第23話 教会のお墨付きを得たぞ!


 ジェームス枢機卿がペガサスの厩舎を見て感激した後。


 ユニコーンの救貧院などにも案内して好感度を稼いでおいた。


 そして街を一通り見てもらった後、彼を領主屋敷に招いて接待をしていた。


 今は食堂で食事をふるまっているところだ。


 枢機卿はテーブルに座って優雅な仕草で食べ続けている。


「このお酒は美味しいですね。この大陸でもそうそうお目にかかれない逸品です」

「そう言って頂けると嬉しいです。よろしければお土産にいくつかお持ち帰りますか?」

「いえいえ、お気持ちだけ頂戴しておきます」


 うちの新鮮な魚、そしてレプラコーンの酒を味わって舌鼓をうつ枢機卿。


「おかしをお持ちしました」

「おお、ありがとう。お嬢さん」


 サーニャがアイスのはいった皿をテーブルに置く。

 

 魚と酒と魔女菓子はうちで誇れる食品だからな! 逆に言うと他はロクなものがないとも言える。


「おお、このひんやりとした菓子は美味しいですね」

「アイスっていいます。おかわりはいりますか?」

「いえいえ。お気持ちだけ頂いておきます」


 機嫌よさそうにアイスをたいらげた後、手を合わせて「ごちそうさまでした」と告げる枢機卿。


 そして俺に向かって頭を下げてきた。


「多大な接待をして頂いてありがとうございます」

「いえいえ。ご満足いただけたなら幸いです。ところで……都市アルダがペガサスを呼んだことで、実質的にアダムス教の名を借りていた件ですが……」


 ここからが本題である!


 今までの接待攻勢も全てはアダムス教の覚えをよくするため!


 本当に頼む! この返答次第で都市アルダの未来が決まる!


 枢機卿はしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「その件ですが問題ありません。ペガサス様を召喚した以上、アダムス教の名を使うのは当然でしょう。今後は正式に神官も派遣します」

「……あ、ありがとうございます!」


 いよっしゃああぁぁぁぁ! これで都市アルダの最大の懸念が払しょくされたぞ!


 もうこれで悩みの種もなくなるし、今後は思う存分アダムス教の名を借りて商売できるぞ!


 これまでの領民向けにペガサスの権威を振るうだけではない。


 外の商売相手などに向けてもアピールすることができるのだ。


 都市アルダはアダムス教に正式に認められた都市です。なので……わかっているよね? って!


 大陸に覇を唱えるアダムス教の力があれば! それこそ公爵も怖くないぞ!


「いえいえ、この都市を見ればわかります。ペガサス様を崇拝するだけでなく、他の魔物たちにも礼を持って接しています。街に住む人の顔も明るいですし活気もある。なら私たちが何か言う筋合いもありません」

「お褒め頂きありがとうございます!」

「この都市が貴方の人柄を物語っています。貴方は悪い人ではありません、変わった人ではあるのでしょうが」


 枢機卿はニコニコとこちらを見続ける……なんか微妙に何かを含んだ言い方だがいいか。


「そ、そんなに変わってますか?」

「少なくとも人類蔑みの令を出すのは、平凡な者には実行できないでしょう」

「あ、あはは……」

「ですがそれくらいでよいのかもしれません。どうしても人は魔物に偏見を抱きます。同じように接しているつもりでも下に見てしまいかねない。ならかなり目上の者と思って接するようにすれば、そこまで無礼を働かないでしょう」


 枢機卿は人類蔑みの令の本質を理解しているようだ。


 ペガサスを筆頭に魔物に無礼な態度をされては困る。だからこそ人類蔑みの令を発布したのだから。


「さて……それでは私はそろそろお暇させて頂きます」


 そう言いながら椅子から立ち上がる枢機卿。


「もうですか? 少しゆっくりして頂いても……」

「いえいえ。これから都市アルダの関係で色々とやることがあります。このペガサス様の理想郷をお守りするためにもね」


 人のよい笑みを浮かべる枢機卿。


 いい人だなぁ……この人がこの街に来てくれてよかったよ。


 ……これからお世話になるのだし少しだけサービスしちゃおうかな。


 サービスと言っても賄賂ではない。この人はそんな物は受け取ってくれないだろう。


 だってさっきから何度もお持ち帰りいかがですか? と言っても頑なに断られてるし。


 なので物ではなくてこの老人が喜びそうなことをしよう。


 この人にとってペガサス様は神獣の類だ。それならば……。


「あの……よろしければなのですが、ペガサス様に乗って帰りませんか?」

「……!? よ、よろしいのですか?」

「ええはい。ただお乗りになってきた馬車を置いていくことになりますが……」

「構いません! あれは勝手に帰らせます!」


 すごく食い気味で乗ってきた枢機卿。目が爛々と輝いている。


 やはりこの人は本当の意味でアダムス教の熱心な信者なのだろう。


 そうして屋敷の前に出て、彼の目の前にペガサスを一頭連れてくると。


「……ペガサス様。このジェームスを背に乗せて頂けますでしょうか?」


 枢機卿はペガサスに対して膝を地につけて最敬礼を行う。


 それに対してペガサスは厳かにコクリと小さく頷いた。


 ……あれ? 俺が初めて乗せてもらった時と態度違いすぎない?


 俺の時は滅茶苦茶不満げにしょうがねぇなぁだったのに!?


 ペガサスは枢機卿が乗りやすいように座り込んだ。


「ありがとうございます……このジェームス、このために生まれてきたのでしょう」


 感極まりながらおそるおそる、ガラス細工を触るかのように慎重にペガサスの背に乗る枢機卿。


 そうして彼がしっかりと背に乗っかった後、ペガサスは立ち上がっていなないた。


「ライジュール卿、本当にありがとうございました。この都市アルダは絶対に悪いようにはしません」

「ありがとうございます」


 枢機卿は俺に顔を向ける。うっすらと目に涙を浮かべていた。


 そして彼は改めて前を向くとしっかりと手綱を握った。


「よろしくお願いいたします、ペガサス様……!」


 その言葉と共にペガサスは駆け出したのだった。


 すぐに遠く離れていくペガサスと枢機卿……俺は宗教に興味はない。


 だがあそこまで信奉することができて、一生を尽くせるものがあるのは少し羨ましいかもな。


 そうして都市アルダとアダムス教は友誼を結んだと、正式にアダムス教から大陸全土に発表された。


 この広報は恐ろしく大きい影響を持つので、おそらくこの街に人が集まって来るだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る