第4話 オレに涙はいらないぜ

「ただいまー」


 誰もいないことはわかっていたけど(居候の幽霊を除けば)、なんとなく居間に声をかけて、靴を脱ぎ、二階の自室へ。


 オレが小さい頃から、父さんと母さんは共働きで、週末以外はほぼ家にいない。


 その分、週末は家族で出かけたり、三人でゲームしたりするから、寂しいと思ったことはない。我ながら、いい家族だと思う。


 それにしても、先輩はいつまで幽霊でいられるんだろう。


 やっぱり、思い残しがあって、幽霊になって戻ってきた可能性が高いよな。


 だとしたら、オレの役割は、先輩が気持ちよく成仏するための、手伝いだよな。

 小説だと、だいたいそうだし。サポートキャラ的な。


「先輩、ただいま帰りましたよーっと……いない?」


 自室には、誰もいなかった。

 昨日は、オレのベッドの上で、まったり寝てる幽霊がいたのに。


 先輩(幽霊の姿)は、壁のすり抜けはできないし、物には触れないし、オレ以外の人には見えないし(もしかしたら見える人がいるかもしれないけど)……。


 自室のドアは開けておいたから、家の中をうろついているのかも。

 そう考えて、家の中を歩き回る。


 階段を下り、居間、台所、風呂場を見て回ったものの、先輩の姿はない。


「まさか……」


 成仏したのだろうか。いや、まさか、ね。……本当に?


「先、輩……」


 気づいたら、オレの目からは涙が溢れていて。


 ぼんやりと、先輩に告白したかったなぁ……なんて後悔が頭をよぎった。


 せっかく先輩が幽霊になって、オレに会いに来てくれたのに、……別に会いに来てはないか。偶然か。まぁともかく、オレの泣いてる描写は大幅カットね。


 オレの泣き顔は、誰得にもならないから。こうして都合よく話をごまかせるのは、主人公の強みだな!


 ふと、誰かに呼ばれた気がして、顔を上げる。


「先輩っ……!」


 目の前にいるのは、小泉先輩だった。


 体は、やっぱり半透明で。


 涙で前がよく見えないオレに、先輩は優しく微笑んだ(ように見えた)。


「なんで……どこに……成仏したんじゃ……」


「えっと、説明しにくいんだけど」


 先輩は、困ったように眉を下げて、可愛らしい声で、こう告げた。


「なんか、頑張ってみたら、すり抜けできたんだよね」


「せぇぇんぱぁぁい! オレの涙を返して! かえしてぇぇ!」

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