第6話 最弱魔王は涙する
ここはどこだろう。真っ暗で何も見えない...俺は死んだのか?体思うように動かなかった。誰かの叫び声が聞こえる気がすると思えば体が温かい光に包まれるような感覚がした。この優しい温かさの正体は一体なんだ...ぼんやり上を見上げると光がこちらに向かってきた。
「クラウド...」
俺の名前を呼んで手を差し伸べてくる。俺はその手を掴むと暗闇が無くなり真っ白い空間に変わった。一体何が起こっているかは分からない。光の主はよく見るとラヴィーだった。
「ラヴィー?どうしてここに?」
「こっちよ、クラウド」
ラヴィーは優しそうに俺を呼ぶと真っ白い空間に立たせてくれた。
「ありがとう、ラヴィー。ここはどこ?」
「...」
「ラヴィー?どうしたの?」
いくら聞いてもラヴィーは答えず悲しそうにこちらを微笑むだけだった。
「どうしたの?何かあったの?」
「...」
何も言わないラヴィーに困惑しつつ辺りを見るとラヴィーの後ろに白い橋が見えた。そこに行けば何かが分かるのかもしれない。するとどうしてもあの橋を渡りたくなり、ラヴィーに声をかけ、橋へ行こうとするが止められた。
「ラヴィー?どうしたの?あの橋に行かないと」
「クラウド...あんたはあの橋を渡っちゃだめ」
「どうして?」
「渡るのは私だけでいい」
「どういうこと?よくわかんないよ!」
「分からないの...クラウド...ここがどこなのか?」
「え?どこなんだここ?」
俺はラヴィーにそう聞くとラヴィーには泣きそうな顔をした。
「ごめん...私...あんたを助けたのに...あんたを連れて行こうとするなって...許されることじゃないけど...ごめん...ごめんなさい」
「謝らないでよラヴィー。よくわかんないけど一緒にここからでようよ!」
「あんたならそう言ってくれると思ってたわ。最後に伝言いい?」
「伝言?いいけど?」
「皆に伝えて...今までたくさん助けられたし迷惑もかけてごめんなさい。皆と過ごした日々はとても楽しかった。悔いはないって」
「分かった。絶対みんなに伝えるよ」
「...クラウド、これからあなたは魔王バトルロワイアルで多くの悲劇を知ることになると思う。挫折しそうな時は悩まず思い出して...あんたは一人じゃない、皆がいるってこと」
「分かった。ありがとうラヴィー!」
「...時間だ」
「時間?」
ラヴィーがそう言った時急に体が重くなり動けなくなる。するとラヴィーは橋の方に向って歩き出す。俺が呼び止めるとラヴィーは立ち止る。
「ラヴィー!待って!」
「...」
「クラウド...私ね。あんたに賭けてみたくなったの?最初は魔王なのに最弱で泣き虫って聞いて驚いたわ。今までの魔王は残虐で酷い奴らばっかりで信用してなかったの..だけどあんたは違った。あんたにいつの間にか心を許してた...あんたが魔王バトルロワイアル出て優勝するって魔王カインを倒すって言ってくれたこと本当に嬉しかったの。だから...可能性は低くてもあんたに賭けてみたくなった」
「ラヴィー...」
「あんたには魔王カインを倒す力がある」
「でも...俺は弱くて...」
「今はそうかもしれない...けどあんただって魔王なんだよ。魔王は一人一人が他の魔王に負けない秘めた戦力を持ってるの。あなたはまだそれが覚醒していないだけ。現に魔王カインの天敵はあんただけ」
「魔王の秘めた...力...」
「そう。あんたならきっと勝てるよ。じゃあ...私はもう行くね」
ラヴィーはそう言うとまた歩き出した。俺は嫌な予感がした。もう二度とラヴィーに会えないような嫌な予感が...そう思うと体を無理やり起こしラヴィーも元へ走る。橋を渡りきったところでラヴィーは振り返った。
「ラヴィーー-----!」
「クラウド...あんたはまだこっちに来ちゃダメだからね」
「ラヴィー...なんだこれ...うわあああああああああ」
振り返ったラヴィーは泣いて微笑んでいた。ラヴィーのその言葉を最後に俺の足元は無くなり深い闇へと落ちていく。
「ラヴィー!」
ラヴィーに向かって手を伸ばしたがその手は届くことは無かった。最後に見たラヴィーは幸せそうに笑っていた。
「六話 最弱魔王は涙する」
「ラヴィー!」
俺は目を覚ますと治療室で寝かされていた。俺に気づいた回復術師は直ぐにフィオナを呼びに行き直ぐにフィオナがやってきた。
「クラウド、目を覚ましたんだな」
「ああ、なあ?フィオナ...ラヴィーは?ラヴィーはどこにいるんだ?」
「...クラウド、辛いだろうが着いてきてほしい」
「どこへ行くんだ?」
「来たら分かる」
俺は不安な気持ちと嫌な予感を抱えながら案内された場所は霊安室だった。
「ラヴィーはこの中にいる」
「!!」
俺は一目散に中に入ると石碑が立ち石碑には;気高き少女ラヴィーここに眠る;刻まれ傍にはラヴィーの身に着けていたペンダントが掛けられていた。俺の予感は当たってしまった。俺はその石碑を見てその場にしゃがみこんだ。
「嘘..だろ...なんで...」
「あの魔王カインの襲撃でラヴィーは自分の命を犠牲にして皆を助けたんだ」
「そんな...」
「明日...ラヴィーの追悼の儀を行う。辛いだろうが君も出席してくれ」
俺はその後どうやって帰路についたのか覚えていなかった。フィオナにラヴィーの死を知らされてから気づけばもう半日が経っていた。森に住む動物たちも察したのか俺を慰めてくれた。結局たいして眠ることができなかった。次の日_ラヴィーの追悼の儀が行われ多くの者たちがその死を労った。俺は何もできずただ見ているだけだったが追悼の儀とは死者が安らかに眠るために安らぎの花・ペチュニアを送る儀式のことだ。
「ラヴィー...」
「クラウド」
「え?フィオナ...」
「君の番だよ」
「俺の番?」
「そう、追悼の儀は初めてかい?なら、私と一緒にしようじゃないか」
「いいのか、フィオナ」
「いいよ。私の真似をするんだよ」
俺はフィオナの真似をしてペチュニアの花を添えて手を合した。少しでもラヴィーが安らかに眠るように..俺とフィオナが最後だった。本来ならこの後死体を焼き残った灰を石碑に埋葬するがラヴィーは死体がなく、変わりに炎を灯すことになった。中央都市の大広間に大きな炎が上がり俺はそれを見上げた。
「炎があんなに上に上がっていく」
「綺麗だねクラウド」
「...フィオナ」
「どうした...クラウド?」
「俺...炎がこんなに綺麗だって知らなかった...」
「そうだね...綺麗だ」
「俺さ...心のどこかでこれは夢なんじゃないかとか...現実じゃないって思ってた。逃げてたんだ俺...この世界に来て...魔王クラウドになって...何なんだろうってずっと考えてた。馬鹿だよな...俺。そんなことを考えたって意味ないのに...分かってたのに..」
「...クラウド」
「俺は...何もできなかった...最弱魔王って言われてても...何とかなると思ってた。皆を助けられるって勘違いしてた。現実は違う。俺は弱い...最弱で..泣き虫で..目の前にいた傷ついて助けを求める一人の女の子すら助けることが出来ない!俺に力があればあの時だって助けられたはずなんだ!なのに...俺は助けるどころか助けられて...ラヴィーは...死んだ...死んじゃったんだ!」
「クラウド...ごめんね」
フィオナはそう言うと後ろから俺を抱きしめた。俺は抱きしめられて涙があふれて止まらなかった。
「なんでフィオナが謝るんだよ。フィオナは何も悪いことはしてないだろ?俺が...俺が全部悪いんだ」
「それは違うよ、クラウド」
「でも!」
「あの時...私は魔王カインにかけられた魔法のせいでその場から動けず何もできなかった。目の前で君たちが戦って傷ついていたのに何もできなかったんだ」
「フィオナ...」
「悔しいよ...私は勇者なのに...仲間を守れない。助けられない。目の前で仲間が死んでいく...こんな残酷なことはない。この中央都市の広場で追悼の儀を行うのはもうこりごりだ」
「俺ももうこりごりだ。ラヴィーで最後にしたい。誰かが傷つくのは嫌だ...フィオナ、信じてもらえないかもしれないけど俺...ラヴィーにあったんだ」
「ラヴィーに会った?」
「目を覚ましたら見知らぬ暗闇にいたんだ。でも明るい優しい光が上から降ってきたんだ。その光が俺に手を伸ばしてくれた。俺はその手を掴むと暗闇から真っ白い空間に変わったんだ。声を聞いて光の主がラヴィーだってわかったよ。でもいくら話しかけてもラヴィーはいつもみたいに返事を返してくれなくて悲しそうに笑うんだ」
「気づいたらラヴィーの後ろにある白い橋を見たらそこに行きたくなったけどラヴィーに止められた。橋を渡るなって言ったラヴィーが橋を渡ると地面が崩れて俺は深い闇へ落ちたんだ」
「嫌な予感がしたんだ。ラヴィーと二度と会えないような嫌な予感がした。ラヴィーの所に行こうとしたけど間に合わなかった。目を覚ます前にラヴィーに伝言を託されたんだ。信じたくなくて目を覚ましたらラヴィーはいなくて死んだと知ったんだ」
「そうか...」
俺はフィオナに伝言を伝えフィオナは黙って聞いていた。
「ありがとうクラウド。あなたがラヴィーの言葉を聞いてくれたから知ることが出来た」
「ラヴィー...こちらこそありがとう」
フィオナは炎は見上げ小さな声で言った。
炎を見ながらラヴィーのことを思い出す。ラヴィーとは短い付き合いだった。最初は仲良くなれないと思ったけどラヴィーの抱える心と過去の傷を聞いてラヴィーの優しさと強さを知った。そしてラヴィーと約束した。魔王バトルロワイアルで優勝して魔王カインをぶっ飛ばすと約束した。俺が約束すると言った時、ラヴィーは驚いていた。俺に初級魔法を教えてくれた。俺は何もできなかったけど何度も教えてくれたし、また特訓する約束をしたのにな...この思い出が最後になるとは思わなかった。
「もうすぐで炎が消える...」
「これで追悼の儀は終わる。けどラヴィーが消える訳じゃない。ラヴィーはいつまでもここにいる」
「そうだな、フィオナ」
フィオナは胸に手を当てて言う。俺も同じように手を当てた。炎は綺麗に燃え尽き追悼の儀は終わった。俺は最後にそう言い手を合わせた。
「今までお疲れさま...ゆっくり休めよ。ラヴィー」
どうか...ラヴィーが安らかに眠れますように...
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