第2話 先輩には逆らえないよね

「……おはよう、ございます」


 気まずい朝だ。気まずいというか、なんというか……。


 朝、目を開けた先に、好きな人の寝顔があったら、誰だって変な気持ちになる……なるよな?


 しかも、彼女、その……うっすら透けてるんだ。体が。幽霊だからな。


 オレの視線に気づいたのか、居候さんは、ゆっくりと体を起こした。


「ん……ん? ああ、おはよう。ごめんねぇ、またベッド使っちゃって」


「あー、まぁ、大丈夫ですよ。気にしないでください」


 彼女の名は、小泉怜香こいずみれいか。前述の通り、れっきとした幽霊で。


 幽霊になった経緯は、もちろん死んだからです。


 そこらへんの作品にありがちな「死んだけど、気づいたらなぜか体が半透明になって、元いた世界に戻ってた」やつで(先輩談)。


 オレもまぁ、よくそんな都合のいい展開になるもんだなと思ったけどさ。


 案外、人生なんてそんなもんなのかもしれない。


 ちなみに、彼女の姿はオレにしか見えなくて(よくありがちな設定だ)、扉や壁のすり抜けはできないらしい(できたら楽だったのに、とのこと)。


「にしても先輩、本当に思い残しとかないんですか? このまま居座るつもりじゃないですよね? 今日で五日目ですよ」


 オレは居座って欲しいと思ってるけどね。心の中でつぶやく。


「ふふ、一生居座っちゃうかも。だめ?」


「ダメですよ。ちゃんと、成仏してください」


 悪霊じゃないし、成仏しなくても平気だもん、なんて言う先輩は、まるで子どもみたいだ。


「そろそろ八時だよー? 学校行かないとまずくない?」


「え」


 慌てて時計を見ると、もう八時だった。この時間じゃ、朝飯を抜いて、学校までダッシュしても間に合うかどうか。オレの脚力にこうご期待!


「やべ、行ってきます!」


「いってらっしゃーい」


 彼女の間延びした声に送り出され、オレは少し、ほんの少し、喜びをかみしめる。


 この日々が、ちょっとでも長く続いてくれることを、願いながら。

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