことをするはずがない。
つまり奴を暗殺なり捕縛なりしなければこの戦いは終わらない。
「しかし正門を壊さないとなるとどうするんじゃい? トンネルでも掘って侵入するか?
「それもかなり時間がかかるからなぁ……」
都市アルダは今が大事な時期なので、この戦いに時間をかけたくないのも事実である。
正門をぶっ壊せばさっさと終わるがもったいない。地下からトンネルを掘ると正門を壊さなくてよいが時間がかかる。
どちらも一長一短で微妙だ。ここはやはり……ダーシュの弱点を突かせてもらおう。
「やはりここは港から攻めるぞ! うちは水軍が強いからな!」
「確かにクラーケンとでかい亀がおるからな。あれらに対して船で戦うのは無理じゃな」
ブロックの言う通りである。
船なんぞ出てきたところで、海中からクラーケンの触手でイチコロよ。
しょせん人間は陸上の生き物、海の怪物に海上で戦おうとするのが無理というもの。
なので仮にダーシュから船が出てきても戦いにならないので、海戦の準備は必要ない。
労せずに制海権を取れて港に上陸できるのだ。こんなに楽なことはない。
そんなわけでダーシュ近くの海岸にアスピケドロンを呼び寄せて、その背に乗って俺達はダーシュを海から攻めることにした。
アスピケドロンは木造船と違って脆くないので、ゴーレムを乗せての航海も余裕で可能だ。
これもダーシュからしたら悪夢だろう。
本来ならば重さ制限で来れないはずの重量兵器が、海からやってくるというのだから。
基本的にこの世界の町は防衛を考えて作る。
敵がどう攻めてくるかを想定して、可能性のある襲撃に対応策を用意しておくのだ。
なので港から敵の人間が上陸してくることは想定して町を作っているだろう。
きっと火矢などで敵の船を攻撃する用意はあるだろう。海の魔物が上陸してくることに対しても何か備えはあるだろう。
だがゴーレムが海からやってくるなんて予想しているわけがない。
つまりダーシュは港に上陸したゴーレムに対してなす術がない。
もしくはあったとしても対応が凄まじく遅れるということだ。
「よーし行くぞ! ちなみにアスピケドロンは火に弱いから、火矢を撃とうとしてきたらなんかこうよしなに頼む」
「無茶言うなお主……」
「まあ海の魔物に火矢を撃ってくる奴はいないとは思うが。あくまで船が燃えるから火を放つのであって、海上の魔物に火なんて撃っても海中に潜って消されるから無意味……と考えているに違いない!」
というかほんと頼むからそう考えていてくれ。
アスピケドロンに火矢は効果的だから……火にビビッて海中に潜られたら、ゴーレムとか浮いてこられずに藻屑になるから……。
そう願いながらも徐々にダーシュ港が見え始める。
想像通り、船による迎撃はここまで近づいてもまだ出ていない。
やはり船なんぞに乗って、海上の魔物と戦うなんて愚は犯さないようだ。
この世界では海の魔物が出ても戦わないで諦めるからな。
魔物が出た日は漁に出ない、それが船乗りたちの共通認識だ。
俺もそれは間違ってないと思うよ。海上でクラーケンと戦って勝てる人間などいない。
まあその結果として、俺達にフリーパスで港に乗り上げられるわけだがな!
「グルウウウオオオオオオオォォォォォ!」
アスピケドロンは雄たけびをあげながら、更に港町ダーシュへと近づいていく。
そしてとうとう港に甲羅をつけて停泊した。
「き、来たぞ! 絶対に町の中にいれるなっ!」
そんな俺達を公爵の軍が出迎えてくれた。数は百程度だろうか?
この狭い場所では大勢陣取れないのだろうが、この程度の人数では相手にならない。
しかも武器も普通の剣や槍で、とてもゴーレムに刃が立つものではない。
「ゴーレム、やれっ!」
俺の命令に従ってゴーレムが敵軍に突入して暴れ回る。
彼らはゴーレムのパンチやキックで蹂躙されて壊滅した。
ゴーレムを倒したいなら攻城戦用の兵器でも持ってくるんだな!
港にそんなもの用意しているわけがないだろうがな!
そして俺達は公爵家の屋敷に向けて町中を進み始めた。
見える家や店は全て完全に戸を閉めていて、俺達と関わろうとしない。
おそらく怯えて手可哀そうだが許して欲しい。
俺としても公爵は許せないんだ。そしてそんな奴の領民であるお前たちも、多少は罪があるんだから。
安心してくれ。抵抗しなければ危害は加えないから。
そう思いながら俺は堂々と人のいない町通りを、魔物と共に大行進するのだった。
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