第22話 教会の者ですが……
俺はつばを飲み込みながら、都市アルダの正門で来賓を待っていた。
今から来るのは超VIP待遇のお客様。
今後の都市アルダの趨勢を決めかねない人物……そう、アダムス教の司祭がやってくるのだ。
散々アダムス教の名のもとにペガサスをアピールして、これで当の彼らから偽物だとでも言われたら詰みかねない。
なので総力をあげて媚びへつらってお墨付きをもらわなければならない!
間違いなく多額の布施をとられるだろう。だが背に腹は代えられない!
「いいか! 絶対にぶしつけなことはするな! 相手は魔物と同じと思え!」
「言ってること間違ってないのに間違っているね」
「何かがおかしい」
何もおかしなことはない。
都市アルダでの魔物は貴族様と同じように扱う。それと同等にもてなせと言ってるだけだ!
そんなことを考えていると、純白の馬の引く馬車が俺達の前に止まった。
中から出てきたのは神官服を着たお爺さんだ。性格のよさそうな人である。
「こんにちは。あなたたちが都市アルダの出迎えの方でよろしいですかな?」
「はい! 都市アルダへようこそいらっしゃいました! ジェームス枢機卿猊下!」
俺は頭を深々と下げて礼をする。
彼はアダムス教会における最重鎮のひとりだ。
この教会では司教(大勢)→大司教(十六人)→枢機卿(三人)→教皇(一人)といった風に、階級が上がっていく。
しかも今は前教皇が亡くなって、次の教皇が誰になるかでもめている状況。
つまり三人の枢機卿がアダムス教会において最も偉い。
そしてアダムス教会はこの大陸における最高権力……つまりこのジェームス枢機卿はヤバイほど偉い人なのだ!
そんな人物が直接視察に来るほど、ペガサスという存在はアダムス教にとって大きいのである。
「頭を下げる必要はありません。ペガサス様を呼び出せるお方となれば、私共のほうがむしろ礼をせねばなりませんから」
俺に対して紳士な態度をとるジェームス枢機卿猊下。
もうなんかこう、この老人からすごい神聖なオーラが漏れ出ている。
「おや? あれは……三頭を持つ犬?」
そんなお方は門の前に座っているケルベロスに気づいて、興味深々な視線を投げかけている。
ケルベロスはこの世界に存在しない魔物だから不思議なのだろう。
「ははっ! 都市アルダでは魔物と共に暮らしております!」
「ほほう。それはすごいですね。彼らの目から理性を感じられます、理由なく人を襲うこともなさそうだ」
「それはもう! うちの魔物は(たぶん)人に危害を加えませんとも!」
本当は心の底から断言したかったのだが、一部のアレなやつ(主に魔女)が脳裏に浮かんでしまった。
ま、まあ魔女も故なければ何もしないだろう。何かあったら嬉々として人を襲うだろうけど。
「それはよきことですね。ではペガサス様の元へ案内していただけますか?」
「ははっ! こちらになります!」
正門をくぐって都市アルダの中を案内する。
内心ではすごくドキドキだ。頼むから何も起きないでくれ……!
枢機卿の前で粗相があったら、都市アルダの命運が潰されかねん!
恐る恐る歩いていると、ドワーフのブロックが俺を見つけて近づいてきた。
「おうライジュール! ペガサス用の馬具を作ってみたんじゃが。ペガサス便を運用するなら乗る人間も少しでも楽になったほうが」
「わーわー! いまは来賓がいるからまた後でな!?」
「おおう、そりゃすまんな」
いかん! ペガサスを馬車馬のように働かせてると知られたら、悪い印象をもたれてしまうかもしれない!
俺は急いでブロックを追い払って枢機卿猊下に顔を向ける。
「ち、違うんですよ! ペガサス様に少しだけご足労頂きまして……ちょっとだけお手伝いをしていただいてると言いますか……」
「ははは。知っておりますとも。ペガサス様の御力を借りて、行商を行っているのでしょう?」
「あ、ご存じでしたか……あはは!」
よく考えたらアダムス教会がペガサス便のこと知らないわけないだろ!?
俺はバカか!? なんか言い訳したせいで怪しくなったじゃん!?
落ち着け……冷静になれ……これ以上怪しまれるようなことは。
そう言い聞かせている俺に対して、サキュバスがこちらに気づいてやってきた。
「ライジュール、娼館の女の子を増やして欲しいのだけど」
「え? もっと女の子の魔物を召喚して欲しい!? 今はお客様いるからまた後でね!」
「あらやだ、ごめんなさいね」
娼館なんて教会からしたら不浄だとか言われかねないぞ!?
必死に誤魔化したがうまくいったか!?
「ははは。港の皆さんからすれば娼館は必須ですからな」
ニコニコと笑い続ける枢機卿。一見すると何も問題がなさそうだが、なんかすごく怖い。
何考えているかまったくわからない!
さ、サトリ様ー! サトリ様はいずこでございますか!? 出番でありますぞ!?
そうして更に歩き続けていると、住民たちが俺のほうに寄って来た。
「ライジュール様! 人類蔑みの令の件でお聞きしたいことが!」
「俺は今! お客様を! ご案内しているの!? 見たらわからない!?」
なんで神官服で明らかに偉いオーラ出してるお爺さんいるのに、俺にいつも通りに話しかけてくるの!?
しかも人類蔑みの令とか言い訳できないじゃん!? 単語がダメだよ!?
考えたのは俺だけども!?
「す、すみません。また魔物様を召喚されたのかなと……」
「枢機卿猊下! この愚か者は処罰を与えますゆえどうかお許しを!」
バカなことをほざいた奴の頭を、手で無理やり下げさせた上で俺も必死にぺこぺこする。
いくらなんでも魔物と間違えられて、よい気分な人間がいるわけないだろ!?
だが枢機卿猊下は慈愛の笑みを浮かべたままだ。
「いえいえ。ペガサス様も魔物なのです。あのお方と同列の存在に見られることは嬉しいです、ありがとうございます」
……もしかしてこの老人は本当に聖人なのではないだろうか?
普通は魔物と間違えられたらキレるか、嫌な顔くらいはするだろうに。
「あ、ありがとうございます! ではこちらへ!」
とはいえこれ以上ボロを出す前に急ごう。
そうして気持ち早歩きで案内し続けて、ようやくペガサス厩舎の前にやってきた。
その厩舎では何頭かのペガサスが地面に寝転がっていた。
今はこの都市にペガサスは十四頭いるのだ。
ペガサス行商をさせているのは一日に十頭なので、毎日四頭に休みの日を与えている。
それと七日に一度は行商人含めて休みなので、週休二~三日制である。
でもよく考えたら普通の馬の厩舎で、ペガサスを飼うのダメだったかな……?
恐る恐る枢機卿の反応を見ると、彼は地に片膝をつけて手を組んで祈っていた。
「お、おお…………ペガサス様、本当にいらっしゃる。まさか生きている間にこの眼で拝見できるとは……!」
感極まった声をあげる枢機卿。
……俺が勝手に名を借りたアダムス教が、布施とかたかりに来たと考えすぎただけか。
このお方は本当にこの人はアダムス教に殉じた人なのだろう。
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それとこの作品は十万文字くらいで完結予定ですが、多くの人に見てもらえたらもう少し長くなるかもしれません。
是非よろしくお願いいたします!
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