第3話 謎めいた司書さん

 小泉怜香は、オレの一つ上の先輩だ。


 あ、前章で「俺たちの戦いはこれからだぜ」的な終わり方をしてるけど、気にするな。


 オレが遅刻して怒られた話は聞きたくないだろ? で、先輩の話だ。


 オレの記憶が正しいなら、彼女は九月一日、二学期の始業式のあとに、行方不明になった。


 学校から帰宅中に、姿を消したと聞いている。ふらふらっと、何の予告もなしに。


 で、気づいたら数日前……十二月三日に、オレの部屋に突然、半透明で現れた。


 オレが夕飯を食い終わって、部屋に戻ったら、ベッドの上で幽霊(半透明になった片想いの相手)がぐうすか寝てたもんだから、心臓が止まりかけたことを覚えている。


 本人曰く、「なんか気づいたら幽霊みたいなものになってた」とのこと。


 最近の流行的に、そこは異世界転生するべきでは、と思ったけど、神は異世界転生が苦手なようで。


 こうして再会できたのが神の思し召しだとしたら、オレは感謝せねばなるまい。ありがとうございます、神よ。話を戻すぞ。

 

 オレと小泉怜香は、いわゆる「委員会が一緒だから名前と顔は知ってる」関係だ。委員会は月に一回、集まりがあるからな。


 それ以外の関わりはまったくなくて(幸いにも廊下ですれ違うことならあった)。


 オレはずっと、憧れの彼女に告白する勇気を出せずに、ただ見つめていられるだけで幸せ、なんてかっこつけてて。


「東堂」


 恋に落ちたのは、いつからだっけ。今年の春だった気がする。


 たぶん、図書委員会で先輩の姿を初めて見て、一目ぼれしたんじゃなかったっけ。


 そこから、ずっと目で追っていて。先輩は、よく放課後に図書室で勉強してたから、オレも意味もなく図書室に通ってたんだよな。


 姿を拝めるだけで一日幸せというか、眼福というか。


「おい東堂」


 まぁ、先輩が生きてるうちに、告白したかったけどさ。というか、さっきから誰かオレのこと呼んでない?


「起きろー、東堂。ここは寝る場所じゃねぇぞー」


「またアンタかよ! あっ三浦先生、ごきげんよう」


 本日二度目の三浦先生、出現。先生が担当する二時間目の英語の授業で、ぐっすり寝てしまったから、ちょっと気まずさやら申し訳なさやらがある。


 てか、いきなり話しかけられたから、変なお嬢様言葉になったじゃねぇか。


「はい、ごきげんよう。司書さん、こいつ俺の授業中、ずっと寝てたんすよ」


「あらまぁ、それは大変ですねぇ」


 ついでに司書さんまで現れた。この人、いつも暇そうにしてるけど、仕事はしなくていいんだろうか。図書室の利用者はいつも少ないし、いいか。


「おすすめした小説、どうでしたか?」


 司書さんがオレに笑いかけて、そう言う。


 数日前、先輩が幽霊として現れてから、オレは幽霊が出てくる小説を読みまくった。何かの参考になるかもしれないと思って。それを見た先輩は、楽しそうに笑ってたけど。


 あまり先輩に問題意識がないというか、楽観的というか、そんな感じで困るのだ。オレとしては、成仏してほしいところなんだが。


「ああ、とてもよかったです。幽霊って、不思議な概念ですね」


「はい。不思議で、ありきたりで、幻想的なものです。でも、それに囚われてはいけませんよ。成仏しない幽霊がいても、いいと思います」


「えっ……それって」


「ふふ、ちょっとしたアドバイスです」


 そう言って、司書さんは意味深な笑みを浮かべる。


 この人、いったい何者なんだ……。

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