とうとう来襲!? 教会(ヤクザ)の元締め!

第21話 ユニコーン救貧院


「あああああああああ!!!! とうとう来てしまったあぁあああああ!?!?!?」


 俺は屋敷の執務室で、とある手紙を持って絶叫していた。


 今まででもっとも大きな悲鳴をあげたせいで、近くにいたサーニャがビクッと驚いてしまった。


「ど、どうしたの? なにが、きたの?」

「……」


 俺は手紙に描かれたシンボルをサーニャに見せる。


 そこには十字架の紋章が記されていた。


「アダムス教からのお手紙?」

「恐れていた事態だ、いつか来てしまうのではと思っていたが……まずいぞ! 散々アダムス教の名を語ってペガサスの威光乱用したのはまずいぞ!」

「じごうじとく」


 思わず頭を抱えてしまう。


 気分はヤクザの名前を勝手に使っていたら、とうとう本家本元が「兄ちゃん面かせや!」とやって来た感じだ!


「ま、まずいぞ……このままでは俺は海の藻屑にされてしまう……!」

「教会はやさしいしそんなことしないとおもうけど」

「お前は宗教の恐ろしさを知らないんだ!」


 宗教はヤバイのだ!


 歴史の宗教関係でどれだけの血が流れてきたと思っている!


「それならなんでペガサス様のことを散々宣伝したの?」

「いや人間に言うこと聞かせるのに物凄く楽だったから……つい調子に乗って……」

「いまから教会にごめんなさいってあやまろ?」

「……ダメだ! 頭を下げたらギロチンで斬られる! ここは何としても土産がいる! こいつ利用価値あるから生かしておこうと思わせられる何かが!」


 教会は案外俗世に染まっている。


 なので袖の下などが結構効果的だったりするのだ。


 だが賄賂が横行してるからアダムス教は腐っているというわけではない。


 貧民を救うには金がいるわけで、もらった賄賂はそういったものに使ってる。


 …………という言い訳の元に、賄賂という名の寄付を大体的に募集してるのがアダムス教だ!


 彼らは『よほどの悪行をしていなければ、金などで救いは与えられる』と豪語している。


 なのでっ! 俺も多額の寄付か貢献をすればっ! 教会に許してもらえるはずなのだっ!


「よし、都市アルダをアダムス教の一大拠点にしよう。それですごい救貧院を建てて全面的にアダムス教の手柄にしてアピールだ!」

「ろこつすぎない?」

「こんなの露骨すぎるくらいでいいんだよ! よしさっそく救貧院……すでに教会はあったからまずはそこを病院にするぞ! 善は急げだ!」

「善かなぁ……」


 そんなわけで都市アルダに建てられた教会へと向かった。


 元々はアダムス教の神父が派遣されていたのだが……三年ほど前に帰ってしまっていた。


 そのころには都市アルダの人口は五十を下回っていたので、流石に面倒見切れないと思われてしまったのだ。


 教会に派遣される神父は薬学などの知識を持つ限られた人材なのだ。


 更に言うならこの世界では回復魔法も扱えるので、数が極めて限られている。


 なのでアダムス教会の神父はこの街にはもったいないと去ってしまった。


 ほぼ廃墟と化した場所に滞在させるより、他の人が多い場所のほうがより多くの人を救える……という名分があるからな。


 教会の中に入ると、大量の椅子と大きな神の石像が置かれている。


 この内装の造りは地球の教会と同じだ。


「ここに病院をつくるの? でもこの街にお医者さんいないよ?」

「医者は不要だ。救貧院だって医者じゃなくているのは神父だし……それに普通の救貧院じゃダメなんだよ。もっとこう、インパクトがあって流石はアダムス教! ってアピールにならないと。なので何でも治せるユニコーンを配置しようかと」

「そっか、ユニコーン様ならかんぺきだね。何でも治せる」


 ユニコーンの癒しの力は、そんじょそこらの医者や神父が束になっても叶わない。


 サーニャを喋れるようにもしたし、それこそ不治の病すら治せてしまうのだから。


 教会関係なくてもうちに病院は必要だったので、ちょうどよいとも言える。


 それに教会にいるユニコーンってなんか神秘的だし。


 そんなわけでユニコーンを教会へ連れてきて、救貧院の営業? を開始した。


 建物の中に獣をいれるのどうなの? という感じもするが、まあユニコーンなら神聖な魔物だしいいだろ。


 アダムス教会に対しても、ペガサス以外にもうちは聖属性の魔物がいる聖なる都市ですよってアピールできるし。


 なにせ魔女とかの明らか黒とか闇属性の魔物もいるからな……綺麗さをアピールしておかないと。


 そんなわけで営業開始一日目、早朝に開いて昼までずっと教会内で客を待っていたのだが。


「……誰も来ないな」

「こないね」

「よいことではないか。病人や怪我人が出てないのだろう」


 ユニコーンがサーニャを背に乗せて、気分よく歩き回っている。


 なんかあれだろ、たぶん処女の股を背に乗せるのが心地よいんだろう。


 男が女を背負って胸が当たるみたいな感じで。


「それだと困るんだよ。人が来ないと神聖な救貧院のアピールがな……ちょっと煽ってひと騒動起こしてくるか……?」

「わざわざ怪我人を出そうとするな愚か者。人にも道理というものがあるだろう」

「だめだよライ」


 悲しいことにユニコーンに人の道理を説かれてしまう。


 だが暇なんだよなぁ。時間がもったいないというか。


 そんなことを考えていると、ひとりの男が教会へと足を踏み入れた。


「ほ、本当にユニコーンが救貧院やってるのか……」

「らっしゃい! 本日はどうされました!?」


 逃がさないように即座に詰め寄ると、男は少し引きながらも口を開く。


「い、いや実は最近ちょっと風邪気味で……身体がだるくて」


 確かに少し顔色が悪いように見える。


 身体もだるそうだしこれは仮病の類ではないな。


「なるほど。ユニコーン様、出番ですよ!」

「わかっておる」


 ユニコーンの角と男の身体が光り輝いた。


 そして光が消えた後、男の顔の血色が明らかによくなった。


「おおっ!? なんか身体が重くなくなったぞ!?」


 腕を回したりその場でジャンプしながら、機嫌よさそうに呟く男。


 ……あれ? なんか地上から1メートルくらい飛んでないか? 


「すげぇ! 身体もまるで羽根みたいに軽くなってる気がする!」


 気がするんじゃなくて軽くなってるんじゃなかろうか。


「ありがとうございます! おかげで楽になりました! ひゃっほー!」


 テンション爆上げでスキップして去っていく男。まるで地面がトランポリンのようにピョンピョン跳ねている。


「……ユニコーン、あの男は明らかに身体能力上がってないか?」

「我の力は癒しだけにあらず。癒せば一時的に身体も強化される。そも身体を癒して病巣など取り除いても、弱り切った身体のままでは死にかねん。故に我が癒しは身体の強化もセットだ」


 ……それはどうなんだ? 病院というより改造人間製造所になってしまうような……。


 もしくはRPG的に言うならバフ屋か? 


 ……まあいいや、癒せることに代わりはないし。

 

 後日、丸太を軽々振り回す元気爆発ジジババが爆誕したりするのだがそれはまた別の話。

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