第2話 ペガサスの行商!


 俺達はペガサスに乗って、レーム村から遠く離れた港町のそばの森にやって来た。


 ちょうど夜が明けて朝日が見え始める。そんな中で俺は……ペガサスに土下座していた。


「申し訳ありません! どうか少しの間、この森でお待ちいただけないでしょうか!?」

「……ぶるぅ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ペガサスはしかたねぇなぁ、と鼻息を鳴らした。


 街にこいつをいれるわけにはいかない。何故ならば大騒ぎになるからだ。


 ペガサスは教会指定の神聖なる伝説の魔物。もし地上に存在していれば、この大陸を揺るがす事態になる……かもしれない。


 なので近くの森で待っていただくことにした。


 それで俺とサーニャだけで港町――ダーシュに入ることに成功した。


 あまり時間がないので急いで市場に直行。様々な出店が並ぶ中、魚などを多く展示している店のおっちゃんに話しかける。


「おっちゃん、魚をくれ! なるべく内地の人間が欲しがるやつ!」

「お? 親戚のおじさんでも遊びに来たのかい? 嬢ちゃん二人揃ってお買い物か」

「嬢ちゃんじゃない、俺は男だよ」


 魚屋のおっちゃんに否定をいれておく。


 俺の容姿は一見すれば美少女と見間違う容姿だ。


 鏡を見て俺自身が可愛いと思ったのだから間違いない。


 しかもとある理由で銀色の髪を肩までのばしている。間違えられるのは必然と言えるだろう。


 せめて髪をくくるべきなのだが、それも同じ理由でやっていないし。


 身体の一部を契約の対価にする悪魔っているじゃん、そいつ呼ぶ時に髪の毛伸ばしてたら腕とかの代わりにできるからな。


 腕と伸びた髪の毛のレートが同じのは詐欺な気もするが。


「おお? そうなのか悪い悪い。内地の人間が珍しがるとすれば……このシーシャークの肉とかどうだ? 海でしか取れないし、この街の名物魚だ」

「よし買った! 他には何かよいものはない?」

「うーん……他にもよい魚はあがってるが……内地ならやめておいたほうがいいな。なにせ滅びの港エルダの元名産魚だ、縁起が悪いって思われる。あそことうちの港を一緒にされたら困るのによぉ」

「…………そっすね」


 時は金なり。


 おっちゃんに勧められた魚の切り身を、三キロほど購入して布に包んでもらう。


 そしてすぐさまペガサスの元へ戻った後。急いで俺達の近くの都市へと向かう。


「……サーニャ。気を強く持ってくれ! 大丈夫だ、次もきっと生き残れる!」

「…………!」


 俺は涙目になっているサーニャの肩に手を置いた。


 またペガサスに乗る。それはつまり、三時間絶叫ジェットコースターに乗り続けるに等しい。


 気を強く持たねば廃人になる可能性もあるのだ。


 互いに慰め合った後、俺達は意を決してペガサスの背に乗った。


「……お願いします! ペガサス様!」


 サーニャが俺に身体全体でしがみついたまますごく震えている。


 今から始まる地獄を想像したのだろう……俺も嫌だ。


「……ぶるぅ」


 ペガサスはしかたねぇなぁと鼻息を鳴らすと、俺達の身体が輝き始めた。


 それと同時にペガサスは走り始めた……だがどういうことだろうか。以前と比べて全く怖くない。


 風も全然感じないし馬体の振動もない。何より恐怖心が湧いてこないのだ。


「…………?」


 サーニャも同じように首をかしげて、俺を見つめて来ていた。やはり俺だけではないようだ。


 ……思い出した。ペガサスに乗った勇者は、恐怖を忘れて戦うことができる伝説があった。


 それはペガサスの魔法か何かで、俺達にもかけてくれたのだろうか。


「……あの、ペガサス様がやってくれたのですか?」


 俺達の言葉に答えるように、ペガサスは走りながら顔だけ俺達のほうを向いた。


 やだこのペガサス、イケウマ面……。


 そんなわけで帰りは変わる景色を楽しみながら戻ることができた。


 行きはほぼ逝ってたので、周囲を見る余裕なんてなかったからなぁ。


 なお恐怖心がなくなった結果、ペガサスが飛んでいる時に手綱から両手を離したりして遊んでいた。


 …………ペガサスから降りた後、冷静になって恐ろしくなった。やはり人間には恐怖心が必要だなうん。

 

 そして内陸の都市ディトロイの飲食店に、海の幸を売ることに成功した。


 行きかけの駄賃は銀貨一枚、今の手元にあるのは金貨五枚。


 銀貨十枚で金貨一枚のレートなので……なんと五十倍! ウハウハが止まらない!


 そうして夕暮れ時頃にレーム村に戻って来た俺達は、ペガサスに休んでもらうために馬小屋に向かった。


「……!? な、な、なっ!? ペガサス!?」


 馬小屋の馬にエサをやっていた男たちが、ペガサスを見て腰を抜かして驚く。


 更にその背に乗った俺達に気が付くと。


「あっ! エルダ家の坊ちゃん! どこ行ってたんですか!? 行方不明で村は大騒ぎで……!」


 ……心配してたというよりも、バルガスへの贈呈品が逃げ出したと焦ったんだろうな。


 ここはペガサスを使って俺の権威をあげておかねばならない。


 俺はこほんと喉をならした後に。


「……控えろ!」

「「へぇ!?」」


 いきなり俺に叫ばれた男は、驚いて身体をビクッと震わせた。


「俺が乗っているのはあの伝説のペガサス様なるぞ! 頭が高い、控えおろう!」

「「へ、へへぇ!」」


 男たちは俺に……いやペガサスに対して、地に片膝をついて頭を下げた。


 この世界で最も上位の者を敬う礼、日本で言うと土下座の姿勢だ。


「よいか! 俺はエルダ家の召喚魔法でペガサス様を召喚した! そして金貨五枚を一日で稼いだ!」

「な、な、なにを仰いますか!? そんなわけが……!」

「これを見ろ!」


 俺が懐の貨幣袋から金貨五枚を取り出すと、男たちの目の色が変わった。


 俺が金貨など持っていないことは、この村の人間ならばみんな知っている。


 この村を入る時に身体検査と評して、だいたいの財産を没収されたからな。銀貨一枚以外は価値のあるものも全て盗られた。


「よいか! すぐに村長にこの事実を伝えよ! そしてこれより俺がこの村の指揮を行う! さっさと行け! 行かぬならばペガサス様の蹄でその頭を踏み潰すぞ!」

「「は、ははぁ!」」


 男たちは逃げるように去っていく。


 これでこの村で俺たちがないがしろにされることはない……と思いたい。


 ペガサスを召喚した上に、一日で金貨五枚を稼いだのだ。


 少なくとも弱き無能なガキとは思うまい。


 領民たちは力ある者に従う。ならば俺が力を示したことで態度が変わるのも当然だろう。

 

「さてここからどうするかだな……ペガサス様、今晩はこの小屋でお休みください。気に入らないことがあれば、すぐに直させますゆえ」

「……ぶるぅ」


 よきにはからえ、とペガサスが鼻息をならした。


 ……たぶん明日には文句のオンパレードなんだろうなぁ。だってただの馬小屋で、ペガサスのために用意したものではない。


 まあとりあえず今日はここで寝てくれそうなので、明日要求に応じて改善すればよいか。


 俺とサーニャはゆっくりとペガサスの背から降りた後。


「サーニャ、安心してくれ。都市エルダは取り返してみせるから」

「…………!」


 サーニャは顔をほころばせている。


 ……正直言うなら、俺はこの領地を見捨てる選択肢もあった。


 ペガサスの力があれば生きていける……だがサーニャはこの地にかなり愛着を持っている。


 それに俺の親父が罪人のようにされるのも、あまり気分が良いとは言えない。


 何だかんだで十二歳までまともに育ててもらったし、最後に最低限の義理を果た……ゲフンゲフン親孝行くらいはしたい!

 

 そういうわけで今後の動きを考えていくのだった。


 ペガサス一頭では心もとないし他の魔物も召喚しないとな。


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